
3月29日、牛丼チェーン大手の「すき家」(ゼンショーホールディングス)が3月31日午前9時から4月4日午前9時までの間、ショッピングモール内の店舗など一部を除く全店の「閉鎖」を発表した。炎上に端を発した異例の対応の背景に何があったのか。
今年1月に発生し、3月にSNSなどを通じて「炎上」ともいえるような形で世に広まった「みそ汁へのネズミ混入」事件に続き、別店舗で害虫が商品に混入していた事件を受け、決定された今回のすき家の「全店閉鎖」。
国内チェーンにおける全店閉鎖は、これまでほとんど例がない異例の対応だろう。それだけに、発表後からネットやSNSを中心に「全店閉鎖」という言葉が一人歩きしているような印象を受ける。
では、この決定の背景にはどういった事情があり、そして、すき家は今後どうなっていくのか。
「全店閉鎖」をなぜ決定できたのか?
大前提として、「全店閉鎖」は倫理的に考えて「するべき」対応だろう。
ネズミ混入という類を見ない異物混入があったことに加え、害虫混入も同時期に発覚(ちなみに、この害虫はゴキブリのことらしい)。すき家の衛生イメージが最悪になっていることは言うまでもない。
「みそ汁へのネズミ混入」は、店員の目視ミスが原因だったとされている。だとすれば社員・店員・アルバイトへの全てにわたる再教育が喫緊の課題となる。
とはいえ、問題は「全店閉鎖」に踏みきるまでのハードルの高さ。その難しさは、主に次の2点に集約される。
①一定期間でも店舗を閉鎖することはその期間分の売上・利益はゼロ。
②そもそも、国内に約2000店舗あるすき家を一斉に閉鎖すること自体が難しい。
という点だ。ただ、これらを乗り越えられる要素をすき家は持っているのではないのだろうか。
全店直営、海外事業好調が追い風に
まず「全店閉鎖」について意外と知られていない事実だが、すき家は全店が直営店である。つまり、フランチャイズ店がないので、本部の指示が各店舗に直接届く指揮系統になっている。
フランチャイズ店では、それぞれの店舗運営はフランチャイズオーナーの意向に左右されやすい。特に店舗売上に直結する店舗閉鎖の場合、首を縦に振らないオーナーも多いだろう。
しかし、すき家の場合は全てが直営であるので、今回のような全国一斉での施策を行ないやすい体制が整っていたのだ。
売上・利益の問題についても、他の企業に比べるとすき家には利点がある。というのも、すき家を運営するゼンショーホールディングスは海外でも稼ぐ「グローバル企業」に変わってきているからである。
2025年3月期第2四半期の決算によれば、すき家を運営するゼンショーホールディングスのグローバルファストフードの営業利益は約222億円。これは、全体の営業利益(約580億円)のの約38%の割合)を占めている。
また、閉鎖期間についても4月4日までの4日間であり、深刻な経営ダメージはないと経営陣によって判断されたと思われる。
いずれにしても、現在の衛生イメージの悪さと、利益へのダメージを天秤にかけたとき「全店閉鎖」こそが最適解だという判断が下されたと考えられる。
「全店閉鎖」はやりすぎなのか?
「全店閉鎖」の対応については「異物混入が発覚した店舗だけでいいのでは?」「やりすぎなのでは?」という意見も出ているが、むしろ潔く全店閉鎖し、総点検を行なうほうが、広報的な視点でいえば正解だ。
とりわけ、今回の一件では発覚から世間への公表が2か月遅れてしまったことが致命的なミスだったという評価も多い。それだけに「全店閉鎖」の対応を取ることが一般イメージの観点から見ても望ましいと思われるのだ。
ますますDX化・省力化は進んでいく
気になるのは、「全店閉鎖」から営業再開後のすき家だ。
閉鎖期間は4日間であり、その間は改めて社員・アルバイトに店舗運営意識の見直し・徹底をしたり、各店舗の衛生状況の確認を行なったりするのだろう。
しかし、大局的に見て今回の一件がすき家に与える影響はどうだろうか。
実はここ数年、すき家は店舗におけるDX化や運営オペレーションの省力化を積極的に行なっていた。
代表的なのが「ディストピア容器」だ。これは、すき家の一部店舗で出される「使い捨て容器」のことで、下げ台はそのままゴミ箱になっている。これによって、店員は皿洗いや食器を片付ける負担がなくなる。
また、皿洗いで生じるミスなどを防ぐことにもつながるため、今回のような異物混入の防止にもつながる。
「みそ汁へのネズミ混入」は店員による目視確認がなかったことによって起こった「人為的」なミスだとされているが、だとすれば、今後こうしたトラブルをなくすための手っ取り早い方法の一つは「商品提供においてなるべく人の手を通らせない」ことも考えられる。
現在、すき家で進んでいるDX化・運営オペレーションの省力化の流れは今度も進んでいくだろう。
また、こうした運営方針は店員の作業負担の軽減にもつながる。
いずれにしても、今回の件においてすき家が新たに大きな転換点を迎えるということはないだろう。むしろ、これまですき家が採用していた施策をより徹底して行なっていくことになるはずだ。
文/谷頭和希 写真/Shutterstock.