〈低年齢化する子どもの美意識〉メイク、体毛処理に関心・経験のある女子小学生の驚くべき調査データ…見た目を気にしてから実際に変えようとする道のりにあるもの
〈低年齢化する子どもの美意識〉メイク、体毛処理に関心・経験のある女子小学生の驚くべき調査データ…見た目を気にしてから実際に変えようとする道のりにあるもの

近年、小学生のおしゃれの低年齢化が著しいといわれている。服や髪型だけでなく、メイクアップや脱毛など、おしゃれだけでなく、美容にも強い関心をもつ子どもが多いという。



『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』より一部抜粋・再構成してお届けする。

小学生におけるおしゃれへのこだわり

メイクアップと体毛処理の経験について見ていく前に、その基盤となるであろう、おしゃれに対する意識について見ておきたいと思います。見た目を意識している程度を見てみましたが、ここでは、意識した上で、「見た目を変えようとどの程度思うのか」といった側面について見ていきます。

具体的には、おしゃれが好きな程度やおしゃれのこだわりの程度について見ていきます。それでは調査データを見てみましょう。まず、「おしゃれが好き」な程度について、学年別にまとめています。

「あてはまらない」から「あてはまる」の4件法で回答してもらいました。「おしゃれが好き」に対して「ややあてはまる」または「あてはまる」と回答した女子は、各学年で9割から7割程度です。

低学年の方が割合が大きいようにも見えますが、統計的な分析をおこなうと、学年差は特にみとめられないという結果でした。小学生低学年の時点でおしゃれが好きな人がそれなりに多いということは間違いないようです。

また、「服装や髪型などにこだわっている」程度について学年別にまとめたものも見てみましょう。

選択肢は先ほどと同じです。「服装や髪型などにこだわっている」に対し「ややあてはまる」または「あてはまる」と回答した女子は、各学年で7割から8割程度です。

学年による違いは確認されませんでした。ここでも、小学生低学年の時点でおしゃれにこだわっている人が高学年と同程度にいるということが確認できたといえます。

従来は、「子どもはあまりおしゃれに関心がなく、一部の子どもだけがおしゃれに目覚めていて、そして、それは高学年になるほど顕著である」という言説を目にすることもありました。しかし、どうやら少なくとも現在はそのようなことはなさそうです。

多くの割合の女子が、小学1年生の時から見た目を意識し、おしゃれに関心をもって取り組んでいることがこの調査のデータからはうかがえます。子どもの頃から見た目にとらわれている可能性がありつつも、子どもの頃から自分の姿を模索して楽しんでいる可能性もあるといえるでしょう。

メイクアップの経験の実態

子どものメイクアップ経験については、これまでも多くのマーケティング調査や学術調査で扱われてきました。2018年に私がおこなった調査では※1、頻度は別として、未就学児から小学生では4割程度、そして中学生で6割、高校生で8割の子どもがメイクアップをおこなっていることが示されています。ニフティキッズのおこなった調査のデータからは、小中学生の53%がメイクアップの経験があることが読み取れます。※2

それでは、学年別ではどうなのでしょうか。調査データを見てみたいと思います。学年別にメイクアップの経験をまとめました。

全体で5割から6割の女子がメイクアップの経験をしたことがあると回答しているのが確認できます。

そして、学年の差についてですが、統計的な分析をおこなうと、学年の差はみとめられないことが確認されます。

半数以上の子どもが、頻度や内容はともかくメイクアップの経験があるということが確認されました。読者の皆さんはどのように思われるでしょうか。思った以上に多いと思われるでしょうか。それとも、そのくらいかな、という感じでしょうか。

大人の読者は「そんなに多いはずがない」と思うかもしれません。子どもの読者は、「もっといるはず」と思うかもしれません。人は、身近に該当するケースがあるほど数を多く見積もる傾向もありますし、人によってこの数値のとらえ方はさまざまだと思います。

この割合について絶対的基準で多い少ないという判断をすることはできません。問題は、多いかどうかというよりも、それがどのようなことをひきおこしうるのかということかと思います。そして、どのようなプロセスで子どもがメイクアップをおこなうようになるのか、といったことも考えていく必要があるでしょう。

さて、今回のデータでは学年の差は確認できませんでしたが、これを素直に解釈すると以下のようなことが考えられます。


急激にメイクアップのおしゃれの低年齢化が進み、そしてより低年齢の子どもの方がメイクアップをおこなうという傾向が生じた可能性があります。物事は上の年齢層で行き渡ってから次の世代へと浸透していくとは限りません。下の世代で急激に広がって上の世代を追い越すこともあります。

今回のデータからは、上の世代でゆっくり浸透していったメイクアップが、下の世代で急激に広がって上の世代と同じくらいおこなうようになった、という可能性が読み取れます。とはいえ、このあたりについてはまだ資料も少ないですし、継続して様子を見ていきたいと思っています。現時点でいえることとしては、メイクアップの低年齢化がすすんでいる可能性がある、ということです。

体毛が気になる?

