
日本のモバイルゲーム市場の崩壊が鮮明だ。ゲームの分析プラットフォームを提供するSensor Towerによると、2023年の日本のモバイルRPGの市場は17%縮小した(「2024年世界のモバイルゲーム市場予測」より)。
カリスマが手がけたタイトルもユーザー離れが加速
モバイルゲーム市場の急速な縮小にゲーム会社は頭を悩ませている。
「モンスターストライク」のMIXIは、2024年3月期のデジタルエンターテインメント事業は5.3%の減収で着地した。10周年記念という大型イベントがあったにも関わらず、売上を拡大することができなかったのだ。
「パズル&ドラゴンズ」のガンホー・オンライン・エンターテイメントは、2023年12月期の韓国グラビティを除いた売上高が、前期の2割減。かつて会社の成長をけん引したパズドラは失速し、収益を支えるのはグラビティが開発する韓国で人気の「ラグナロク」となった。
グリーも冴えない。2023年7月-2024年3月のゲーム・アニメ事業は3割の減収。通期で2割程度の減収を見込んでいる。グリーは日本のモバイルゲームが置かれている状況を体現しているかのようだ。
2022年2月10日にリリースした「ヘブンバーンズレッド」は、リリースからわずか3日で100万ダウンロードを突破した大ヒット作だった。このタイトルは「CLANNAD」や「リトルバスターズ!」など、根強いファンを持つ“泣きゲー”界のカリスマ麻枝准氏が脚本を手がけた大作だ。
かつて、モバイルゲームは大ヒット後の反動は緩やかだった。しかし、現在の減衰ペースは速い。「ヘブンバーンズレッド」のリリース後、グリーのモバイルゲームの2023年6月期の売上高は、前期の1割の減収。2024年6月期は第3四半期の段階で売上高は3割縮小している。
このゲームは開発に5年の歳月を要した。ユーザーはクオリティを重視しており、開発期間は長期化の傾向が進んでいる。制作陣が満を持してゲームを世に送り出し、たとえヒットさせたとしても2桁のペースで減衰してしまうのが現実なのだ。
早くも人気を失った「メメントモリ」
一時期は盛んにテレビCMを放送していた「メメントモリ」も失速が鮮明だ。
このゲームを開発した、バンク・オブ・イノベーションの2023年10月-2024年3月の売上高は前期比43.8%減の78億円。ゲームのリリースは2022年10月18日だった。すでに売上は4割以上も縮小したのである。
ヒットさせる確率そのものも下がっている。
gumiは2023年8月28日に「アスタータタリスク」をリリースした。名作と呼ばれる「ファントム オブ キル」を手がけた今泉潤氏のプロデュース作品だ。この作品は大コケし、このゲームの開発費に当たるソフトウェア資産28億円の減損損失を計上した。
「アスタータタリスク」は、ユーザーの評判そのものは決して悪いものではない。グラフィックのクオリティも高く、世界観やキャラクターも練り込まれている。それでもヒットしないところに、今のモバイルゲーム市場の厳しさが現れているだろう。
gumiは今後、モバイルゲーム開発において、「アスタータタリスク」のようなオリジナルタイトルから手を引くことを決定した。
「アイドルマスター」で知られるバンダイナムコホールディングスは、2024年3月期にゲームタイトルの見直しに伴う開発中止による処分損210億円を計上した。
スクウェア・エニックス・ホールディングスも、同じタイミングでコンテンツ開発の中止に伴う220億円のコンテンツ等廃棄損を出している。多くのゲーム会社は方向転換を迫られているのだ。
モンストを海外に根づかせようと苦心したミクシィ(MIXI)
日本のモバイルゲームの主役は、ガチャを課金ポイントとしたガチャゲーだ。しかし、これは日本独自の文化で、ガラパゴス化している。
市場調査を行うアスマークの「【日・米・中】ソーシャルゲームに関する調査」によると、日本人がモバイルゲームで重視する上で77%と高い比率を占めるのが「キャラクター」だ。更に「操作性の良さ」が73%と大きな比重を占める。
その一方で、アメリカや中国は「グラフィックの質の高さ」や「エンターテイメント性」を求める。
日本では特定のキャラクターに課金をする“推し活”と呼ばれる文化が定着しているが、それがモバイルゲームにも当てはまるのだ。
しかも、操作性が良く簡単に遊べるものを求めているため、課金とガチャでキャラクターの収集や育成を行うガチャゲーが市場に最適化した。
グラフィックやエンターテイメント性の高さを求めるアメリカや中国は、戦略的にゲームを進行させることに面白みを感じている。課金でキャラクターの育成を楽しむ日本のゲーム文化とはまるで違うのだ。
ミクシィの「モンスターストライク」は中国やアメリカなど、海外進出を何度も試みている。しかし、撤退を重ねているのが現実だ。
ミクシィは業績の膠着状態を打開するため、インドへの進出をぶち上げた。しかし、ガラパゴス化した日本のガチャゲーを海外で定着させるのは難易度が高い。
ゲームで海外展開を行う際、現地の文化や風俗などに適合させるローカライズという工程を経るが、その領域を遥かに超えているように見える。日本とはモバイルゲームの楽しみ方が異なるからだ。
ガチャ課金の罠に陥っているのは会社も同じ
日本のモバイルゲームを嘲笑うかのようなタイトルが市場を席捲している。中国のmiHoYoが開発した「原神」だ。2022年度の売上高は5300億円。「原神」のユーザー数は全世界で6500万人を超えている。
プレイヤーの自由度が高いゲームで、ミッションに追われるわけではない。ガチャゲーのような焦燥感に駆られることがないのだ。
日本のガチャゲーは競争をベースとしており、初心者は強力な課金勢から排除される傾向がある。ユーザーが固着化し、新たなユーザーが定着しないために売上成長しないのだ。
その一方で、「原神」はプレイヤー間の競争性をなくし、ライト層を重視した作りになっている。このゲームは難易度が低く、豪華声優陣を起用したキャラクター重視型でもある。
現在の日本のゲーム業界において根深い問題なのが、ガチャゲーを開発してきた会社が他のゲームを作れなくなってしまったことだ。
モバイルゲームは多額の開発費が必要になっており、ヒットからの減衰スピードも速まっている。当然、プロデューサーは企画段階で多額の課金ポイントを作らねばならず、手っ取り早いガチャ要素を入れようとするだろう。
広告やサブスクリプションなど新しい課金ポイントを企画書に盛り込んだとして、成功事例が少ないそのアイデアで意思決定者が数千万円から数億円の予算をつけるとは考えづらい。
モバイルゲームは国内のゲーム会社の成長をけん引したが、ガラパゴス化の罠にはまっているように見える。
取材・文/不破聡