
川崎市川崎区の岡崎彩咲陽(あさひ)さん(20)が遺体で見つかり、ストーカー行為をしていた同区の無職・白井秀征容疑者(27)が死体遺棄容疑で逮捕された事件。神奈川県警本部は、捜査を求めたのに「事件性がない」と言われたという彩咲陽さんの遺族の声に対し、「必要な措置を講じてきた」と主張した。
「娘じゃないことを願ってたけど…」
5月3日、事件は一気に動いた。米ロサンゼルス発で同日午後1時55分に羽田空港到着予定の便に白井容疑者が乗っていることが判明。午後1時10分すぎに着陸した機体から降りた白井容疑者に県警が空港内で任意同行を求めた。
直前の午後1時ちょうどには彩咲陽さんの父親(51)に県警から電話が入った。4月30日夜の白井容疑者宅の家宅捜索で見つかった、一部白骨化した遺体を彩咲陽さんと確認したという悲報だった。
「会えたんで…。内心はね、自分、娘じゃないことを願ってたけど、娘ってわかってね。1日でも早く…。でも娘だったら連れて帰りたかったから、ちょっとほっとしてる部分もありますけど。会って遺体見たときは、やっぱり辛かっただろうな、と…」
夜になって父親は、彩咲陽さんの遺体と対面した時の悲痛な思いを語っている。
県警は白井容疑者を事情聴取した後、深夜に死体遺棄容疑で逮捕した。
「淡々と聴取に応じた白井容疑者は逮捕容疑を認めました。
県警は「ただちに白井容疑者の自宅を確認し事情聴取をした」
容疑者の身柄を確保したことで神奈川県警は同日、これまで批判を浴びてきた川崎臨港署の対応について初めてメディアに説明を行なった。県警担当記者はこう解説する。
「説明では、昨年6月13日から11月までの間に白井容疑者と彩咲陽さんの間のトラブルについて署は8回対応しています。白井容疑者に殴られたり、家から無理やり連れ出されたりしたと彩咲陽さんが署側に話したこともあったといいます。
一方、彩咲陽さんが一度出した被害届を取り下げ、11月の段階で復縁していたことがわかったとも説明しています。
また12月に入ってから彩咲陽さんは9回署に電話をしていました。白井容疑者に自転車を盗まれたとする被害届を出したり、『白井容疑者が自宅付近をうろうろしているので怖い。パトロールしてほしい』と求めたりしたといいます。
そして最後の電話は12月20日の午前7時10分ごろ、対応に当たっていた警察官が出勤しているか確認する内容で、署がこの警官が不在だと伝えると彩咲陽さんは『時間をおいて連絡します』と言って電話を終えたといいます」(県警担当記者)
彩咲陽さんが泊まっていた祖母宅からいなくなったのはこの直後だ。2日後、祖母はガラス窓が割られているのに気づき警察に通報。家族は刑事らに、「彩咲陽は白井容疑者に拉致された」と訴えたが「部屋の中からガラスを割っている」「事件性はない」と言われ、指紋採取も写真撮影も行なわれなかったという。(♯4)
この日の対応について県警は「ただちに白井容疑者の自宅を確認し事情聴取をした」と説明した。一方で、割られた窓が施錠されており、ガラス破片が内側から外側に飛んでいることを理由に、「室内側から割られた可能性もある」と伝えたことは認めた。
「県警は、この12月22日から3月末までに7回白井容疑者を任意聴取したことなどを挙げて『必要な措置を講じてきた』と会見で言いました。また『ストーカー被害の相談は受けた認識はない。彩咲陽さんが警察の対応を望んでいないと判断し、ストーカー規制法上の警告もしていない』と説明しました。失踪の前も後も、対応の不備は認めていません。
しかし、4月30日の家宅捜査はストーカー規制法違反容疑で行なっています。県警は3月末までの聴取での白井容疑者の供述を根拠に令状を取ったと説明しています。
県警は会見で、川崎臨港署の対応への評価を聞かれ『重大な事案と認識している。今後の捜査により一連の経緯も含め事案の全容を明らかにしていく』とも表明しました。署の対応を洗い直す必要性は認めた形です」(県警担当記者)
「抗議しても署は全部『わかんない』の一点張りで…」
この説明に遺族や友人らは県警への不信を一層深めた。3日夜、父親ら遺族と友人は、遺体発見直後の1日に続いて川崎臨港署を抗議のために訪問。90人以上が集まったとみられ、署の1階受付で幹部や担当警察官の説明を求めるさなかには「お前らが殺したんだろ」という怒号が飛んだ。
その様子を参加者がスマホで中継し、署に入りきれなかった他の知人らは建物の外で見入った。道を挟んだ向かいに側は機動隊が20人ほどバスのなかで待機しており現場は騒然となった。
求めていた署の幹部や担当警察官からの説明を受けられなかった父親は、抗議の途中、署の外で待つメディアの前に戻り「ウソだらけなんです。ほんと、どうしようもない。うちの娘はここで殺されたのと一緒だから」と怒りをあらわにした。
県警がついたという“ウソ”について父親は、
「割られたガラス窓が閉まって(施錠されて)いたから事件性はないと言いますが、窓ガラスは見つけた時は開いていて、閉めたのは(彩咲陽さんの)祖母なんです。
僕は何回もストーカーで白井を捕まえてくれって言ってきた。でも『本人(彩咲陽さん)がいないからそれはできない』ってずっと警察は言ってきたんです。それが、最後はストーカー(規制法)で捜索してるじゃないですか。言ってることとやってることが全く違う。その理由も話さないし、なんで途中でそれができるようになったかもわかんないし」
と説明。こうした矛盾を直接、県警の幹部に問いただしたいと訴えた。
「抗議しても署は全部『わかんない』の一点張りで、あと都合が悪い時は黙ってるんです。謝罪? 今まで一度もないですよ。警察は本当の話をすればいいだけだし、自分たちが悪いんだったら、どうもすいませんって1回謝りゃ済むことじゃないですか。
みんなの前で、僕ら家族とこの神奈川県警、臨港警察署の話し合いをする場を作ってほしいです。その場で全部ただしたい。僕たちの力じゃできないから、みんな(メディア)の力で場を作ってほしいです」(彩咲陽さんの父親)
夜9時半ごろ、抗議をいったん終え遺族と友人らは散会したが、それでも20~30人は署の前で、県警本部から白井容疑者の身柄が移送されてこないかと待ち続けた。彩咲陽さんの友人の女性は金網越しに泣きながら「彩咲陽を返せ」と、駐車場にいる署員に怒りをぶつけた。
遺族らはこれからも県警との話し合いを求め、署名を集めるとしている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班