
かつてはバックパッカー向けの安宿としてのイメージが強かったゲストハウスだが、訪日外国人の増加により、その需要が再燃している。昨今ではインバウンドの影響で、お金持ちの外国人旅行者が増加しているが、ゲストハウスの需要はここ十余年でどのように変わったのか。
飛行機疲れを高級ホテルで取り、その後ゲストハウスに宿泊する人が増加
インバウンドによる訪日外国人の増加につれ、ゲストハウスの需要が再燃している現在。
海外旅行が一般化した平成に流行したゲストハウス。かつては、プライバシーの守られない相部屋に共同の浴室、ホテルのようなしっかりしたサービスやアメニティのない環境で、宿泊費用を抑えたい人や、他の宿泊客との交流を目的とする人が多く利用していた。
ゆっくりとした慰安旅行を目的とした人向けではなく、いわゆる“バックパッカー向けの安宿”と言ったところである。
しかし、昔の安宿というイメージからはうってかわって、昨今のゲストハウスは多様な層から支持される形態へと変わってきているようだ。
ゲストハウスを運営する男性(40代)に最近の客層について聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。
「ファミリー層やアジア圏の若いお客さんのように、費用を抑えたい層の需要はまだまだ高いです。ただ、最近ではそれに加えて、高所得者層を中心に、価格ではなく交流や体験を重視したお客さんも増えてきています」(ゲストハウスを運営する男性)
前出の男性は最近の宿泊客の傾向についてこう続けた。
「ヨーロッパから来たお客さんのなかには、バケーション制度を利用して日本に来て、ゲストハウスに長期間滞在する方が多くいます。1ヶ月以上滞在する場合が多く、費用を抑えるためにホテルや旅館等ではなく、ゲストハウスに宿泊するケースが増えています。
また、お客さんの中には長時間のフライトで疲れているため、1~2泊目にはリッツカートンや帝国ホテルなどの高級ホテルに宿泊し、その後に現地交流や日本ならではの体験を求めてゲストハウスに来る方も多いです」(ゲストハウスを運営する男性)
実際に宿泊したという、ベトナムから来た旅行客の男性(20代)にゲストハウスを選んだ理由を聞いてみた。
「それはもちろん、安いからさ! 宿にかけるお金があるなら、少しでも多くおみやげを買って帰りたい!」(ベトナムから来た旅行客の男性)
前出の男性は1泊あたり約4000円のゲストハウスをTiktokで見つけて宿泊を決意したという。
しかし、カプセルホテル等に宿泊すればよりコストが抑えられるのに、どうしてゲストハウスにこだわるのか、前出の男性に続けて尋ねてみた。
「カプセルホテルだとフォトジェニックじゃないでしょ? きれいなところに宿泊して、Instagramで写真をシェアしたかったんだ!」(同前)
最近では、古民家などを改築して“SNS映え”を狙ったゲストハウスも増えてきており、安さだけを売りとせず、ターゲット層を拡げているとのことだ。
ただし、そんなゲストハウスの変化には当然課題もつきまとう。
「ドライヤーなどの備品が盗まれることも…」
日本らしさを感じられる場として、多くの外国人観光客に人気のある京都府のゲストハウスに勤務して15年になる女性(30代)は悩ましそうにこう話した。
「インバウンドの影響で外国人のお客様がすごく増えてきていますね。今ではお客様の約8割が外国人の方です。だから、外国語に対応できるスタッフはいくらいても足りないくらいですよ」(ゲストハウスに勤務する女性)
利用客の約8割が外国人というのは驚きだ。いっぽうで、この十余年でゲストハウスの宿泊料金はどのように推移していったのだろうか? 前出の女性に聞いてみた。
「私が勤務し始めたころは1泊1000円くらいだったと思います。でも、最近は平日でも1泊4000円くらいします。ゴールデンウイークや夏休み、桜のシーズンなどの繁忙期だと1泊7000円くらいになる日もあります」(同前)
値段が上がることによって客層に変化はあったのだろうか? 前出の女性に聞いてみたところ、驚きの答えが返ってきた。
「客層はここ数年で悪化しているように感じます。
以前、中国の方と台湾の方が共用スペースで喧嘩してしまったこともありました。いろんな国の宿泊客の方が増えたことによって、そうした衝突も多くなりましたね。あと、ドライヤーなどの備品が盗まれることもあって大変です……」
多様化する宿泊客を受け入れるゲストハウスにも、文化や価値観の違いから起こるトラブルに悩まされる場面も少なくないようだ。せっかくの旅行だからこそ、誰もが気持ちよく旅を楽しめるようにしたいものだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班