家具需要の停滞感で「ニトリ」は「東急ハンズ」と同じ轍を踏むのか…買収した「島忠」を活かせず、PBブランド充実させるも利益率悪化の打開策とは
家具需要の停滞感で「ニトリ」は「東急ハンズ」と同じ轍を踏むのか…買収した「島忠」を活かせず、PBブランド充実させるも利益率悪化の打開策とは

業績が絶好調だったニトリホールディングスに暗雲が立ち込めている。鬼門となっているのが2021年1月に連結子会社化したホームセンターの島忠だ。

買収した当初は6%台だった経常利益率を5年で12%まで引き上げる計画を立てていた。その中核にあったのが、プライベートブランドの充実で粗利を引き上げるという戦略だ。その施策は着実に進んでいるが、島忠の利益率は下がる一方なのである。

日銀の援護射撃もむなしく円安は是正されず

まずは会社全体の業績推移を見ていこう。

ニトリは2023年に決算月を2月から3月に移している。そのため、2023年3月期の数字は13か月と11日だ。2023年3月期に売上高が9481億円となり、2022年2月期と比較して16.8%増と大きく膨らんでいるのはそのためだ。



単純な比較がしづらいため、本業で稼ぐ力を見る営業利益率を見ると、その変遷がよくわかる。2023年3月期の営業利益率は14.8%だった。2022年2月期と比較すると、2.2ポイント落としている。2023年4-12月の営業利益率も14.7%だ。回復していない。

ニトリが利益面で苦戦している要因は3つある。

1つ目は極端な円安に振れたこと。2つ目は国内の家具需要が鈍化していること。3つ目は島忠の業績が回復しないことだ。

製造から物流、販売までを一貫して行うニトリは、生産の多くを海外に依存している。そのため、円安がマイナス要因となりやすいのだ。

2023年3月期は仕入れによる為替の影響がマイナス487億円だった。
2023年4-12月も仕入為替が営業利益を261億円も押し下げている。2024年3月期は1ドル130円で予想を出している。3月25日の時点で1ドルは151円だ。

日銀がマイナス金利を解除したにもかかわらず、円安は是正されない。日本とアメリカの金利差は大きく開いており、わずかな利上げでは微動だにしないのだ。日銀の利上げペースは依然として慎重。
ニトリにとっては円高に期待できた援護射撃が弾切れになったも同然だ。

リモートワークの実施率は7割から4割まで縮小

家具市場の冷え込みも逆風だ。矢野経済研究所によると、2023年の家庭用家具市場規模は6830億円(予想)。前年比3.7%の減少である(「家庭用・オフィス用家具市場に関する調査を実施(2023年)」)。2024年も1.3%の減少を見込んでいる。

家庭用家具のターニングポイントになったのが、新型コロナウイルス感染拡大による自宅時間の増加だ。リモートワークが進んだことで仕事に必要な家具を買う動きが強まった。

2020年の家庭用家具市場は、前年比6.5%増の7069億円だった。

ニトリは2021年2月期の家具販売事業の国内外での売上高が、前期比11.8%増の7040億円と大幅に伸びていた。

しかし、現在は需要が一服して市場は停滞感が漂っている。

東京都の調査では、2023年9月のリモートワークの実施率は45.2%だ(「テレワーク実施率調査結果 9月」)。2023年1月の実施率は50%を超えていたが、4月の新年度で比率は大きく下がった。かつては70%近くまで達していた。


リモートワークが働き方の一つとして残ることは今後も考えられるが、これ以上広がりを見せる可能性は低いだろう。

島忠が本業で稼ぐ力は半減

買収した島忠の業績が回復しないのも頭の痛い問題だ。

ニトリはホームセンター運営大手のDCMホールディングスと島忠の買収合戦を繰り広げた。1株4200円のDCMの提案に対し、ニトリは30%以上高い5500円を提示して島忠を奪いとった。

ただし、それは敵対的TOBではなく、友好的なものだ。買収後、島忠の現場側から突き上げを食らって統合に失敗した様子は見られない。両社が手を取り合ってシナジー効果を生み出そうと奮闘するものの、島忠の業績が上向かないのである。

買収する前の2020年8月期の島忠の営業利益率は6.2%だった。2023年3月期は3.0%だ。ニトリは買収当初、利益率を5年で2倍に引き上げると宣言していたが、3年で1/2以下になったことになる。

島忠はナショナルブランドの販売が中心だった。ナショナルブランドとは、メーカーや問屋が取り扱う商品のことだ。バイヤーは島忠に来店する顧客層や出店場所を見極め、ベンダーから商品を買い付けていた。このビジネスモデルは製造拠点と商品開発部が必要なく、迅速に商品を買い入れて陳列できるメリットがある。ただし、利益率は悪化する。

ニトリ買収後は、プライベート商品を強化した。島忠はプライベートブランド第1弾として、2021年11月にトイレットペーパーとボックスティッシュを販売している。ニトリの商品開発部と製造拠点を活用したのだ。

島忠の岡野恭明社長は、将来的にプライベートブランドを売上全体の4割以上に引き上げるとしている。

ポイントはホームセンター運営のノウハウがないニトリが、島忠の顧客を理解して必要とされている商品の開発をしきることができるかどうかだ。

ニトリがバックアップするプライベートブランド商品は、価格が一つのセールスポイントになるはずだ。しかし、トイレットペーパーやティッシュのような日用品はドラッグストアで十分に事足りる。ホームセンターに足を運ぶ理由にはならない。

島忠は目利きのバイヤーが強みではなかったのか?

島忠の営業利益率は、ホームセンターの競合他社と比較しても著しく低い。直近3四半期の営業利益率は、DCMが6.5%、コメリが6.9%、コーナンが5.7%だ。島忠はその半分にも達していない。

 かつて島忠は競合たちと同じ水準だった。買収後にホームセンターとしての魅力を失ったかのような数字である。

目利きであるはずのバイヤーが力を失って業績が低迷した会社がある。東急ハンズだ。奇しくも島忠と同じく2021年にホームセンター大手カインズに買収された。

東急ハンズは各店舗のバイヤーが独自の裁量権を持ち、出店エリアや顧客層を見極めて最適な商品を仕入れる体制をとっていた。しかし、経営効率の悪さから本部一括仕入れ型に改めた過去がある。経営効率を重視したための施策だが、それによって店舗が魅力を失ったのは確かだ。

島忠が経営効率だけを重視する体制を推し進め、その結果として収益性が下がっている姿は東急ハンズと同じ轍を踏んでいるように見えてならない。

 ニトリ傘下となった島忠は、目利きのバイヤーの意見をどれだけ活かせているのか。言いたいことが口に出せず、親会社の言われるままに商品を仕入れているのであれば危険な兆候だ。正念場の4月を迎える

取材・文/不破聡 写真/shutterstock