〈新人王・最右翼〉なぜルーキーがいきなり、こんなに打てるのか? 打率4割超えの“隠れ”首位打者、西武・渡部聖弥を支える5つのスキル
〈新人王・最右翼〉なぜルーキーがいきなり、こんなに打てるのか? 打率4割超えの“隠れ”首位打者、西武・渡部聖弥を支える5つのスキル

今年のプロ野球も開幕から1か月が経過した。今シーズンのルーキーたちの中ですでにズバ抜けた活躍を見せる選手がいる。

西武のドラフト2位、渡部聖弥だ。4月末日時点で打率.435と飛び抜けた成績を残す渡部のスゴさとはなんなのか。

なぜルーキーがいきなり、こんなに打てるのか 

近年のプロ野球では“投高打低”の傾向が続くなか、オリックスの太田椋が打率.411と安打量産中だ(※本記事内の今季の成績は4月末日時点のもの。以下同)。同日時点でパ・リーグに3割打者は4人しかいないことを考えると、その打棒はいっそう際立って見える。

だがしかし、その太田を上回るペースで打ち続けるルーキーがいる。西武のドラフト2位、渡部聖弥だ。

開幕戦から5番で起用された渡部は右足首を痛めて4月13日に登録抹消され、9試合を欠場したために規定打席には到達していないものの、3番で復帰した25日から4試合連続マルチ安打。4月末日時点で打率.435と、いわゆる“隠れ”首位打者だ。

前日に続いて初回に渡部が先制タイムリーを放った29日の楽天戦後、西口文也監督は「勝負強さを発揮してくれている。本当に頼もしい限りです」と称えた。実際、得点圏打率.533という勝負強さだ(パ・リーグの規定打席到達のトップは太田で同.480)。

なぜプロの世界に飛び込んだばかりのルーキーが、いきなりここまで打てるのか。



渡部のバッティングの特徴の一つが、スイング軌道だ。横からのテレビカメラで見るとわかりやすいが、投球の軌道に対してなるべく長くバットを入れようとしている。これは「オンプレーン率」と言われるもので、打者にとって大事な要素の一つとされる。渡部が語る。

「オンプレーン率が高いのは自分の特徴です。ピッチャーが投げる軌道が自分の中にあり、ボールのラインに入れるようなイメージですね」

現在のスイングを身につけたのは、広陵高校時代にさかのぼる。「カウンタースイング」という、バットのヘッドから根元にかけて可動式の2つのコマがつけられているトレーニング用バットで礎を築いた。

通称「カチカチバット」と言われるギアだ。バットを内側から出し、いわゆる正しいスイングをできると2つのコマが一緒に動いて「カチ」と音が一度鳴るが、スイングの軌道が少しでも外回りになるとコマが離れてからぶつかり「カチカチ」と音がする。

2017年夏、甲子園で大会新記録の6本塁打を放った中村奨成(広島)が使用した“秘密兵器”として知れ渡った。翌年、同じ広陵高校に入学したのが渡部だった。

「1年生は強制的にというか、カウンタースイングを振る機会が結構ありました。

3年生くらいになったらみんな、自分のスイングをやっていくけど、自分はカウンタースイングを結構気に入ってたので、随時ストレッチ代わりにやっていましたね。大学時代もずっと振っていました」

渡部の突出したスイング能力 

カウンタースイングの効用の一つが、上半身と下半身の捻転差を身につけやすいことだ。体のねじれによって大きな力を生み出せ、変化球に泳がされてもグッと我慢して対応しやすくなる。渡部が続ける。

「カウンタースイングの中で、上半身と下半身をバラすというのがあります。下半身が(前に)先に行っちゃっても、上半身は(後ろに)置いてきぼりというか、グリップを(後ろに残して)持った状態で打てるので。そういった面では泳がされても対応できると思います」

昨今、プロ野球のファームやアマチュア野球では選手育成において「言語化」の重要性をよく耳にするが、渡部はこの能力が極めて高い。例えば通称「カチカチバット」だが、渡部は「カチ」と鳴らすことを求めてスイングしてきたわけではないという。

「カウンタースイングにはいろんな効果があります。特に投球軌道に入っていくスイングなので、振り遅れてもライトに飛び、打率が残りやすい。捻転差を磨き、スイングも効率的に力を伝えることができると思います。

