
新型コロナウイルスの流行を経て日本でも一気に導入の進んだセルフレジだが、海外では逆に今、縮小傾向にあるという。そもそもセルフレジは買う側のモラルで成り立っているが、その運用に問題はないのだろうか。
実は日本でも意図的ではない「うっかり万引き」が多発
最近、イギリスやアメリカでは、セルフレジに関するトラブルが多発し、有人レジに戻す店舗が続出しているという。欧米でのセルフレジ離れの最大の原因は「万引き」だと指摘されているのだが、ある調査では5人に1人が商品をスキャンし忘れての「うっかり万引き」をしてしまったことがあるというデータもある。セルフレジは“社会的失敗”だという意見も出てきているという。
なおセルフレジには大別すると2種類あり、商品のスキャンから精算までを購入者がすべて行なう「セルフレジ」と、商品のスキャンは店員が行って精算のみを購入者が行なう「セミセルフレジ」に分かれる。
さて、欧米ではこうした理由から減少傾向にあるというセルフレジだが、一方の日本では増加傾向にあると岩崎氏は言う。
「全国スーパーマーケット協会による2023年の『スーパーマーケット年次統計調査報告書』によると、セルフレジの設置企業の割合は31.1%となっており、2021年と比較すると8%近く伸びていて、今後も増えていくと予想されます。
またセミセルフレジとなると、全国で78.2%の設置率となっており、小型店舗から大型店舗まで幅広く運用されている状況です。総じて考えると日本でのセルフレジ運用は海外と比べて、うまくいっている印象ですね」

海外ではこうしたセルフレジは減少傾向にある
店員が商品をスキャンするセミセルフレジは、目の前に店員がいるため大きな問題はなさそうだが、問題はセルフレジのほうだろう。欧米で主な問題点として取り上げられた万引きが懸念されるが、はたして日本でも増えているのだろうか。
「警視庁『令和元年の刑法犯に関する統計資料』によれば、日本での万引きの認知件数は、2010年時点では14万件を超えていましたが、令和に入ってからは9万件とかなり減少しています。しかしセルフレジを導入するようになって、私が受け持つ顧客の店舗の状況などを見ていると、万引きの件数は若干増えつつあると考えられます」
ただし、故意に万引きに手を染めるケースばかりでもないようだ。
「商品をスキャンし忘れるなど意図せずにうっかり万引きしてしまって、店員に止められるケースはけっこう多いです。
たとえば、ホームセンターやスーパーマーケットなどで、買い物カゴを上下に載せることができるカートを使用する際に、上のカゴの商品だけスキャンして、下のカゴの商品をスキャンし忘れてしまうパターンはありがちです」

「うっかり万引き」には、有料化されたレジ袋をスキャンし忘れる事例も多い
操作がわからない客のために結局、店員を配置…
セルフレジ導入には万引き以外にも問題があるという。
「高齢者など機械操作に不慣れな方はセルフレジの画面操作方法がわからず、そういった顧客に操作方法を教えるための店員がセルフレジ近くに配置されることも珍しくありません。
これは店舗や企業によって取り扱っているセルフレジのメーカーが異なり、操作方法が統一されていないことも、操作を覚えられない要因になっています。いずれにしても人手不足を解消するためにセルフレジを導入したのに、けっきょく人員が必要になっているという本末転倒な状態になっている店舗も多くあります。
かといって、セルフレジの操作方法をフォローする担当の店員を配置しておかないと、操作に手間取っている人の後ろに並んでいる人がイライラして、客同士の喧嘩に発展してしまうケースもあり、ジレンマが出てきているのです」

レジにも「タイパ」が求められる時代に…
すっかり便利になるかと思いきや、セルフレジによって新たな手間やトラブルが発生することもある模様だ。ただ岩崎氏は、日本ではそれでもセルフレジの導入がさらに進んでいくと予想しているという。
「やはり購入者の心理の根底には、時間を節約したいというタイムパフォーマンスの意識があるからです。レジにかかる時間をいかに短くできるかが重要なので、そういった大半の消費者の心理を実現できるのは、やはりセルフレジの利点といえます。
またメリットは消費者側だけでなく企業側にもあります。先ほど操作方法をレクチャーする店員をわざわざ配置しているという話をしましたが、数台のセルフレジを1人の店員が受け持つことができるので、やはり人手不足問題の解決にはその導入で自動化を進めていきたいという意向があるのです。

このようにセルフレジの課題はいくつか残されていますが、今後はセルフレジ数台に対して店員を1人配置するというスタイルで広まっていくのではないかと予想しています。
――欧米では“社会的失敗”と見る向きもあるセルフレジだが、日本では今後も普及していくのか、今後の動向を見守っていきたい。
取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio 写真/shutterstock