「ガンダムを観たことはなかった」西城秀樹が「∀ガンダム」の主題歌に抜擢された本当の理由…『ターンAターン』誕生の舞台裏
「ガンダムを観たことはなかった」西城秀樹が「∀ガンダム」の主題歌に抜擢された本当の理由…『ターンAターン』誕生の舞台裏

2018年5月16日に亡くなった西城秀樹。“ワイルドな17歳”のキャッチフレーズでデビューした彼が、実はアニメ『ガンダム』の主題歌を歌っていることを知っているだろうか? 西城秀樹が歌った意外な一曲について、命日に振り返りたい。

西城秀樹が『ターンAターン』歌うことになったキッカケ

1999年から2000年にかけて放送されたアニメ「∀(ターンエー)ガンダム」で、ストーリー前半のオープニング主題歌『ターンAターン』を歌ったのは西城秀樹だった。

監督の富野由悠季が井荻麟のペンネームで作詞したこの曲は、CMソングの「レナウン・ワンサカ娘」「日立グループ・この木なんの木」、アニメの「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」、「狼少年ケン」、「ユカイツーカイ怪物くん」でも知られる小林亜星が作曲している。

西城秀樹が『ターンAターン』を歌うことになったキッカケは、1974年に二人が親子の役で初めて共演した人気テレビドラマ『寺内貫太郎一家』が、1999年2月に東京の新橋演舞場で舞台化されたことに端を発していた。

1972年3月25日、西城秀樹はビクター音楽産業のRCAレーベルから、“ワイルドな17歳”のキャッチフレーズで『恋する季節』を歌ってデビューした。

それに少し遅れて、ジャニーズ事務所の郷ひろみが8月1日に『男の子女の子』でCBSソニーからデビューした。そのために先行していた野口五郎と西城秀樹の3人で、芸能界用語で「新御三家」と呼ばれた。そこから全員がヒット曲に恵まれて、トップアイドルという扱いになった。

1973年6月に『情熱の嵐』が初のチャートベスト10入りを果たし、勢いづいた西城秀樹は、続く『ちぎれた愛』と『愛の十字架』が、ともにチャート1位を獲得。

そんな人気絶頂時の1974年1月に始まったのが、東京の下町を舞台にした『寺内貫太郎一家』だった。

取っ組み合いの喧嘩が名物だった人気ドラマ

台東区谷中にある石屋「寺内石材店」を中心に、三代目の寺内貫太郎一家と職人さん、近隣の人々との触れ合いが描かれるファミリー喜劇である。

原案と脚本は向田邦子、演出とプロデュースが久世光彦。平均視聴率31.3%を獲得したほか、その斬新な内容で1974年第7回テレビ大賞を受賞している。

登場人物は貫太郎(小林亜星)を支える妻の里子(加藤治子)、沢田研二のポスターの前で身悶えながら「ジュリ~!」と叫ぶ母のきん(樹木希林)、父の仕事場で起きた事故で足が不自由になった長女の静江(梶芽衣子)、静江の恋人で妻と別れたばかりの上条(藤竜也)、住み込みのお手伝い相馬美代子(浅田美代子)、それに石工職人の岩さん・タメさん(伴淳三郎・左とん平)など多彩な顔ぶれだった。

着流し姿のヤクザくずれを演じたイラストレーターの横尾忠則、越路吹雪のプロデューサーだった東芝レコードの渋谷森久など、演技の素人が平気で登場するユニークな演出も話題になった。

久世光彦に抜擢された作曲家の小林亜星は、まったくの素人だったが、巨漢であることと同時に、本物の表現者だけが持っている存在感によって、堂々たる主役を演じて成功した。

昔気質で頑固で短気、しかもシャイで口下手という設定だから、貫太郎は家族にも手が先に出て、すぐ親子喧嘩になってしまう。

体重が110キロを超える巨漢の小林亜星と、息子役として共演した西城秀樹の出演シーンは、取っ組み合いの喧嘩が名物となった。

何かの拍子に言い争いが始めるとその場で立ち上がった両者がもみ合いになり、タンスは壊す、障子を突き破る、壁にぶつかれば額が落ちてくる、庭に投げ飛ばされるという、激しいアクションが繰り広げられたのだ。

「ガンダムの主題歌をやってくれないか?」

そこに巻き込まれた家族が喧嘩の合間に細かなギャグを見せるという、それまでにない破天荒なホームドラマは、高視聴率だったことで、翌年も続編の『寺内貫太郎一家2』が製作された。

打ち身や擦り傷は日常茶飯事の西城秀樹だったが、続編の初回では小林亜星に投げ飛ばされて、右腕を骨折するというアクシデントも起こった。

そうした共演から四半世紀を経て、小林亜星は本来の音楽というフィールドで西城秀樹に歌ってもらうために、ベストを尽くして曲を作ったという。

その話を切り出されたときのことを、西城秀樹がこのように語っていた。

舞台をはじめる直前、食事をしているときに「ガンダムの主題歌をやってくれないか?」と。そのときは、まだ曲も完成していないし、僕自身、「ガンダム」という作品を知っていたが観たことはなかった。それで映画版の最初の「ガンダム」を観て、「メッセージ性の強い、ヒューマンな話だな」と思いまして、やらせていただくことに。

しかし、詞を初めて見せてもらって、テーマが大きな愛だということがわかった後も、「ターンAターン」という言葉が西城秀樹には、どこかしらきちんと理解できていないところがあったという。

それで録音のときに富野監督に聞いたら、2時間かけて話してくれましてね(笑)。とっても熱くて、純粋な方です、監督は。監督のおっしゃった「ターンAターン」っていうのは、簡単に言うと「人は生まれ変わる。生きて死んで、それを繰り返すことによって自分の首を締めている現代というものがある。だが、そうではなく最初に戻るんだ」とのことでした。

こうして富野監督の言葉を理解したうえで、本番のレコーディングが行われたのだった。

小林亜星は2018年5月の読売新聞で、このような胸の内を吐露していた。

彼は完璧に理解して、完璧に歌ってくれた。音楽を通じて理解し合いました。僕が作ったアニメの曲では一番だと思う。

それは西城秀樹の訃報が流れた直後のことであった。

文/佐藤剛 編集/TAP the POP

引用/西条秀樹の発言は『∀ガンダム フィルムブック[1]』(角川書店)より

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