
2024年10月1日、「こども政策担当大臣」に就任した三原じゅん子氏。同年11月26日には、「保育士等の人件費を10.7%引き上げる」と発表し、大きな注目を集めた。
「経営情報の“見える化”を進める」発言の真意とは?
——保育士等の人件費を10.7%引き上げることに対し、保育士たちからは「私たちの給与に反映されない」と厳しい言葉もあがりました。これについて、どう受け止めていますか?
三原じゅん子(以下、同) 政策はなかなか伝わらないため、人件費の引き上げについて報道していただいたことはありがたく思っています。とにかく現場の保育士の給与に、加算分が確実に行き届かなければなりません。そのために、できることから順次やっているところです。
まずは迅速かつ確実に、今回の増額分を一時金等も含め賃金の支払いに充てること。そして、次年度以降については給与表や給与規定の改定に取り組んでいただくこと。これらについて、自治体を通じて事業所(保育園等の施設)へ要請しています。
さらに、事業所が処遇改善の加算を受ける際の要件として、今回の公定価格(※1)の増額分を全額“賃金改善に充てている”ことを要件としているので、その結果を報告するよう求めることとしています。
——SNSで「経営情報の“見える化”を進めるための制度をスタートする」と発言されていましたが、具体的にはどのような制度なのでしょうか?
具体的には、全国の認可保育施設等を検索できる「ここdeサーチ」を改修し、来年度から各事業所単位でのモデル給与、人件費率(※2)、職員配置状況などの項目を追加することで、経営情報の透明性を高める方針です。
これにより、人件費率が不十分な施設の状況を可視化することが可能になりますし、何より保護者はお子さんの預け先を、求職者は勤務する施設を検討する際の参考にできます。
さらに、保護者や求職者が「人件費をきちんと支払っている施設がよい」と考えることで、保育業界全体において人件費率の見直しが進む契機にもなるはずです。
——人件費率などの情報は「ここdeサーチ」に公開するとのことですが、モデル給与とは具体的にどのようなものでしょうか? また、拘束時間等も明記するのでしょうか?
モデル給与とは、基本給、賞与、手当等を含めた具体的な給与の例であり、たとえば、「勤続3年目で◯円」「この役職だと◯円」といった形で示されるものです。拘束時間というか、勤務時間については、平均時間外労働時間を任意での入力項目として追加予定です。
(※1)公定価格…子ども一人あたりの教育、保育に必要となる費用のこと。
(※2)人件費率…保育士の人件費の割合は公定価格の80%が適切といわれているが、実際には社会福祉法人で70.5%、株式会社では51.9%にとどまっている。(東京都「保育士のキャリアアップ補助金の賃金改善実績報告書に係る集計結果」2017年度実績)
大臣就任から5か月。「とてもいいスタートを切れていると感じています」
——こども政策担当相として、心掛けていることを教えてください。
2022年に3度目の当選を果たした際、「こども政策を『こども家庭庁』で実現したい」と、ワンウィッシュとして訴えました。これは菅義偉総理の時代から考えていたことであり、実際に伝えてきました。
自民党の中で非常に弱い分野ですが、日本の未来を担うのは子どもたちです。だからこそ、子どもの気持ちを大切にしたいと考えています。
子どもや若者の意見を政策に反映させる取組として、小学1年生から参加することができる「こども若者★いけんぷらす」があります。
この仕組みでは、子どもや若者達が、こども家庭庁をはじめ各省庁が掲げたテーマについて、対面やアンケート等で意見を伝えることができます。
伝えていただいた意見には、施策の担当者がすべて目を通し、それぞれの担当でしっかり政策に反映させることを推進しています。小学1年生から20代の方であれば、どなたでも登録可能です。ぜひご登録のうえ、ご意見をお寄せいただければと思います。
——大臣に就任して5か月が経ちました。国民の厳しい声だけでなく、組織のしがらみなども見えてきたことで、やりづらさを感じる場面もあるのではないでしょうか。
そのようなことはありません。まだ数か月の段階で申し上げてよいのかわかりませんが、私はとてもいいスタートを切れていると感じています。そう思えるのは、多方面から職員が集まってくれているからです。
厚生労働省や文部科学省、内閣府等の役所以外にもNPO法人の子育て支援の現場の方、さらにはさまざまな自治体から、年齢や性別を問わず多様な人材が集まっており、多角的な視点で物事を捉え、アイデアを出すことができています。
——そうした人材が集まるのは、なぜだと考えていますか?
