〈父親の育児うつ〉「夫婦とも精神的にギリギリだった」 地方移住と次女出産が重なり、長女は赤ちゃん返り…第二子以降の育児の苦悩とは
〈父親の育児うつ〉「夫婦とも精神的にギリギリだった」 地方移住と次女出産が重なり、長女は赤ちゃん返り…第二子以降の育児の苦悩とは

産後1年以内に10人に1人の確率で発症すると言われている母親の「産後うつ」。経産婦より初産のほうが発症リスクは高いというが、第二子以降もそのリスクは十分にある。

新生児の世話をしながら他の子どもを見なければならず、休息時間を確保できないなどキャパオーバーで発症するケースが多いという。しかし、共に育児に参加する父親だって例外ではない。第二子を子育て中にメンタル不調に陥った父親に話を聞いた。

移住直後に第二子誕生、長女は赤ちゃん返り

「次女が生まれたタイミングで長女が赤ちゃん返りし、睡眠時間も確保できず、夫婦ともども精神的にギリギリの状態でした」

そう語るのは、山口県下関市に住む会社経営者の斉藤圭祐さん(36歳)。現在は妻と二人の娘(5歳と3歳)と笑顔に満ちた穏やかな日々を送っているが、次女が生まれた約5カ月後に、斉藤さんはメンタル不調に陥ってしまったという。

コロナ禍真っただ中の2020年、待望の長女が誕生。経営者として働く斉藤さんは、新規事業を展開しつつ、在宅勤務との併用で仕事と育児の両立を図った。

「長女は、妻がいないと泣きわめいて寝つかないタイプでした。しんどそうな妻を見て『仕事も育児も自分がもっと頑張らないと』と、思っていました」(斉藤さん、以下同)

住居の契約更新が近づいていたことやコロナ禍も後押しし、家族それぞれのニーズや育児環境などのバランスを踏まえ、静岡県から山口県下関市に移住を決めた斉藤さん一家。その数か月後には次女が誕生したが…。

「次女が生まれたときには2歳上の長女がイヤイヤ期に突入し、保育園の送り迎えの車に乗るのも嫌がって暴れるようになりました。さらに赤ちゃん返りもし始めて、夜泣きが激しくなったり、今までできていたことができなくなる様子を見て、こちらも感情的に強く当たってしまい、そのたびに罪悪感にかられました。

さらに移住直後だったこともあり、気軽に頼れる両親もいなければ、愚痴を吐ける親しい友人も少なく、雑談もオンライン上の限定的な会話に絞られました。

移住は妻の方が望んでいましたが、想定できていなかった部分も多かったです」

よりよい環境を求めて移住したが、タイミングが出産時期と重なったことで、夫婦の孤立感を深めることになってしまったという。

メンタル不調後に、夫婦で取り組んだのは…

次女が誕生して5カ月が経つ頃には、斉藤さんにも明確に異変が生じ始めた。

みぞおち付近の痛みが続き、仕事中に突然涙が溢れたり、前向きな考え方ができなくなるなど、感情のコントロールが難しくなっていった。

「自分が倒れたら家族はどうなるのか」と感じ、心療内科を受診したところ、メンタル不調であることが分かった。

「僕は性格的に気にしすぎる性格なので、先回りしていろいろやろうとしてしまい、逆に苦労してしまった部分もあります。子どもが二人になると、気にすることも倍になるので、長女が泣いたら、次女が起きないようにしなきゃとか、環境をケアすることを気にしすぎて、疲れてしまった部分もあります」

メンタル不調の診断を受けたことで、以前から取り組んでいたオンラインカウンセリングを本格的に始めた斉藤さん夫婦。定期的に受診を続けることで一定の効果も得られた。

「これまで家庭やパートナーシップの課題について、『解決せねば』と真剣に向き合いすぎていたことに気付きました。無理して解決しようとせず、一旦問題と距離を置きながら日々を過ごしていくことも大事なんだと気づくことができました」

ほかにもプロテインとビタミンを豊富に含んだ食事メニューに切り替えたり、睡眠コンサルタントに依頼して寝室の環境を整えるなど生活環境を少しずつ改善していった。

その後、2人の娘が保育園に入園。生活リズムも整って余裕が生まれたことで、1年以上かけて心身の不調は寛解に至ったという。

産後のパートナーシップの注意点とは

専門家によると、母親の産後うつは、ホルモンバランスの急激な変化や育児の疲労などにより、産後2週間~1カ月をピークに発症しやすいと言われており、経産婦より初産のほうが発症リスクが高いといわれている。

だが、人によってタイミングも症状もバラバラで、1人目のときに発症しなくても2人目、3人目のときになることも珍しくないという。

一方、父親の育児うつは、「父親のすべきことが増えてくる」産後3~6カ月のタイミングでピークを迎えることが多いとされ、国立成育医療研究センターの調査によると、夫婦が同時期にメンタルヘルス不調に陥るリスクは3.4%にも上ることが分かっている。

長野県にある信州大学医学部付属病院では、育児に関する父親のメンタル不調などを専門に取り扱う「周産期の父親の外来」が新設されるなど、近年は父親への育児支援も徐々に広がりをみせている。

改めて斉藤さんに、当時の状況を振り返ってもらった。

「まず自分自身の経験からも転居や転職など環境やリズムの変化は、出産と同じタイミングで起こさないほうがいいと思いました」

結婚や出産、職場の昇進など、喜ばしいとされる環境の変化でも、人によっては大きなストレスとなり、うつ病などメンタル不調を招く一因になる。さらに産後のパートナーシップに関しても斉藤さんはこう振り返る。

「産前産後と女性側にどういう変化があってどのような対応が求められるのかという知識が少なすぎて、探り探り接してぶつかることが多かったです。

母親の『産後うつ』のピークが過ぎても、すぐに体力や精神面が戻るわけではない。産後1~2年はいろんなことが起こるので、産後ケアや第三者の支援先、または全体像を知るツールや機会がより一般化してほしいと思いました。

そして何より産後は女性も精神的に余裕がなくなり、まともに話し合う機会がもちづらい。トラブルが発生してから話し合うのではなく、平常時から話し合う練習をしておくことが大事だと感じました」

取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部

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