でも、使い方に正解があるわけじゃなくて。ただストレッチ代わりに振ることによって鍛えられるというか、強化できるというものです」

渡部の打撃は下半身で粘る強いスイングも特徴に挙げられる。

それを可能にさせているのが自身も認める体の強さだ。

高校時代は練習量の多さからなかなか増量できず、体重75kg前後だったが、大阪商業大学に進んだ1年時の冬に食事とウエイトトレーニングを計画的に行い、85kgに増量。「打球も飛ぶようになった」と振り返る。

高校でスイング、大学で肉体に磨きを上げた一方、野球を始めた小学1年時から養ってきたのが選球眼だ。

「小学校から野球をずっとしてきて、大体は自分のストライクゾーンがあります。外は大体、ボール半分までわかりますね。プロに入ってもそこは変わりません。真っすぐを打ちにいった時に変化球を落とされたら振ってしまうこともあるけど、真っすぐや外のボールは見えています」

言い換えるとピッチャーの投じたボールが手元に来るまでの「空間認識力」に優れているのだ。

「オンプレーン率×空間認識力」が見事に発揮されたのが、4月29日の楽天戦だった。楽天の先発左腕・古謝樹に対し、初回1死二塁から初球は外角高めのストレートをファウルにした後、1ボール1ストライクからの3球目、内角スライダーをセンター前にタイムリー安打を放つと、「イメージ通りに打つことができてよかったです」と振り返った。

“隠れ”首位打者を支える5つのスキル 

「初回は外から入ってくるスライダーと、外寄りの真っすぐを振っていくと決めていました。外から入ってくるスライダーでも、低めは振らないように。

インコースを狙っていると(ゴロを)引っ掛けちゃうスイングになるけど、外寄りを狙っていたからこそバットも内から出て、センターに行きました。狙いとスイングの軌道を一緒にできましたね」

6回に放った試合を決める右中間へのタイムリー二塁打は、打ち取られた2、3打席を踏まえた一打だった。

「インコースを少し攻められている部分があったので、真っすぐ狙いで行きました。打ち取られたボールに対して(相手は)しつこくというか、攻めてくる傾向があるので。1回打ち取られたボールは次でしっかり仕留める。2回目はやられないというのは、ちゃんと意識しているところです」

まるでプロとして10年以上活躍してきたベテランのような言葉だ。相手に対して明確な狙いを持って臨めるのは、試合前の周到な準備も大きい。動画やデータで相手投手の傾向や強みを分析し、狙いを定めてファーストストライクから仕掛け、その中で生まれたズレを踏まえて修正。打席を重ねるごとに、反省を生かしていく。

大学時代から相手の分析は行っていたが、プロでは情報量が圧倒的に増えた分、「割り切りやすい」と感じている。

「ピッチャーが自信を持っている球を打席の中で絶対に投げてくるので、それに対して見逃すのか、それとも打つのかを決めるだけです」

プロに入ったばかりの渡部が、“隠れ首位打者”の活躍をできるのはこうしたいくつかの理由があるからだ。改めて振り返ると、(1)オンプレーン率(2)体の強さ(3)投球軌道とストライクゾーンの空間認識力(4)分析力(5)狙い球の割り切り、となる。



「でも、まだ4月です。大学出身のルーキーは、春季リーグの時期が終わってからも活躍できるかで判断しています」

パ・リーグ某球団の幹部は冷静に話した。実際、渡部はまだ16試合に出場したに過ぎない。連戦で体力が削られ、相手からの研究が進むのはこれからだ。

4月29日の楽天戦後、西武の仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチはこう話した。

「考え方もしっかりしているし、それを躊躇なく実行できる。滑り出しとしてはなかなかできない活躍ですよね。でも、山も谷もこれからいくらでもやって来る。どんなにいい結果が出ていたって、僕らも気を抜けません」

攻撃力が課題の西武で開幕から5番を任され、より多く打席の回ってくる3番に昇格。46年ぶりの開幕4連敗から貯金1まで巻き返したなかでの、打の立役者は間違いなく渡部だ。

果たして、開幕直後の打棒をどこまで発揮し続けられるか。まだ4月が終わった段階にすぎないが、さまざまに非凡さを見せているルーキーだけに、長いシーズンを通じてのパフォーマンスに期待したい。

取材・文/中島大輔

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