
SNSを通じて、社会の裏側や矛盾に切り込んできたインフルエンサー・Z李氏と滝沢ガレソ氏。Z李氏は小説『飛鳥クリニックは今日も雨』のドラマの配信が4月17日から決定し注目を集める一方、昨年末には二度の逮捕を経験した。
Z李「2度の逮捕」とその顛末
――すぐに釈放となりましたが、Z李さんは二度の逮捕(住居侵入と建造物侵入)をどう受け止めていますか?
Z李 ……まず、世間を騒がせたのは悪かったと思っています。一番は自分が原作小説を書いた『飛鳥クリニックは今日も雨』のドラマの配信と文庫本の出版が、あの一件で遅れてしまったこと。
本来、1月に配信される予定だったのが一旦見合わせる形になってしまったことを、留置所の中で聞かされたときは本当にキツかった。ただ、それでも粘り強く配信にこぎつけてくれた関係各位には、頭が上がりません。
でもね、フタを開けりゃ何も出てこなかったでしょ。それがすべて。皮肉にも、これがクリーンの証明になったんじゃないかな?
滝沢ガレソ(以下、ガレソ) 闇バイトの元締めだとか、特殊詐欺をやってるとか、「Z李=トクリュウ」説も出回ってましたよね。
Z李 トクリュウ=匿名流動型犯罪グループ、だっけ? 警察が作った造語を流行らせたかった感がすごいあるけど、自分のことをよく知らない人があんな報道みたら本当にそう思っちゃうじゃんね。ガレソくんは逮捕当初からユーモアまじえつつトクリュウでないことをXにポストしてくれてたと聞いてたから、すごくうれしかった。
ガレソ 自分を含めて、リアルでやりとりしたことある人なら皆わかってたことですからね。
ただ、「Z李はA李からZ李まで26人の李で構成されてるから、ノーダメージ」って冗談飛ばしてたら、「じゃあお前もその一人か」って言われたりしましたけど(笑)。
Z李 それは俺もたまに聞かれるけど「ああG李のことね」とあえて肯定してる(笑)。何人説まで増えるんだろうとシンプルに興味があって。
――拘置中はどのように過ごしていたんですか?
Z李 本ばっか読んでたな。新堂冬樹さんの小説『血塗られた神話』、リアリティがありすぎてすごかった。あとがきで作者が元闇金って知って納得したよ。同じ作者の『なごり雪』っていう純愛モノも読んだけど、あの落差には笑ったね。あとは、俺もノートに2、3本新作を書き下ろした。
ガレソ ちなみに、留置所では番号で呼ばれるんですよね?
Z李 俺は池袋署で「12番さん」って呼ばれてたよ。博打を打っても、これからは絶対に12は避ける。
共感と嫉妬が、加害者をヒーローに変える
――近年は、「目立ってるインフルエンサー」が警察当局に目を付けられるようにも感じました。
ガレソ 昔なら、YouTuberの熱愛なんて誰も見向きしなかったと思うんですよ。でも今じゃ、VTuberだろうが配信者だろうが、普通にスクープになる時代になった。
Z李 世間がヒリついてる時期だったのもあってか、文春がやったYouTuberのコロナ禍での集団飲み会の記事、あれ年間アクセスランキング1位だったろ? 時代は変わったよ。
ガレソ 最近あった、ライバー・最上あいさん殺人事件も、Zさんが取り上げたのもあって異常に伸びましたよね。
Z李 加害者の高野側の人間から「最上にも悪いところがあった」ってタレコミが来てさ。正直、殺した高野が一番悪いに決まってんだろと思ったけど、一応、話を聞いて発信したら、非モテで搾取される側だと自分を重ねた弱者男性たちがどんどん高野の味方になっていった。「金借りて返さなかった女」っていうラベルを一枚貼るだけで、空気がガラッと変わったんだよね。
ガレソ 「実は弱者男性が加害者だった」っていう文脈になると、一定の共感を得るんだなって驚きました。暴行とかじゃなく、人ひとり殺されてるのに。
Z李 減刑の署名活動まで始まってさ、「殺人事件の加害者を応援しよう」なんて流れができたのはマジで異常。でも、これって結局「エッチできたかどうか」でだいぶ話が変わる気がしてて。
ガレソ りりちゃんの場合、「金持ってない男からは取らない」を徹底してたらしいですからね。詐欺は詐欺ですけど、ある意味「金持ちから取る」という行為は非難されにくい。
Z李 だから余計に、高野が共感されたんだろうな。「金ないくせに女に貢いで、エッチもできなかった」っていう、哀れさと怒りと羨望とがごっちゃになった感情が噴き出した。
ガレソ 結局、「楽して稼いでる配信者」への憎悪と、「女性に搾取される弱者男性」の恨み。この2つが重なった感じがしますね。
Z李 それな。まさに掛け算だ。
投げ銭は、「承認欲求の表現」
――今回の件で“投げ銭文化”にも注目が集まりました。あの仕組みについて、どうお考えですか?