体毛処理の実態を確認する前に、体毛を意識する程度、つまりは「体毛が気になっている」という子どもの割合についても確認しておきたいと思います。

調査データを用いて、学年別に体毛を意識する程度をまとめたものになります。

「体毛が気になる」に対して「ややあてはまる」または「あてはまる」と回答した女子は、小学1年生から3年生は6~7割程度で、学年が上がるに従い多くなり、6年生では7割になります。弱い関連ではありますが、メイクアップとは異なり、どうやら年齢が上であるほど体毛を意識する人がわずかに多いことがうかがえます。

この背景には、おしゃれ意識の高まりがあると考えたいところですが、先ほど見たように、「おしゃれが好き」な程度や「服装や髪型などにこだわっている」程度は学年で大きな違いはありません。そうなると、他の理由を考えた方がよさそうです。

ここで考えられる理由の一つは、第二次性徴といった身体の発達の影響です。

脇などこれまで生えていなかったところに体毛が生えてきますし、それにともない、腕や脚といった部位の体毛(この場合は産毛)も意識するようになる可能性があります。「毛」というものに意識が向き始めるわけです。

これは、母親のデータからも確認できるかもしれません。学年毎の「お子さんから体毛についての相談をうけたことがある※3」の回答をまとめてみると、学年が大きくなると相談される経験が多いことが確認されます。

一方、学年毎の「お子さんとおしゃれの話をする※4」の回答をまとめてみると、関連は認められませんでした。つまり、おしゃれについてのコミュニケーションの程度は学年で変わらないのに、体毛の話は学年が上がると出てくる傾向があるのです。やはり、おしゃれ意識というよりは身体の発達が、体毛意識に影響している可能性があります。

なお、先に言っておくと、体毛を意識する程度が大きいほど、体毛処理の経験があることが確認できています。気になってもやり方がわからない、道具を購入しにくい、近くに脱毛エステなどがない、もしくは予算の問題で難しい、などいろいろな要因があるので、体毛を意識することが必ずしもそのまま実際の体毛処理の経験に直結するとは限りません。

それでも、気にしているほど体毛処理を試みる傾向があることが確認できます。

〈注〉
※1 鈴木公啓「子どものおしゃれの低年齢化未就学児から高校生におけるおしゃれの実態」(『慶應義塾大学日吉紀要言語・文化・コミュニケーション』、50、53―69頁、2018年)
※2ニフティキッズ「みんなのホンネ調査レポート「コスメ」」https://kids.nifty.com/parent/research/cosmetics_20240601/?utm_source=niftykids&utm_medium=prtimes&utm_campaign=researchreport_0613(2024年)
※3 「まったくない」から「頻繁にある」の4件法で回答を求めています。
※4 注3と同じ4件法です。



文/鈴木公啓 写真/shutterstock

『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』(筑摩書房)

鈴木公啓
〈低年齢化する子どもの美意識〉メイク、体毛処理に関心・経験のある女子小学生の驚くべき調査データ…見た目を気にしてから実際に変えようとする道のりにあるもの
『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』(PHP研究所)
2025年4月10日1,034円(税込)240ページISBN: 978-4480685209

子どもとおしゃれの関係を、心理学から考える一冊が登場!

「ちょっとぽっちゃりしてきた?」「最近は小学生でも脱毛するんだって」「ほら、クラスのあのかわいい子」……
大人の何気ない声かけ・言葉が、子どもたちの身体への意識に影響を与えます。

子どもたちにとっておしゃれとは、社会と向き合い、そして自分を知るための大切なツールなのです。イメージで語る前に、まずはその実態を探ってみましょう。

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【目次】
はじめに
おしゃれの低年齢化?/おしゃれそのものに「よい」「わるい」はない など

第1章 おしゃれと装いの心理学
心理学における「装い」/装いの時間的・文化的普遍性/身だしなみとおしゃれ など

第2章 見た目を意識する子どもたち
現在の子どもたちの見た目への意識/見た目の満足と自己受容/都会の子どもの方が見た目を意識している? など

第3章 メイクアップ・体毛処理
小学生におけるおしゃれへのこだわり/体毛処理の経験の実態/子どもの体毛処理と社会的規範 など

第4章 瘦身体型とダイエット
体型を意識する子どもたち/ダイエットの経験の実態/「瘦せ=よい」の背景にあるもの など

第5章 おしゃれによる心身のトラブル
装い身体トラブルって?/子どものダメージは大きい/とはいえ人はなかなかやめられない など

第6章 メディアの影響
社会にあふれる見た目を意識させるコンテンツ/メディア視聴とメイクアップや体毛処理との関連 など

第7章 (母)親の影響
意図せずに親は影響をおよぼしている/親からのプレッシャーが子どもに不満を抱かせる/母娘の強固な結びつき など

第8章 親が本当に困っていること
大人は何を華美なおしゃれと思っているのか/子どもの年齢と困り事/困り事は親の認識の側に など

第9章 大人は子どものおしゃれにどう向き合っていくか
大事なのは普段からのよい関係性/おしゃれの安易な禁止の悪影響/規則とのせめぎ合いと社会性の発達 など

第10章 子どもにとってのおしゃれの意味や意義
おしゃれを通して社会や自分と向き合う/子どものおしゃれがダメとされる理由/おしゃれを楽しめる社会に など

おわりに
アップデート―データをもとに現状を識る/最後に大事なこと など
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