職員の出向をお願いしていることもありますが、来ていただいている職員との雰囲気づくりも大事だと感じており、私自身、職員から庁内で説明を受ける際、職員のところに足を運ぶことも多いですね(笑)。
相手が慣れ親しんだ環境のほうが、肩の力を抜いて話しやすいですし、より多くの方とコミュニケーションを取ることができます。そのため、「そちらでやりましょう」と私から出向くことで、距離が生まれないよう心がけています。
また、自治体や子育て支援に取り組む現場の方々との意見交換や、視察させていただいて現場の声を聞かせていただくこと等も重視しています。
——最近では地方へ出向き、女性起業家サロンの方と面会したり、多世代型アパートを視察したりといった活動もされています。
私はこども政策担当大臣であると同時に、女性活躍・男女共同参画担当大臣、共生・共助担当大臣でもあります。この3本の柱を同時に担当することで、少しずつ包括的に社会全体を底上げできると思っています。
たとえば、先日視察で伺った神奈川県・藤沢市の多世代型アパートでは、住人である高齢者と大学生が日常的にコミュニケーションを取れる仕掛けを作っていました。大学生は、家賃が半額なのだそうです。こうした仕掛けは、高齢者の孤立を防ぐだけでなく、大学生にとっても人生の先輩から知恵を授かる機会にもなる等、双方に大きなメリットがあります。
小中高生の自殺者数は増加し、若い世代の死因順位の第1位は自殺となっています。昨年の自殺件数は非常に衝撃的な数字であり、担当大臣として強い自責の念に駆られています(※令和6年の児童生徒の自殺者数の暫定値は527人)。
現代では、若者は1人で楽しむ時間を持ちやすい反面、1人で不安や悩みを抱えている人が増えているように感じます。
このアパートでは、入居をきっかけに、義務ではなく若者が自発的に高齢者のもとを訪れ、料理を教わったり、一緒に食事をしたり、カラオケに行ったりするなど、本当に楽しそうに過ごしていました。
「こども家庭庁は、少子化対策だけをやっているわけではない」
——三原大臣は、少子化対策、特にお子さんを持ちたいと考えている方に対して、どのような取り組みを進めていくのでしょうか?
私は子宮頸がんを患い、流産も二度経験しました。私のように、子どもとの生活を望んでも恵まれない人がいます。これは、病気や身体的な問題だけでなく、仕事や環境など、さまざまな事情によるものもあると思います。
身体的な側面でいえば、不妊症や不育症の治療に対する支援も重要ですが、それ以前に、若い世代が正しい知識をできるだけ早く持つことが重要だと考えています。それは、性や体の仕組みを正しく学ぶということです。
近年、卵子凍結を選択する方も増えていますが、「何歳から不妊のリスクがあがると思いますか?」と問いかけると、大学生でさえ知らないケースが多いんですよ。
私はSNSで動画を配信していますが、自治体や民間企業と連携しながら、プレコンセプションケア(性や妊娠に関する正しい知識を身につけ、健康管理を行うこと)を広く周知していくことを徹底していきたいと考えています。
——2024年度の出生数は、厚生労働省の人口動態統計の速報値によれば、72万988人で過去最少と公表されました。これを受け、「出生数が上がらないならこども家庭庁はいらない」「解体すれば勤労者は10万7000円の減税になる(25年度予算7.3兆円を労働者の数で割った場合)」といった厳しい声もあがっています。
SNSなどではそのような意見が見られますが、その根拠がよく分かりません。こども家庭庁の予算は、すべて子どもたちのために使われるものであり、冒頭で述べた保育士給与の10.7%増額も、そこから賄われるものです。
こども家庭庁は、少子化対策だけをやっているわけではありません。「厚生労働省でやればいいのでは?」という意見もありますが、今までにできなかったことを、ひとつずつ深く掘り下げていくことで、政策として形づくることができるのです。今回の保育士の給与問題も、そうした取り組みのひとつです。
待機児童問題についても、一時期は多くの方から切実な声をいただきましたが、現在は大幅に改善しました。むしろ地方で空きのある施設が増え、今後は、地域の実情にあわせてどのように活用するか検討する時期にきています。
——未来ある子どもたちのために、今後も政策を進めてほしいところです。
ありがたいことに、大好きなゴルフにもしばらく行けていないほど、忙しくさせてもらっています。
社会全体が“子どもの育ち”を自分ごととして捉えられるような社会を実現するために、これからも視察を通じて現場の声や子どもたちの思いをしっかり受け止め、それを政策に反映させていきたいです。
取材・文/山田千穂 撮影/村上庄吾