
高齢になると「腰をかがめるのがツラい」「汚れが見えにくい」といった理由で、トイレの使い方や掃除が雑になりがちだという。年末年始、帰省でもした際には、高齢の親が片付けにくいと感じている3つの場所をしっかりきれいにしてあげようではないか。
本記事は書籍『親への小さな恩返し100リスト』より、抜粋・再構成したものです。
70代後半以降は、身体機能や認知能力の低下が短期間で進む
親と離れて暮らしているみなさんは、どれくらいの頻度でコミュニケーションを取っていますか?
「最後に話したのはいつだったっけ……」
とクビをかしげた人は、親を心配させているかもしれません。便りがないのは元気な証拠、という言葉もありますが、子の音沙汰を気にしない親はいません。週に一度は電話をするなど、定期的な連絡は、信頼できる親子関係を保つ基本だと私は思います。
例を挙げると、母親に週に一度は手紙を書いている40代の筆まめな女性がいます。また、仕事で地方に行くことが多い50代の男性は、出張先から地元の名産品などを実家に必ず送っています。そういった子の側の能動的なアクションが、親に対して「つながっている」という安心感を与えるのです。
そして、これ以上ない能動的なアクションが「直接会う」こと。家庭や仕事の都合で盆と正月くらいしか帰省できない人も多いかと思いますが、それならなおさらのこと、帰省したときは思いっきり親に恩返しをしてください。
直接会っているからこそできることはたくさんあります。たとえばスキンシップ。大人になってから、親と手をつないだことはありますか?
「ない」と答える人が圧倒的だと思います。まだ親が若ければ、照れくさいのは当然です。
身体感覚を伴う刺激は、目や耳から受け取る情報よりも深く記憶に刻まれます。恩返しの気持ちも、スキンシップがともなえば文字や言葉以上に強く親に伝わるに違いありません。帰省は、親の体調や生活状態を把握する機会でもあります。
老いとともに、以前できていたことができなくなっている場面にも遭遇するかもしれません。というより、むしろそういう変化がないかを確認してください。
もちろん個人差はありますが、70代後半以降は、身体機能や認知能力の低下が短期間で進むケースも。とりわけ一人暮らしの場合は、自分の外見や身の回りのことに行き届かなくなり、不便を不便だと思わずに生活することも珍しくありません。
親ができなくなった家事や雑用をフォローしてあげるのは、同居の子ならすぐにもできる恩返しです。
冷蔵庫の中を一緒に片付ける
実家の冷蔵庫の中を整理したことはありますか?高齢世代には、「食べ物は冷蔵庫に入れておけば悪くならない」という〝冷蔵庫神話〟が少なからずあります。帰省したら、消費期限が切れた食材が眠っていないかチェックしてみましょう。同様に、食品庫などに保存してある乾物や缶詰も忘れずに確認を。
期限切れの食品とはいえ、勝手に捨ててしまうと親の機嫌を損ねることがあります。食料品は「消費期限内に食べ切る」ことを再認識してもらう意味でも、冷蔵庫や食品庫のチェックは親と一緒に行うことが肝心です。
賞味期限なら数日過ぎても食べられるものもあります。捨ててしまうより、消費期限が迫っている食品などと一緒に調理して食卓に並べたほうが、親も「もったいない」という不満を抱かずに済みます。
足腰が弱ると、居間から冷蔵庫まで飲み物を取りに行くのがしんどくなる人もいます。そんなときは、居間にミニ冷蔵庫を置くのも喜ばれる恩返しになるでしょう。
親の手が届かない場所の掃除をする
高齢になればなるほど〝手の届かない場所〟は増えてきます。私が仕事で訪問する高齢者のお宅でも、掃除が行き届かなくなって汚れ放題になっている場所を目にすることがしばしばあります。思いつくままに挙げてみましょう――。
ベッドの下、照明器具の傘の上、エアコンのフィルター、換気扇、キッチンや風呂場の排水溝、ガスレンジの下や裏側、神棚、タンスの上、ベランダ、網戸……。
帰省したとき、もしも汚れている場所があったら掃除してあげてください。親にもできることがあれば協力してもらいましょう。わが子と一緒に家の中をきれいにすることで喜びも増すはずです。
滞在日数に余裕があれば、押し入れや納戸を掃除するのもおすすめです。自分が幼い頃に遊んだおもちゃや、学生時代の成績表などが出てくるかもしれません。そんな思い出の品々を話題にして親とお茶でも飲めば、会話もきっと弾むことでしょう。
トイレをすみずみまで掃除する
「実家のトイレが汚くなったなと思ったときに、母の老いを感じました」と話していた50代の女性がいます。
「ご不浄」という言い方もあるように、トイレは家の中で一番汚れやすい場所。
常に清潔に保っておきたいですが、高齢になると「腰をかがめるのがツラい」「汚れが見えにくい」といった理由で、掃除が雑になりがちです。トイレの汚れは、親の老いを知るバロメーターといってもいいでしょう。
トイレは他人に見せたくない姿になる特殊な空間です。そういう場所の掃除は、「年を取っても子の世話にはなりたくない」と考えている親にしてみれば、頼みにくい。だからこそ、頼まれる前に子の側から買って出ることに意味があります。
トイレをきれいに掃除してあげれば、親は喜びと同時に、「申し訳ない」という気持ちも抱きます。その気持ちを汲み取って、「親子だから気にしないで」と言葉を掛けてあげてください。
これは心理学でいう〝共感的理解〟という態度で、相手との信頼関係を深めるコミュニケーション技法でもあります。恩返しをしたいと思う皆さんの慈愛が実直に親の心に伝わるでしょう。
掃除とともに、親がトイレを快適に使うための配慮も怠らないように。シャワートイレや暖房便座などの設備は整っていますか? 見落としやすいのは補充するトイレットペーパーの置き場所。
トイレ内の高い棚の上にストックしている家を多く見受けますが、背伸びをして高所にあるものを取る動作は転倒の原因にもなります。市販のホルダーなどを使い、取りやすい位置にストックする工夫をしてください。
また、立ったまま洋式トイレで小をする男性もいます。これは飛沫が散ってトイレが汚れる原因の最たるもの。父親にも掃除の苦労をわかってもらい、座って用を足すことに慣れてもらいましょう。
イラスト/書籍『親への小さな恩返し100リスト』より
写真/shutterstock
親への小さな恩返し100リスト
田中克典
離れて暮らす親は気づけばもう70代。
その姿を見ると、仕事や家庭の事情などで、ずっと一緒にいてあげることはできないけれど、「いつかなにか親孝行、恩返しをしたい」という気持ちが湧き上がってきます。
ですが、そう思っているうちにも、親は確実に老いていきます。
もしかすると、恩返しができるタイミングを失うかもしれません。
ケアマネジャーとして、介護の現場に長く身を置いてきた私は、そういった子の「後悔」の声を幾度も耳にしてきました。
「もっと好きなごはんを食べさせてあげればよかった」
「もっと一緒に旅行すればよかった」
「もっと話を聞いてあげればよかった」
そんな後悔をしないために、そして親に幸せな晩年を過ごしてもらうために、「恩返し」を始めませんか。
何をすればいいのか、何から始めればいいのか、考え悩む必要はありません。離れて暮らしていてもできる、また、次の帰省時にすぐできる「小さな恩返し」はたくさんあります。
この本ではそんな「小さな恩返し」を12の章に分けて、計100項目をリストアップしました。
できることから一つずつ始めることで、親は「いつまでも元気でがんばろう」という生きる意欲と気力を呼び起こすことでしょう。