
まだ生き残っていたのか-。ニュースで報じられたその組織の名前を耳にした読者の中にはそんな感想を抱いた者も少なくないだろう。
五菱会系のヤミ金にいた男が2018年から稼業を再開
警視庁生活経済課が、国や都道府県への登録なく違法な高金利で金銭を貸し付けたとして5月22日までに逮捕したと発表したのは、東京都の無職の男(44)ら男女4人だ。警視庁担当の全国紙社会部記者はこう語る。
「警視庁の調べで、逮捕された男が法定金利の3~18倍に及ぶ違法な貸し付けを行っていたことが判明しています。男は、こうしたノウハウを五菱会系のヤミ金業者にいた頃に身につけていた。
そこでは、債務の取り立てや客集めの担当をしていたようで、2018年ごろから稼業を〝再開〟していた。今年2月までに約1万5000件の貸し付けをして約6億円の利益を得ていたようです」
男がかつて所属していた「五菱会」の存在が知れ渡ったのは、2003年のこと。警視庁などの捜査で、組織的なヤミ金融システムを構築し、暴利を得ていた実態が判明した。
その後のヤミ金融の徹底取り締まりにもつながったこの事件では、「ヤミ金の帝王」の異名を取った組幹部が中心となって独自のスキームを作り上げていた。
組幹部は、自身が実質支配していた「カジック」というヤミ金業者を頂点としたピラミッド型の組織を構築。
全国のヤミ金を支える「センター」と呼ばれる情報屋の存在
そして、そんな五菱会が構築した集金システムを支えていたのが、ターゲットとする債務者の借り入れ状況などの個人情報を集約する「センター」と呼ばれる情報網だ。
関係者によると、今回、警視庁が摘発した事件で逮捕された男が頼りにしたのも、この情報網だったとされる。
男は、調べに「センターから顧客名簿を提供され、事務所の建物も紹介された」と供述。この「センター」から顧客名簿を入手したほか、ヤミ金融を開業する際に入居した事務所についても紹介を受けていたとされる。
実は、この「センター」なる情報網は、五菱会事件が弾けた後も生きながらえてきたのだという。ヤミ金業界にコネクションを持つ、ある暴力団関係者がこう解説する。
「警察が『センター』と呼んでいるのは、五菱会が使っていた、いわゆる情報屋のことだ。今回はパクられた業者のほうに『元五菱会』というキャッチーな肩書きがあったために派手に報道されたわけだが、取引相手はこの業者に限らない。
センターはいまも全国にヤミ金業者へのネットワークがあり、彼らの商売を影で支える役目を果たしているよ」
特定の業者と契約、アシがつかないようにトバシの携帯で…
五菱会をめぐっては、彼らが確立した手口が、いまも被害が絶えない振り込め詐欺などの「特殊詐欺」の源流になったとの指摘もある。
特殊詐欺グループが、摘発のリスクを避けるために、ターゲットに詐欺電話をかける「かけ子」や詐取金を受け取る「受け子」など、役割ごとに犯罪行為を分業するスタイルを採り始めたのも、五菱会の手口の模倣ともいわれる。「センター」もそうした五菱会の〝負の遺産〟のひとつだというのだ。
「ヤミ金業者が相手にするのは、消費者金融など正規の業者から借り入れができなくなった多重債務者たち。
彼らのシノギの材料は、あくまで情報で、(ヤミ金業者が対象となりやすい)貸金業法違反という違法行為に直接加わることはない。
ただ、今回のように事件が捲れたら、共犯としてパクられるリスクもある。だから、オレの知っているセンター(情報屋)は、不特定の人間と情報の売り買いをすることはない。
そいつは、ヤミ金全盛期の90年代後半からシノギを始めて、事務所も構えずにずっとフリーでやってきている。年は40代。サブスクじゃないけど、特定の業者と契約を結んで、その業者の面倒を見て食ってるというわけ。
彼は用心深くて、業者とは互いに架空名義で契約したトバシの携帯を使ってアシがつかないように気をつけているって話だよ」(同前)
1人につき1000円、最も高いのはサラ金が保有する信用情報
では、彼らが売り買いする債務者の情報はどのようにやりとりされ、どれぐらいの〝値段〟がつくものなのか。自身も2000年代初期に業界に身を置いていた元ヤミ金業者はこう内幕を明かす。
「商売を始めるときには種銭のほかに個人情報が必ず必要になる。情報屋から、債務者の信用情報を買い取る時の取引方法は、『歩合型』と『買い取り型』の二つに大別できる。
で、歩合の場合は、貸付額の5パーセントが相場。
一番安価なのは、官報の情報をまとめたもので、これは1人当たり30円が相場。情報屋が自分のネットワークで拾ってきた情報になると、1人につき100円ぐらい取られることもあった。
最も高いのは、サラ金が保有する信用情報。生年月日と住所、名前、運転免許番号で照会をかければ借り入れ状況が一発でわかる。自分も含めたヤミ金業者の多くは、サラ金にいるネタ元からこっそり情報をもらっていた。その場合は、1人当たり1000円が相場だった」
平成期に世間を震撼させた五菱会事件から20年余。バブル崩壊から経済的な没落を続ける日本社会と歩調を合わせるように、弱者を食い物にする犯罪は、ヤミ金から振り込め詐欺へと形を変え、そのありようも悪質化、巧妙化の一途をたどっている。
消え去ったはずの五菱会の名が、令和の世に再び取りざたされたということは、社会の裏側で、弱者を食い物にする犯罪の構図が、今も変わらず残り続けていることの何よりの証左だろう。
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取材・文/集英社オンラインニュース班