
2025年3月の訪日外国人数は349万7600人で前年同月比13.5%増となった。また、今年3月までの累計では1000万人を突破し、年間ごとの統計でも過去最速の到達となっている。
しかし、こうした盛り上がりを見せる一方で、問題視されているのが免税制度を悪用した転売の横行である。新制度の導入で防止策を講じようとしているが、免税制度そのものを見直す議論も活発化してきた。
免税制度を悪用した不正転売
現行の制度では、外国人旅行者などの免税対象者が日常生活で使う商品の消費税を免除している。家電やバッグ、衣料品などの消耗品以外のものは5000円以上、飲食料品などの消耗品は5000円以上50万円以下とされている。
消費税がかからない免税品を入手し、日本国内で税込み価格で転売すれば消費税分を利益として得ることができる。これが免税制度を悪用した不正転売だ。近年は手口が巧妙化しており、組織的な犯行が目立つ。
2023年10月に高級ブランド品やスマートフォンなど2億5000万円相当分を購入した中国人男性3人が消費税2500万円の徴収処分を受けた。この3人は留学生やフリーターだったにもかかわらず、免税対象となる「入国6カ月未満」の間に百貨店などで高級品を買い漁っていた。調査に対して海外に送ったなどと説明したが、それを証明する書類が保存されていなかったという。
学生やフリーターが数億円もの買い物をすること自体が不自然だが、こうした手口には、商品を国内で転売する裏組織やブローカーが関与しているとの見方もある。
2022年4月から2024年3月までで、免税購入金額が1億円以上の高額商品購入者は690人。
税関の検査は任意であり、出国を止めることもできないのが実状だ。
2026年の新制度開始前を狙った“駆け込み転売”を懸念
こうした状況に2026年11月から、ようやく免税制度が払い戻し型の「リファンド方式」に変更となる。
現在は免税店で手続きを行なって免税価格で購入し、税関でパスポートを提示、免税購入品を国外に持ち出す方式をとっている。新制度では、免税店でも外国人旅行者は消費税を払い、税関にて免税の可否認定を受ける。許可された場合、旅行者への税額返金を行なうことになる。
また、100万円以上の高額商品に対してはシリアルナンバーなどの詳細情報を入力するなど、転売を防止する手立てを強化した。新制度の導入により、免税制度を悪用した転売行為の大部分はなくなるだろうとみられている。
懸念されるのは、“駆け込み転売”だ。観光庁によると、2025年1-3月の訪日外国人のインバウンド消費は2兆2700億円。そのうち中国人観光客の買物代は2222億円だった。
日本にとってインバウンド消費は経済の活発化という恩恵があるのは間違いない。しかし、悪質な税逃れの横行や、買占めによって国内の消費者が欲しい商品を手にできないのであれば、デメリットが目立つばかりだ。
免税制度の廃止で2400億円の税収増との試算も
こうした状況の中、「免税制度そのものを見直すべきだ」との議論が出はじめた。
国民民主党の玉木雄一郎代表は今年3月に自身のYouTubeチャンネルにて「外国人観光客にも消費税を払ってもらう 検討すべき 玉木雄一郎が解説」という動画を公開した。諸外国の状況を解説したうえで、外国人観光客にも消費税を払ってもらうことを主張している。こうした施策をすることで年間約6000億円の増収になるとの試算も公開した。
立憲民主党の大西健介氏も、今年2月の衆院予算委員会で外国人観光客の免税措置の継続を疑問視。物価高に苦しむ国民から税金をしぼり取るばかりではなく、日本国内の旅行を楽しむ余裕のある外国人にも税金を払ってもらえばいいと主張した。大西氏によれば、年間約2400億円の増収が見込まれ、財源確保につながるという。
大西氏はインバウンドのステージが様変わりし、オーバーツーリズムで自治体が疲弊していることにも言及。
これに対し、石破茂首相は日本の品物を安く買えることは、お金を持たない旅行者に対する誘因となるなどと反論し、免税措置継続の意向を示している。
外国人観光客の土産物に消費税を課すことの一番の問題点は、二重課税になることだ。旅行者が日本で買った免税商品を、自分の国に持ち込んだ場合、それぞれの国が定める付加価値税が課される。これは日本でも同じだ。20万円を超えるものを持ち込む場合、消費税が発生する。
日本が免税制度を廃止すると、旅行者は日本で課税され、帰国した際に自国でも課税されるというわけだ。
ただし、免税制度を廃止している国もある。たとえば、EUから離脱したイギリスがそうだ。EUでは加盟国間の移動を伴う場合は付加価値税を課税しないというルールがあったが、離脱に伴なって適用義務がなくなった。そのため、政府は税収を増やす目的で廃止したと説明した。
2026年11月に施行される免税制度改正の次は、外国人旅行者に消費税を課すかどうかの新たな議論が必要になるはずだ。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock