「トランプに思想などない」は本当か?  ワクチン、暗号資産、TikTok、オバマケア…変節だらけのトランプ2.0を読み解く
「トランプに思想などない」は本当か? ワクチン、暗号資産、TikTok、オバマケア…変節だらけのトランプ2.0を読み解く

「トランプには思想などはない」と語ったのは、政権1期目(トランプ1.0)に安全保障政策担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンだ。実際、トランプ1.0と2.0には明確な相違点が認められ、前言を翻しまくっているトランプだが、むしろポピュリスト右派のリーダーとしては、案外マイルドな人物なのかもしれない。

エミン・ユルマズ氏の新著『高金利・高インフレ時代の到来! エブリシング・クラッシュと新秩序』より一部を抜粋、再編集しておとどけする。

トランプ1.0と2.0の明確な相違点

トランプ政権一期目(トランプ1.0)と今回の二期目(トランプ2.0)には明確な相違点が認められるので、いくつか挙げておきたい。

一つ目。トランプ1.0のときはコロナ禍に見舞われたため、ワクチン開発に尽力した。「オペレーション・ワープ・スピード(OWS)」と称したとおり、猛スピードでワクチン開発を行って、世界中に供給し、その成果をおおいに喧伝した。

ところが、今回のトランプ2.0では、なんと反ワクチン派で知られるロバート・F・ケネディ・ジュニアを保健福祉長官に起用した。

二つ目は、トランプ1.0では仮想通貨、あるいは暗号資産に対して、非常に懐疑的だった。トランプはビットコインを「これは通貨ではない。ただの詐欺だ。本当の通貨は米ドルだけだ」と取り合おうとしなかった。

しかし、トランプ2.0では態度を豹変させ、「米国を暗号資産の首都にする」とまで言い出した。暗号資産の株価はうなぎ登りとなった。

その背景には、イーロン・マスクやヴァンス副大統領の支持者でもある暗号資産コミュニティが、今回のトランプの選挙キャンペーンに多額の寄付を行ったことがある。

公表数字では総額1億3100万ドル、日本円にしてざっと200億円。

トランプは選挙戦中、暗号資産に懐疑的なSEC(米証券取引委員会)のゲイリー・ゲンスラー委員長をクビにすると公言。これに対し、同委員長は本年2025年1月20日、大統領就任式当日に辞職した。

三つ目の違いは、動画アプリのTikTok(ティックトック)に対する対応である。トランプ1.0ではTikTokの使用を米国で禁止しようとしていた。当時は米中関係が悪化した時期だった。ところが、今回のトランプは「TikTokを救う」と選挙キャンペーン時から明言していた。

2024年、米国政府はTikTokの親会社、中国のバイトダンスが、TikTokをスピンアウトさせて売却しない限り、米国内でのサービスを禁止すると発表、裁判所も合憲の判断を下した。

しかし、大統領選に勝利したトランプは、「自分が若年層において大差で勝ったのは、TikTokの貢献度が大きかった」と語り、自身のSNSで「就任と同じにTikTokの停止を延期する大統領令を発令する」と表明。その言葉どおり、就任日には75日間の施行猶予を設ける大統領令に署名した。

しかしながら、特に共和党の上院議員で国務長官に就任したマルコ・ルビオは反中スタンスで知られるが、彼が「TikTokは中国のスパイウェアに他ならない」と言っていることから、予断を許さない。

ガチガチの国粋主義者、反移民主義者よりトランプはまだ、まとも?

