〈石破首相、安倍政権の“負の遺産”を一掃か?〉参院選目前にウラ金問題の参考人聴取と「森友学園問題」の上告が断念された本当の目的
〈石破首相、安倍政権の“負の遺産”を一掃か?〉参院選目前にウラ金問題の参考人聴取と「森友学園問題」の上告が断念された本当の目的

「裏金」というキーワードが再び、人々の関心を集めたのは2月27日のことである。この日、安住淳委員長(立憲民主党)を筆頭とする衆議院予算委員会の理事らによる「旧安倍派」の事務局長への参考人聴取が都内のホテルで行なわれた。

マスコミ非公開で行なわれた「密室」での聴取では、政治資金パーティーを巡る「資金還流」のスキームが改めて語られた。「政治とカネ」の問題が再燃する中、永田町で囁かれているのが、今夏の参院選を目前にした石破茂首相の狙いだ。「首相は一強多弱の構図を築いた“安倍政治”との決別の総仕上げをしようとしている」(永田町関係者)―。「旧安倍派潰し」の最終章が幕を開けた。 

会計責任者として資金の流れの全容を知る松本淳一郎氏

「本来ならご自身がお話しすることだと思います。お名前の言及は差し控えます」 

自民党内でかつて最大勢力を誇っていた派閥「清和政策研究会(清和会)」、いわゆる「安倍派」でかつて事務局長を務めた松本淳一郎氏は、対峙する衆院予算委の理事にこう答えたという。 

永田町にほど近い東京・虎ノ門にあるホテルオークラ東京。2月27日、数々の政治ドラマの舞台となったこのホテルでこの日、衆院予算委の理事らによる自民党の派閥解体の引き金となった「政治資金問題」についての聴取が行なわれた。

還流の再開を求めた『ある幹部』とは誰か—。

問題の核心部分ともいえるこの質問に対する回答として松本氏が発したのが、冒頭の発言だった。

「2023年の年末から政治問題化した自民党の派閥による政治資金問題とは、政治資金パーティーを巡るパーティー券収入の政治家への『資金還流』が、その実態でした。おもに当時の安倍派と二階派(志帥会)で広く行なわれ、派閥から課された議員へのノルマの超過分が、政治資金収支報告書に不記載で議員に還流されたのが『キックバック』とされた。

そして、そのスキームが政治資金規正法に問われ、東京地検特捜部による会計責任者らの立件につながりました。

旧安倍派では、このスキームは森喜朗元首相が派閥の長を務めていたころから続けられていたとされています。

安倍晋三元首相が派閥を受け継いだ直後に見直されることになったのですが、いつの間にか還流が再開されることになっていた。この再開の判断をしたのが誰なのか、というのがひとつの焦点になっていました」(全国紙政治部記者)

会計責任者としてその資金の流れの全容を知る立場にあった松本氏の証言は重要な意味を持つ。

その点を踏まえ、衆院予算委の聴取では、収支報告書への「不記載スキーム」を始めたのは誰か、いつ始まり、どのように引き継がれたのかといった質問が重ねられた。

聴取後、報道各社取材で明らかになった還流再開を決めた「ある幹部」の実名

冒頭のような含みのある物言いで松本氏がその存在をほのめかしていた還流再開を決めた「ある幹部」の実名は、報道各社の取材ですぐに明らかとなった。

「旧安倍派の幹部で、事務総長を務めた下村博文元文部科学相です。メディア各社が、松本氏が特捜部の捜査で、『再開を求めたのは下村氏』という趣旨の供述をしていたことを特捜部への取材をもとに一斉に報じたのです」(前出の記者)

その一報は、衆院予算委の聴取が行なわれたその日のうちに報じられた。

名指しされた形となった下村氏は27日、自身のX(旧ツイッター)で「還付再開を決定した場にいたという事実は一切ありません」と即座に報道を否定。

翌28日には再び、「派閥内の一人の議員からの要望を事務的に伝達した事実はありますが、還付再開を指示・決定する立場にはありませんでした」「松本氏の発言には事実誤認が含まれている」などと当初の発言をトーンダウンさせながら火消しに回った。

 「石破首相が情報のリークにゴーサインを出していた可能性は高い」 

こうした一連の動きについて「背後に石破首相の影がちらつく」と読み解くのは、ある永田町関係者だ。

「松本氏は還流再開を決めた『ある幹部』の存在を匿名で明らかにしましたが、その聴取内容が明らかにされた後、マスコミが発言の『裏』を取った相手が肝です。

マスコミ各社は、それが下村氏であったとする根拠として特捜部からの松本氏の聴取内容を報じています。そして、その報道のソースとして『関係者』のクレジットを使っている。

つまり、還流再開の決定に下村氏が関わったとする報道には、検察側のリークがあったと見るのが自然です。

検察側が時の政権の意向に沿わない情報をマスコミに漏らすことはあり得ない。このことからも石破首相が情報のリークにゴーサインを出していた可能性は高いと言えます」

再燃した政治資金問題で渦中の人となった下村氏について世論も反応した。X(旧ツイッター)上では、「完全にバレた脱税キング」「自民党除名レベル」などと、その政治姿勢に対して批判的な投稿も相次いでいる。

少数与党での難しい政権運営を強いられている石破首相にとっては、先の衆院選での敗北の原因となった政治資金問題に再び注目が集まる展開は望ましいものとはいえないはずだ。

7月投開票の参院選も控えているなかではなおさらだが、さらに2月上旬に下されたある重要な政治決断との関連から首相には「別の意図がある」との見方も浮上している。

「2月6日には、『森友学園問題』に関して財務省の決裁文書改ざんに関わって自殺した元近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻が国を相手取って起こした訴訟で、国が最高裁への上告を断念したことが明らかにされました。

赤木さんの妻は、森友学園問題について、財務省から大阪地検特捜部に提出された関連文書の不開示とした国の決定取り消しを求めていました。この上告断念の決定に石破首相の意向が強く働いたことは疑いようがありません。

石破首相は2月17日に国会内で赤木さんの妻との面会を果たしており、予算委員会の審議では赤木さんの墓参りに『行きたい』とも答弁しました。

旧安倍派が中心となった政治資金問題への対応もそうですが、安倍晋三元首相が残した負の遺産を一掃しようという強い意図を感じさせます。旧安倍派を駆逐し、『安倍政治』と完全に決別しようとしているのでしょう」(前出の永田町関係者)

「裏金」を巡って永田町が揺れた折も折、衆院予算委員会の聴取が行われた翌週の3月4日には、加藤勝信財務相が国会で「森友学園問題」に関して注目すべき答弁をしている。

衆院財務金融委員会で、財務省が東京地検特捜部に提出した森友学園との交渉に関する文書について「個人の権利を害する恐れのあるものなどに最低限のマスキングなどを施した上で開示する」と述べたのだ。

文書改ざんに関与させられて亡くなった赤木さんが遺していた、改ざんの経緯が記されたいわゆる「赤木ファイル」についても、「6月上旬を目途に開示したい」と明言した。

急速に進む“政変”が永田町の風景を一変させそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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