現代人の57.2%が「1日24時間では足りない」と思っている事実…人はなぜ楽しい予定が重なると充実感をおぼえ、仕事が重なると「忙しい」と感じるのか
現代人の57.2%が「1日24時間では足りない」と思っている事実…人はなぜ楽しい予定が重なると充実感をおぼえ、仕事が重なると「忙しい」と感じるのか

楽しい旅行中に分刻みのスケジュールをこなしている時、人はそれを「忙しい」とは言わない。むしろ、充実感を得ているくらいだろう。

いっぽう、仕事の予定がいくつか入ると人はそれを「忙しい」と言い、それを理由にいろんなことを断ったり、諦めたりする。では、忙しさとはそもそも何なのだろうか? 

年間240冊の書籍を読む今話題の読書インフルエンサーの最新著『忙しさ幻想』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

時間管理やアイデアを学んでも「時間が足りない」

巷には「時間」をテーマにした本が溢れています。

書店の棚を眺めれば、「タイムパフォーマンス」「タイムマネジメント」「時間効率」「デトックス時間」と、数多くの〝時間の悩み〟にまつわる言葉が躍っているのです。しかもこれは日本に限ったことではなく、世界中で起きている現実です。

例えば1989年に『7つの習慣』(キングベアー出版)という1冊の本が刊行されました。

この本に書かれている内容を、少々乱暴ながらひと言にまとめるなら、「最優先事項を真っ先に実行すれば、人生は豊かになる」というものです(タイトルからは「時間管理」に関する話は想像しにくいかもしれませんが)。

初版が出版されて以来、世界中で2500万部ものベストセラーとなり、今現在も時間管理や自己啓発書の金字塔とされています。

しかし、奇妙に思えてならないのは、このように数多くの「時間の使い方」に関する本が出版され、先人たちが私たちに時間管理の手法やアイデアを教えてくれるにもかかわらず、現代の多くの人々が「時間が足りない」と感じている点です。

セイコーが発表した「時間白書2022」の調査結果によると、調査対象の実に66・3%もの人が「時間に追われている」と感じており、さらにその中の48・0%の人が「その感覚が以前よりも強くなった」と回答しています。

また、57.2%の人が「1日24時間では足りない」と感じており、この数字は前年よりも増加しています。

忙しさとは「状態」ではなく、「心の感じ方」

現代人は年々、忙しくなっている。そんな現実がこのデータから読み取れるわけです。

しかし本当にそうなのでしょうか? つまり、現代人は、実際に忙しくなっているのでしょうか?

冷静にとある統計データを見てみると、驚くべきことに気づきます。



総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査」によれば、2016年と比較して、「休養・くつろぎ」の時間が1日平均20分も増加しているというデータがあります。そして同調査では、減少傾向にあった睡眠時間が増加に転じ、1日平均14分増加していることが判明しました。

さらに、厚生労働省のデータによると、1973年から2023年の50年間で、労働者1人あたりの年間総実労働時間は約400時間も減少しているのだとか!

言い換えれば、私たちの「自由時間」は確実に増えているわけです。

それなのに、現代人が年々「忙しくなった」「時間が足りない」と感じているのはなぜでしょう?

現在私は、会社を経営しながら、コンサル業と主婦業もこなし、かつ読書インフルエンサーとしての顔も持っています。年間の読書冊数は240冊。1.5日に1冊のペースで読んでいることになります。

ただし私は前々からこんなにも潤沢に「読書する時間」があったわけではありません。

それどころか、時間管理が全くできない人間でした。

時間を守れない。予定を守れない。計画性がない。大事なことをすぐ忘れる。

何をするにも時間がかかる。やらなきゃいけないことを先延ばしにする。

……「何重苦だよ」と突っ込みたくなるくらい、時間の糸が絡まった人生を送っていたのです。転機が訪れたのは、よく相談をさせていただいている先輩とごはんに行った時のこと。