四つ目の違いは、いわゆる「オバマケア」である。

トランプ1.0においては、「できるだけ早くオバマケアを終わらせる」と宣言していた。

ところが、今回のトランプ2.0では、「オバマケアをより良くしたい」に変節している。

この主張の転換を見ると、トランプがポピュリズムに動いたと思わざるを得ない。自分の支持層である低所得層が、オバマケアに助けられてきた側面が大きいからだ。ただ、実際どうなるかは、未知数である。

一方で、今回トランプは教育省を廃止する方針を掲げている。そのためにトランプ1.0のときに中小企業庁長官を務めたリンダ・マクマホンを、今度は教育長官に起用した。

彼女はプロレス団体「WWE」の元最高経営責任者(CEO)を務めた人物。かなり奇抜な人選なのだが、それがトランプの意思であるのは確かだ。

今回トランプが指名した閣僚は、とにかく多彩で、極端な人物が多い。この面子を見る限りにおいては、私見だが、トランプが割合まともに見えてしまうほどである。

業界から寄付をもらったから、暗号資産に対する考えがくるりと変わったりするところなどは、いかにも損得で動くトランプらしい。おまけに就任直前に自分と妻の名前でミームコインを出したことは、さすがに私も予想外だった。


こうした振る舞いを目にすると、いわゆるポピュリスト右派のリーダーとしては、トランプは案外マイルドな人物なのかもしれない。

「トランプには思想などはない。すぐにころころと立場を変える。幾度も民主党と共和党を行き来したのが、その証左だ」

これはトランプ1.0のときの安全保障政策担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンが語った言葉だが、まさに正鵠を射ている。

ガチガチの国粋主義者、反移民主義者よりもまだ、トランプのほうが、まともではないか。イデオロギーが堅固な人が米国のトップになったら、世界は大変なことになるし、恐ろしい。

だが、こうした右派が政権を取る流れが変わらないと、今度は思想的に動かない本当の極右リーダーがやって来る気がしてならない。

文/エミン・ユルマズ

エブリシング・クラッシュと新秩序

エミン・ユルマズ
「トランプに思想などない」は本当か?  ワクチン、暗号資産、TikTok、オバマケア…変節だらけのトランプ2.0を読み解く
エブリシング・クラッシュと新秩序
2025年5月26日発売1,870円(税込)四六判/256ページISBN: 978-4-08-786140-2
2025年の4月2日、アメリカのトランプ大統領が世界に向けて発表した関税政策は、世界中に衝撃を与え、世界同時株安を招いた。
NYダウやS&P、nasdaqなどの米国の株価の主要指数の暴落は一週間ほど続き、日経平均も一時は500兆円のもの時価総額を失うほどの暴落となった。いわゆる「トランプショック」である。
今回の経済危機は、まさにこの本の校了中のできごとであり、日々、情報をアップデートしながら、本が完成した。
ただ驚くことに著者は、すでにこの本において経済危機が来ることを予測し、4つの兆候について詳しく分析していたのだ。

それは2000年代のITバブル崩壊やリーマン・ショックの際にも表れた、いくつもの経済指標の変化を読み解いた結果だった。
 また日々の経済データの分析のみならず、経済の歴史も深く研究している著者は、今回のトランプショックを単なる一時的なものとは捉えず、世界経済や国際政治が大きく変化するパラダイムシフトと考えており、その理由も本書では明らかに語られている。
中国のみならず、BRICS諸国も台頭する今、私たちは大きな歴史的か転換期に生きているのだ。
米国と中国の新冷戦、それによる経済のディカップリングを早くから予見していた著者は、常に著書やSNSで最新の情報を発表してきた。
本書は、それらを集大成し、世界が変わる重大な局面において発想の転換を促す書でもある。
ますますひどくなる新冷戦によって経済がブロック化し、世界中がより高インフレに悩まされ、インフレ下の不況、すなわちスタグフレーションに陥りかねないことに著者は警鐘を鳴らしている。
こんな先行きが見えない時代に、自分の資産を守るにはどうしたら良いか、歴史を学び長期的な視点を持つことの大切さを説く。
さらにこの新冷戦の中、再び注目を浴びるのが日本であることにも言及し、危機をチャンスと捉えるべきことを教えてくれる。
世界が日々、変化する現代に生きる私たちが、経済危機をいかに乗り越え、未来に希望をもつべきか? 多くのヒントを教えてくれる必読の書である。
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