ガレソ キャバクラでボトル入れるのと同じですよね。いくら投げ銭をしたかがランキングになっていて、それで推しを1位にしたいっていう。高額投げればコメント読んでもらえるとか、ちょっとした見返りもあるし。
Z李 推しに貢ぐって側面もあるけど、それだけじゃないんだよな。ランキングに名前が出るってことは、見られるってこと。つまり、自分が1位になりたいっていう投げる側の承認欲求もあるはず。
ガレソ 「投げ師」って言葉があるくらいですからね。
Z李 だから、「こんなに投げたのに相手にされなかった」って怒ってる奴いるけどさ、「それ、ほんとに相手のためだけに投げたか?」って俺は思う。「自分が目立ちたかっただけじゃねえか?」って。まあ、そういうの全部込みであの世界は回ってるんだけどな。
AIの登場で変わるSNS
――アンチについて、お二人はどう考えていますか?
ガレソ 僕の場合、たとえば自民党の不祥事についてポストすれば他党の支持層が喜ぶし、逆もまた然り。つまり、ニュースごとにアンチが切り替わっていくんです。新しく生まれて、また消えていくの繰り返し。だから、なるべく公平にしてバランスは取っています。
Z李 俺のことを嫌ってるやつは一定数いるし、それは別に今に始まった話じゃないから気にしてない。俺はアンチよりも陰謀論者が嫌いだな。ちょっと発信したら「どっちかに雇われてる」とかって言われんの、あれほんと面倒くさい。んなわけねえだろ。
ガレソ わかります。僕も最初は「よく分からん面白アカウント」のつもりだったんですけど、今ではちょっとしたメディア扱いでバッシングもすごい。だから、リスクヘッジで真偽が怪しいネタには近づかないことを徹底してます。自分からわざと炎上しようとする人たちもネットには山ほどいますから。
Z李 Xのリプ欄とか、「@︎grok ファクトチェック」ってタグで埋まってたりするもんな。AIがまあまあの精度で説明してくるから、読み手もそれに頼りがちになる。でも、あくまで検索ベースだからな。Google検索結果にガセが多けりゃ、それをもとにしたAIの解釈も結構怪しくなっちまう。
※編集部注 Xで「@︎grok ファクトチェック」とリプライをつけると、X社のAIのGrokが元ポストの内容の真偽をチェックしてくれる。
ガレソ 一見すると人間が書いたようなクオリティの高い文章が一瞬で出てきますよね。ただ、ちょっと怖いのが「毒舌っぽくして」って指示すれば、簡単に名誉毀損レベルのことも書いてくるんですよ。最上さんの件でも、「こいつ金借りて逃げたんだから当然だよな」って平然と返ってくる。もはやAIまで最上さん叩きに加担してるという。
Z李 あれ、マジでヤバいよ。これ名誉毀損で訴えるとしたら、誰に内容証明送ればいいのかって話だよ(笑)。
(後編に続く)
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班