「やりたいことはあるんですが、生活するのが精一杯で……なかなかやりたいことに手がつけられません」そう私は先輩に愚痴をこぼしました。

すると先輩は真剣なまなざしで私にこう言いました。

「いいか、金は無限。でも、時間は有限だ」

スタンフォードが突き止めた「忙しさ」の正体

その言葉に、私はハッとしました。逆だと思っていたからです。

時間はありあまり、お金は有限だと。しかし、当たり前ではありますが、人は死にます。必ず死にます。いつか終わりが来ます。

それは誰しもに与えられた平等な条件です。だからこそ、「時間をどう使うか」についてちゃんと向き合わなければなりません。

このことに気づいた瞬間から、私は自分の時間をどのように使うかを真剣に考えるようになり、書店に行き、本を読み漁りました。

こうして発見した1つの答えがあります。

それが「忙しさとは幻想である」ということです。

先述した通り、現代人は年々、自分のために使える時間が増えています。

事実として、自由時間が増えているのです。しかし、それとは裏腹に、現代人は「忙しくなった」「時間が足りない」と感じています。

つまり、「忙しさ」とは、〝状態〟ではなく、〝心の感じ方〟なのです。

旅行中、どれだけ予定を詰め込んでも、人はそれを「忙しい」とは言いません。むしろ充実した旅だとすら思う人がほとんど。

でも、なぜか仕事だと、そうはいかない。

「忙しさとは幻想である」これには、科学的エビデンスも存在します。

「なぜ人は、忙しさや焦りを感じるのか?」そんな普遍的な問いに答えを出すべく、スタンフォード大学の研究者たちは実験を行いました。

実験では、「時間制限(プレッシャー)」がある状況で被験者に課題を与え、通常時と比較し、ストレスホルモン(特にコルチゾール)の分泌がどう変化したかが調べられました。

結果、時間的なプレッシャーを感じるタスクに取り組むと、被験者のコルチゾールの分泌が増加すること(焦燥感が増加すること)が明らかとなりました。

これは、実際に行っているタスクの量自体が「忙しさ」に直結しているわけではなく、プレッシャーを感じた時に、心が勝手に「忙しさ」を作り出すことを意味しています。

やはり忙しさとは幻想だということです。

写真/Shutterstock

忙しさ幻想

豊留 菜瑞
現代人の57.2%が「1日24時間では足りない」と思っている事実…人はなぜ楽しい予定が重なると充実感をおぼえ、仕事が重なると「忙しい」と感じるのか
忙しさ幻想
2025/4/111540円(税込)224ページISBN: 978-4763142139

なんとなく過ぎてしまう毎日とさよならできる本。
忙しさとは、「状態」ではなく「心の感じ方」です。


旅行中に、分刻みで目的地を訪れるような予定を組む時、
人はそれを「忙しい」とは言いません。
むしろ、ほとんどの場合、目を輝かせながら
「なんて、充実した旅なの!」と言います。

一方、仕事となると、1日に2~3個もミーティングが入れば、
人はそれを「忙しい」と感じます。
つまり忙しさは、タスクの量と関係がなく、
単なる心の感じ方であり、幻想なのです。



タスクが多かろうが、少なかろうが、
締め切りが迫っていようが、迫ってなかろうが、
パソコンと睨めっこしていようが、ソファに寝転んでいようが、
どんな状態だろうが、“心が忙しい”と感じているなら、
人はそれを「忙しい」と言い、たくさんのことを諦めていきます。

そして、不思議なことに、暇で退屈な人ほど、
「時間がない」と言っているのです。

本書は、今話題の読書インフルエンサーが
「世界中に存在する科学データ」や
「世界中の本に教えてもらったこと」をもとに、
そんな幻想でしかない「忙しさ」から
抜け出すための方法を書いた本です。

【目次より】
第1章 暇で退屈な人ほど、「時間がない」と言っている
第2章 「時間」に振り回されないためにやめたほうがいいこと
第3章 意味のある時間を過ごす時、そこに「忙しさ」は存在できない
第4章 人生をもっと濃厚で、もっと意味のあるものにする読書術

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