“球界の野良犬”愛甲猛氏「星野監督の恐怖の赤信号」「命がけの麻雀」昭和のパワハラプロ野球界を赤裸々告白
“球界の野良犬”愛甲猛氏「星野監督の恐怖の赤信号」「命がけの麻雀」昭和のパワハラプロ野球界を赤裸々告白

 “球界の野良犬”愛甲猛氏に振り返ってもらう、コンプライアンスなんて言葉はなかった1980~90年代のプロ野球界。当時の選手たちの奔放すぎる女性遊びの実態から、球界の古き悪しき(?)パワハラ文化を愛甲氏が明け透けに話す。

(全3回の2回目)​

麻雀でもゴルフでもパワハラの嵐

#1 選手たちの奔放すぎた女遊びの実態

――女性遊びもせずマジメで有名な村田兆治さんも麻雀をすると人が変わってしまうんですね。

愛甲猛(以下、同) 当時の球界の麻雀エピソードはいくらでもあるよ。昔は遠征先のホテルに必ずジャン室(麻雀室)を用意してくれてたから。

――誰が強かったんですか?

落合(博満)さん。静かに打ってるんだけどめちゃくちゃ強い。絶対にフラないから、野球だけじゃなくて麻雀でも人の心を読むのが得意だったんだろうね。

逆にイケイケなのが有藤(通世)さん。俺が20歳くらいのときかな。大阪遠征で有藤さんと吉岡(邦広)さんたちと麻雀してたんだよ。それで俺がリーチをかけて有藤さんの捨て牌で「ロン」と言って牌を倒そうとした瞬間、有藤さんがドスのきいた声で「アガれるもんならアガってみろや」とすごんできて。

――怖すぎる(笑)。

それで45度まで倒しかけた牌を指の力を目一杯つかって引き戻したよね。大した役でもないのに命は懸けられない(笑)。

プロ生活であんなに指先の力をつかったのは後にも先にもあれだけだよ。

――パワハラ麻雀ですね。

あの時代はパワハラだらけだよ。ゴルフでも、ミドルホールを2オンしてすごく長いバーディパット打とうとしたら、カップに何かが入ってる。「葉っぱでも入ってるのかな」と思って見に行ったら、それが1万円札だった。すると、前の組で回ってた有藤さんが「おい猛! 入ったらやる。外したら払え!」って。

――メチャクチャですね。

カネやん(金田正一)もひどかった。一緒にラウンドを回ってて、最終ホールのパーパットを決めれば俺の勝ち。だけどカネやんはカップの前に仁王立ちして「入れれるもんなら入れてみぃや」って。

――その脅しは、ロッテの伝統なんですか……。

金いっぱい持ってるんだからいいじゃんと思うけどね。あの人たちは本当に負けず嫌いだよ。

巨人戦敗戦後の星野監督の恐怖

――今の選手はタバコもだいぶ吸わなくなりました。

昔は8~9割の選手は吸ってたんじゃないか。1イニング終わるごとにみんなロッカーへ吸いに行ってたよ。

ロッテの投手の水谷(則博)さんなんて、喘息持ちだったから吸入器を使ってたんだけど、麻雀をしているときに吸入器を使いながらタバコ吸ってたからね。それ意味ないって(笑)。

――パワハラといえば(?)、中日時代は“闘将”星野仙一さんが監督をやってらっしゃいましたね。

本当にヤバかった。ビジターのジャイアンツ戦に負けた後なんてとくにヒドくて……。(宿泊先の)赤プリ(赤坂プリンスホテル)まで帰るバスの中なんて、一番前の席に座ってる(星野)監督が超イライラしてるから、みんな下を向いて誰もしゃべれない。完全にお通夜状態。

それで信号が黄色になってバスの運転手がブレーキを踏んで停車しようものなら、監督が近くにある冷蔵庫をガーンと思いっきり蹴っ飛ばすんだよ。

――運転手さんは生きた心地がしなさそう……。

監督はとにかく早く帰りたかったみたい。だから運転手の横の補助席に座ってるチームマネージャーが運転手に向かって「次、赤信号で止まりそうだったら、罰金はこちらで払うんで、手前の進入禁止の路地、入っちゃってください」って懇願してて(笑)。

――もはやコンプラどうこうのレベルじゃないですね。

でも、星野さんは負けたら怒るけど、次の日はケロっとしてる。それにミーティングでのしゃべりが本当に上手で、政治家になったほうがいいんじゃないかってくらい引き込まれたな。

俺は8人の監督のもとでプレー経験があるけど、星野さんが唯一だったね。勝ったときの第一声で選手に「ありがとう」って言ってたのは。

――昭和の男って感じです。

あの時代はパワハラだらけだったけど、先輩たちの面倒見も本当によかった。今の時代ってなんかドライだよね。

――#3では、現在のプロ野球界に愛甲さんが思うことについて聞きます!

#3へつづく

愛甲猛●1962年8月15日生まれ。神奈川県逗子市出身の元プロ野球選手。左投左打。1980年には夏の甲子園でエースとして優勝を果たす。同年ロッテオリオンズに入団、1995年オフに中日ドラゴンズへ無償トレード移籍。2000年に引退後は野球解説者、俳優として活動。現在、YouTubeチャンネル『愛甲猛の野良犬チャンネル』を運営中。

取材・文/武松佑季 撮影/村上庄吾

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