
「Dyson(ダイソン)」といえば、パワフルな吸引力を持つ掃除機や、スタイリッシュな空調家電などを販売するイギリス発のメーカーだ。実は今年、ダイソンが初めてのヘッドフォンを発売した。
ダイソンの英知を搭載した新感覚ヘッドフォン

ダイソン初のヘッドフォン「Dyson Zone」を着用したところ
「Dyson Zone」は家電メーカーであるダイソンが、オーディオリスニングを楽しむために自社開発した最新のワイヤレスヘッドフォンです。
標準モデルの価格が12万1000円(税込、編集部調べ)と、ヘッドフォンとしてはプレミアムな部類に入ります。その理由は、本機がダイソンの得意とする空気清浄と、独自開発によるノイズキャンセリング機能を合体した、ほかに類を見ないユニークな製品だからです。

Dyson Zoneは、空気清浄機能とアクティブノイズキャンセリング機能を搭載するワイヤレスヘッドホンを合体させたユニークな製品だ
とはいえ、いくらユニークな製品だとしても、「そもそも夏の暑い時期に、オーバーイヤー型のヘッドフォンなんて使わない」という人も多いかと思います。そんな人は、このページをブックマークに登録いただいて、ぜひ涼しくなってきた秋以降に読み返してみてください。
先に筆者の総評を言ってしまうと「Dyson Zoneは音質面にも優れ、さまざまな製品の中から選ぶ価値のあるヘッドフォン」でした。
その理由を、次ページから深掘りしていこうと思います。
オーディオリスニングからハンズフリー通話にも活躍
Dyson Zoneは密閉構造のハウジングを採用しているので、アウトドアでも“音漏れ”を気にすることなく、伸び伸びと音楽リスニングを楽しめます。
スマートフォンや音楽プレーヤー機器とは、基本的にBluetoothでワイヤレス接続します。筆者は標準モデルを使用しましたが、ダイソン公式ストアで販売されている限定モデル「Dyson Zone Absolute+」(13万7500円)には、USB-C/3.5mmアナログミニプラグ変換仕様の「機内用ヘッドホンアダプター」が付属。こちらのアイテムを使うと、有線接続にも対応するようです。

ダイソン直販限定モデル「Dyson Zone Absolute+」。価格は13万7500円(税込、編集部調べ) 写真提供/ダイソン
また本体には通話用マイクを内蔵しているので、スマホやPCに接続してハンズフリー通話やリモート会議にも使用可能。

クッション性能の高いイヤークッションとヘッドパッドを採用。長時間装着時のプレッシャーを軽減する
ユーザーの鼻と口にきれいな空気を送り届ける
Dyson Zoneは“身に着ける空気清浄機”でもあります。
左右のイヤーカップに内蔵されているファンが、口もとをカバーする「非接触型シールド」を通して、ピュアな空気を鼻と口に送り届けます。非接触型シールドを口元にあてた状態でも、鼻と口との間にはある程度のスペースが確保されるので、息苦しさはありませんでした。
イヤーカップに内蔵する二層構造の密閉フィルターは「都市のガス」「ウイルス」「0.1ミクロンの汚染物質」など微細な粒子を99%まで捕集、除去する効果があるそうです。ダイソンは、独立した第三者機関による調査も行ったうえで、フィルターの捕集効率をアピールしています。

イヤーカップに内蔵する二重構造のフィルターを通して、浄化された空気が鼻と口もとに届けられる
ただ、実際の効果は使用条件により異なる場合があることや、新型コロナウイルスでのテストは行っていないことも伝えています。つまりDyson Zoneは身に着けているユーザーに「きれいな空気を送り届ける」ために設計されていますが、いわゆる一般的なマスクのようにウイルスなどによる感染防止を目的とする製品ではないことに注意しましょう。
なお、本機を装着した状態で衛生対策もしっかりと行いたい方のために、空気の循環を確保しながら併用できる「コミュニティフェイスカバー」も本体に付属します。このカバーは洗いながら繰り返し使えますが、使い捨てタイプの「FFP2フェイスカバー」もダイソンのオンラインストアなどから購入できます。
アプリでダイソン製品をまとめてコントロール
Dyson Zoneの本体設定やリモコン操作はiOS/Android対応の「MyDyson」アプリで行います。
筆者は自宅でダイソンの空気清浄ファン「Dyson Purifier」を使っているので、アプリを起ち上げると、操作したいデバイスをDyson PurifierとDyson Zoneから選ぶ画面が表示されます。

本体の操作だけでなく、空気質やノイズの状況を可視化するグラフ機能なども備える「MyDyson」アプリ
アプリの画面では、Dyson Zoneの周囲の空気の状況や、使用している環境の騒音レベルが見られます。それぞれの値がリアルタイムに変わる様子が目に見えて楽しい機能ですが、普段はあまり気にしながら使うことはないかもしれません。
一方で、フィルター交換のタイミングやヘッドフォンのバッテリー残量を確認したり、ソフトウェアをアップデートしたりといった際には、本アプリの使用が欠かせません。

