「斎藤知事に言われてやりました」“右腕”“ナンバー3”の元総務部長が私的情報漏えい指示を暴露…停職3か月の処分で県は「刑事告訴はしない」知事は「指示した事実は全くない」
「斎藤知事に言われてやりました」“右腕”“ナンバー3”の元総務部長が私的情報漏えい指示を暴露…停職3か月の処分で県は「刑事告訴はしない」知事は「指示した事実は全くない」

兵庫県の斎藤元彦知事の“右腕”“県ナンバー3”と呼ばれた井ノ本知明・元総務部長(57)(現総務部付)が県元幹部の私的な情報を県議らに漏えいした問題で、井ノ本氏が県人事当局に「斎藤知事らの指示でやった」と説明していたことが分かった。斎藤知事はこれまで井ノ本氏が漏えいしたことも自身の指示も否定してきており、元側近が反旗を翻した形の暴露で苦しい立場に立たされた。

 

斎藤知事は「漏えいを指示した事実は全くない」と完全否定

斎藤知事は5月27日、井ノ本氏の供述が明らかになった直後、記者団に「漏えいを指示した事実は全くない。そうした認識はない」と完全否定した。しかし斎藤氏が井ノ本氏に指示と受け取れる発言をしていたと、別の県幹部が証言していることも明らかになった。

これを受け、事実関係を調べた県の第三者調査委員会は、井ノ本氏の漏えいは「斎藤知事と片山副知事の指示を受けて行なわれた可能性が高い」と結論づけた。

一方、同日記者会見した県当局は、知事指示の可能性について第三者委と同じ認識だとしながらも「断定できる判断材料がない」と説明。その上で井ノ本氏を停職3か月の懲戒処分にすると発表した。

昨年3月、当時の西播磨県民局長・Aさんが斎藤兵庫県知事の疑惑をメディアなどに匿名で告発した。それを知った斎藤知事は発信者探しを片山安孝副知事(昨年7月に辞任)や井ノ本氏らに指示。その探索過程で片山氏はAさんの県公用パソコンを取り上げ、中にあった文書ファイルや供述からAさんを告発者と特定した。

このパソコンの中にあったAさんの個人的な文書をプリントアウトし、昨年4月中旬ごろ複数の県議に見せて回ったというのが井ノ本氏の漏えい問題だ。

「文書の大半は私小説か日記か分からない文章ですが、極私的な内容で、他人に知られたくないと思えるものとみられています。井ノ本氏はこれらを見せた県議に『告発文書はこのような人間がつくったものだから信用に値しない』と何度も言っており、Aさんをおとしめ告発内容には信用性がないと印象づけようとしたとみられています」(県職員)

この問題は昨年7月に報道で発覚。県は第三者委員会を設置し、同委はことし3月末に報告書を提出。

県はこれを受け5月23日に処分を検討する綱紀委員会を開催。27日に県と第三者委は、井ノ本氏が漏えいしたことを認め、斎藤・片山両氏からの指示に基づくものだったと主張したと明らかにした。 

「斎藤知事と片山副知事の指示に基づき総務部長の正当な業務として行なった」

県と第三者委によると、井ノ本氏は当初委員会調査に漏えいを否認し、委員会はこの言い分を盛った報告書を1月に県に提出した。しかし井ノ本氏はその後、2月14日付で県人事課に「弁明書」を提出したほか人事課の聴取に応じるなどの形で、供述を大きく変えた。

井ノ本氏の新たな供述は、

「昨年4月中旬から下旬に3人の県議に会いAさんの私的情報の概要を口頭で説明した。印刷されたファイルを持参したことはない」

「斎藤知事と片山副知事の指示に基づき総務部長の正当な業務として行なった。知事の指示があった場には小橋浩一理事(当時)も同席していた。その指示を片山氏に伝えると『そらそうやな。必要やな』という発言があった」

「Aさんの私的情報は“秘密”として保護するに値せず、伝えたことは懲戒事由にはならない」

という内容だとしている。

これを受け第三者委は斎藤知事と小橋浩一元理事を改めて事情聴取。斎藤知事は「パソコンに私的情報があったとの報告はあったと思うが、その処理に関して何か指示をしたことはない。井ノ本氏は総合調整の窓口である総務部長として、独自の判断で議会側との情報共有をしたと思う」と述べ、指示したことを否認した。

だが小橋元理事は同委の聴取に対し、「私的情報があったことも含め、根回しというか議会の執行部に知らせておいたらいいんじゃないかという趣旨と理解できる知事からの発言があった。

その指示があったことを聞いた片山元副知事は『そらそうやな。必要やな』と発言した」と証言。

片山氏も「知事が井ノ本氏に情報共有をしておくようにとの指示をしたと聞いたので特に反対もせず、井ノ本氏に“根回し”をするよう指示した」と話し、井ノ本氏の主張を裏打ちした。

こうしたことから第三者委は、斎藤と片山副知事の指示があった可能性が高いと結論づけた。

県は「懲戒免職にする事案ではなく、刑事告訴もしない」

いっぽう県は、斎藤知事の指示があったかなかったかを「断定できる判断材料はない」として、知事の責任問題に触れることを回避。

同時に、井ノ本氏は「知事に指示されたと信じており、県議らへの漏えいも口頭で、文書を渡したわけではない」などとして懲戒免職にする事案ではなく、刑事告訴もしないと発表した。

「小橋元理事の証言があるにもかかわらず指示があったとは断定できないとして知事の責任を問うことをせず、同時に、確認できないとする知事の指示を“信じた”という理由で井ノ本氏を厳罰にせず、指示の有無を捜査で解明してもらうために刑事告訴もしないというのが、県の処分内容です」(地元記者)

井ノ本氏が3人の県議に私的文書の内容を吹聴していた昨年4月ごろ、斎藤知事や側近らは、告発内容の真偽を調べようとする動きが強まるのを恐れ、これを抑え込むのに躍起だった。

「片山副知事は県議会に対し調査特別委員会(百条委)の設置を強く反対していましたが、結局百条委は設置され、片山氏は辞職しました」(県関係者)

だが、この百条委でも、当時兵庫維新の会に属した委員会メンバーの岸口実、増山誠両県議(現在は維新会派を離脱)が私的文書の公開を強く求めた。そのさなかの昨年7月7日にAさんは「一死をもって抗議する」との遺書を残し自死とみられる急死を遂げている。

「この私的文書が拡散していくことにAさんは苦しんでいました」とAさんの知人は話す。指摘文書の内容はその後も、NHK党の立花孝志党首がSNSで拡散させた。

兵庫県は5月27日になって、XとYouTubeに対し、Aさんの私的文書が載った立花氏のポストや動画の削除を求めたとようやく表明し、Aさんや遺族に謝罪すると表明した。

だが、漏えいの“原点”ともいえる井ノ本氏の行為がなぜ行なわれたのか、全容は見えないままだ。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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