
AKBを卒業してはや12年。昨年はドラマ『離婚しない男・サレ夫と悪嫁の騙し愛』で演じた不倫妻役が評判を呼んだ篠田麻里子。
嫌われてもいいけど、嫌われたくない
――昨年放映されたドラマ『離婚しない男・サレ夫と悪嫁の騙し愛』での演技は大きな評判を呼びました。“嫌われてもいい”という覚悟で臨んだということですが。
篠田麻里子(以下同) 嫌われてもいいとは思っていましたが、でもどこか嫌われたくないっていう部分も残っていたんですね。話が来たときは率直にうれしかったけど、これまでとは違う挑戦をしなきゃいけない役柄だったので、やるって決めていながら、いけるかな? どうすればいいんだろう? みたいな不安がありました。
でも、現場で小池(徹平)さんが役になりきったときのプロ根性を見て、自分の中のスイッチが入りました。ちゃんとやらないとつまらないものになるから、恥ずかしいとか、どう思われるだろうとか、気にしないスタンスになりましたね。
――昔のインタビューでは「自分は役者に向いてない」という発言をされていました。
なにかを作ったり自分を表現したりすること自体は得意だと思うのですけど、自分の中にあるものをドラマで晒されるのが恥ずかしかったんですよね。
アイドルって表ではキラキラしているけど、裏の弱い部分はあまり見せずに、みんなの思うアイドル像でいたいんです。それは、お芝居とは対極だと思うので、わりと苦手な分野ではありました。
カメラを向けられるとアイドルは決め顔をしちゃうけど、女優さんは逆に自然体としたままのほうがよかったりするじゃないですか? でも、そういう顔ができない自分がいて、苦手意識があったんでしょうね。
――それが変わったきっかけはなにかあったんですか?
AKB卒業後に映画監督の演技ワークショップに参加して、台本の読み方・捉え方を実践して、そこで恥をかくことやまわりの人たちに俳優の体験談を聞くことが自分の経験になって、徐々に楽しさを知っていきました。
――場数を踏むことで、演技が楽しくなっていったという。
完璧主義なので、正解がわからないと悩んで迷子になる時期があるんです。正解がないと納得できないんですよ。でも演技って正解がないじゃないですか。それでモヤモヤしてたんですけど、やっていくうちに腑に落ちることが増えてきて、いろいろな楽しさが分かるようになってきました。
もともとメンタルが強いわけじゃない
――篠田さんはメンタルが強そうなイメージがありますけど、そういう風に悩んで落ち込むこともあるんですね……。
強そうってよく言われます(笑)。そう思われるからこそ、弱みを見せづらかったんですよ。私は強いわけじゃないけど、切り替えは早いんです。落ちるときはとことん落ちるんですけど、そこからはすぐに、“もうしょうがない”ってスタンスで切り替えるんです。
――落ち込むときもあるけど、それを引きづらない?
バッシングに対してのメンタルでいうと、AKBの頃って2ちゃんねる全盛だったので、ネットで叩かれる誹謗中傷ってわりと当たり前で。そのときに打たれ強くはなったかな。
あと、握手会で直接きつい言葉を言われることも会ったし、「辞めればいいのに」とか。それは私だけでなく、他のメンバーも同じだったと思います。そういう意味では、しごいていただいたかなって思います(笑)。
――直接言われるとキツいですね。
でも、私、心は鍛えられるって思うんです。筋トレと一緒で、練習を経て、鍛えていくじゃないですか。そういう意味で、自分を鍛えてもらったというか。
もともとメンタルが強いわけじゃなくて、自分なりにきついことを経験しているからこそ、相手への思いやりとか気持ちもわかるし、そのときにどう復活するかも学んできているから、強くなってきたんだろうなって思います。
――メンタルの強さといえば、AKB時代の「私を潰すつもりできてください」という発言が印象的ですが。
あれは強気というか。AKBって何百人もいたから、総選挙でダメだったからもういいやって、腐っちゃう子もいるんです。でも、芸能界に夢を持って入ってきているのにそこで腐ったらもったいないじゃないですか。
というのも、私も悔しかったときがたくさんありました。アイドルになりたい子はみんな自分が一番と思っているのに、順位をつけられてしまう。その悔しさはわかるけど、せっかく今あるチャンスを潰さないで活かせる場所があればいいなって思ったんです。
――発奮材料としての挑発だったと。
あの発言をした後に、中間管理職の方から 「ありがとう」ってDMをたくさんいただいたんです。後輩から「先輩たちがやめないから僕たちできないんですよ」って言われる側の人たちの気持ちを代弁してくれたって。普通の企業とか社会でもそういうことあるよねって受け取ってくださった方も多かったみたいでした。
#2に続く
取材・文/高田秀之 撮影/杉山慶伍