ホームネットワークに接続されているほかのDysonプロダクトも、「MyDyson」アプリからコントロールできる
ヘッドフォンの操作は、すべて本体に搭載するボタンで行えます。左側イヤーカップの「送風ボタン」が風量調整、右側イヤーカップのジョイスティックボタンでオーディオの再生・音量調整が可能。マイクで外部環境の音を取り込む「トランスペアレンシーモード」とノイズキャンセリングを切り替えるには、ヘッドフォン側面のパネルを(やや強めに)ダブルタップしましょう。

ホームネットワークに接続されているほかのDysonプロダクトも、「MyDyson」アプリからコントロールできる
非接触型シールドをヘッドフォンに装着したまま、口元から降ろすと送風と音楽再生、ノイズキャンセリングが停止して、マイクで周囲の音を取り込む「会話モード」に切り替わります。この機能が必要ない場合は、アプリから設定をオフにもできます。

非接触型シールドをヘッドフォンに装着したまま、口元から降ろすと「会話モード」に切り替わる。ヘッドフォン側面を強めにタップすると、ノイズキャンセリングと外音取り込みのモードを変更可能
バランスの取れたピュアなサウンドが持ち味
次に、Dyson Zoneの音質をチェックしましょう。

Dyson Zoneのサウンドを、音楽配信のコンテンツでチェックした
さまざまな音源で試したところ、全体にバランスがフラットで、どの帯域の音も押し出しがとてもスムーズ。柔らかくて口当たりのよいミネラルウォーターのように、ピュアなサウンドを耳に届けてくれます。
たとえばヒラリー・ハーンのヴァイオリン独奏曲、ノラ・ジョーンズの静かなボーカル曲にとてもよくマッチしました。
対して、低音は量感や力強さは十分にあるのですが、やや上品な印象を筆者は受けました。米津玄師の『KICK BACK』を聴くとボーカルの艶っぽさが心地よい一方、ベースやドラムスの低音はもう少し「ガツン」ときてほしい印象でした。
そんなときには、「MyDyson」アプリの「イコライザー」を活用しましょう。
低音域を強調する「ベースブースト」をオンにすると、エレキベースのグルーヴやリズムセクションがグンと前に押し出してきて、アップテンポなロックやジャズの楽曲が楽しく聴けました。アクション映画のサウンドにもよく合います。

アプリの「イコライザー」機能を使うと、音のバランスを好みに合わせて変更できる
また、アクティブノイズキャンセリング機能の効果は非常に強力。カフェでは店内BGMや隣で話している人の声がシャットアウトされて、ガッツリと自分の世界に入り込めました。屋外では夏の蝉しぐれも聞こえなくなるほどです。
反対にトランスペアレンシー(外音取り込み)に切り換えると、周りの環境音がとても自然に聞こえます。屋外で歩きながら音楽を聴く際には、必ずトランスペアレンシーに切り換えましょう。ノイズキャンセリングは自動車の走行音が聞こえなくなるほど強力なので、ある意味、要注意です。
課題は内蔵ファンによるノイズの発生
Dyson Zoneは非接触型シールドを装着した状態で身に着けると、見た目にかなりインパクトがあります。なので、空気清浄機としては「使う場所」を選ぶかもしれません。
筆者は、屋外の空気があまりきれいではなさそうな場所を歩くときや、自宅で掃除をしながらきれいな空気に触れたいとき、あるいは春になったら花粉症に悩まされる時期にDyson Zoneを積極的に使いたいと思いました。
なお、非接触型シールドは着脱可能なので、普段は「ピュアなサウンドが楽しめるワイヤレスヘッドフォン」として使うのが中心になりそうです。

シールドを外したデザインは一般的なオーディオヘッドフォンに近いので、気軽に毎日のリスニングに使える
Dyson Zoneを使っているうちに、ひとつだけ課題が見えてきました。それは、静かな室内で空気清浄機能を使うと、本体に内蔵するファンの回転音が気になることです。ファンノイズは周囲にも聞こえてしまうため、周りに人がいる場所では、ファンの送風強度の調整は気に掛けたほうがよいでしょう。
静かなジャズやクラシック、ボーカルものの楽曲を聴いている最中は、ファンノイズが本体の振動として伝わってユーザー自身も気になってしまいます。もう少しファンノイズが気にならないように、今後何かしらの対策も求められそうです。
とはいえ、Dyson Zoneは自社の強みをふんだんに活かした非常に意欲的な製品であることは間違いありません。今後ますますユーザーに使いやすいヘッドフォンになることを期待したいと思います。
文・写真/山本敦