
6月にもかかわらず、東京都心では8日連続で真夏日を記録するなど、異例の暑さに見舞われている日本列島。街ではさまざまな暑さ対策のグッズを手にする人を見かけるが、近年、年齢や性別問わず普及してきているのが「日傘」だ。
「子どもの日傘」に対してネットにはさまざまな声が
年々進む夏の高温化に伴い、子どもたちが日傘をさして登下校する姿も見かけるようになった。Xにもこんな声があがっている。
「うちの地域も日傘持ってる小学生、中学生いる! 一般的になってきてて親としては安心できるね」
「7歳児の日傘を買ったㅤこの気候では小学生でも日傘必須かなぁ」
「最近は小学校や中学校でも日傘OKになったみたいで安心した。8年前、我が子が小学生の頃…学校まで徒歩20分、暑がりなのもあり日傘を使いたいと言うので学校に問い合わせたらダメだったなー」
一方で、こんな投稿も。
「熱中症対策として日傘の使用を推奨する学校がある一方で、安全面やトラブルを懸念して禁止している学校もあります」
「小学校の登下校用に日傘買って持たせたら、危ないから使用禁止とのこと」
学校によっては、「手がふさがって危険」「視界が遮られる」などの理由で、児童生徒の日傘の使用を禁止するところもあるという。それだけではない。
「子どもが日傘をさすことに対して“偏見”を持つ保護者がいる」と話すのは、編集部の記者(40代)だ。記者の話によれば、子どもが通う都内の公立小学校では、日焼け対策として女児に日傘を持たせている家庭に対して、「あそこは“日傘のお宅”だからね。お高くとまってるよね」と保護者同士で陰口を叩く――こうしたケースも発生しているというのだ。
子ども用日傘が前年比170%の売れ行き…全小学生に配布する自治体も
賛否両論ある「子どもの日傘」。傘メーカーにも話を聞いた。
傘・レイングッズメーカーの株式会社小川では子ども用日傘を開発・販売しており、2024年時点で累計販売本数が10万本を突破したという。
「子どもは大人よりも背が低く地面に近いので、日光の照り返しの影響を受けて暑さを感じやすいといわれています。炎天下で登下校する子どもを心配した社員の発案で、2018年に子ども用日傘の開発に着手しました。
コロナ禍で子どもたちがマスク着用で登下校するようになったときに、愛知県豊田市内のある小学校が『傘をさせばマスクをしなくていい』という“傘さし登下校”を始めました。傘をさすことで自然に児童同士の距離が保たれ、日傘の代わりにもなる、という経緯で始まった取り組みでした。そのことが話題になり、子ども用の日傘の認知とともに需要も高まってきました」
このように話す同社担当者によれば、子ども用日傘が今年は異例の売上を記録しているという。
「ひとつのシリーズの商品に限って言いますと、2025年1月から6月までの販売数が昨年比で170%になっています」
現在はオンラインでの販売がメインだが、「店頭での販売も徐々に広がってきています」と話した。
自治体でもさまざまな取り組みを行なっている。
「日本一暑い街」として知られる埼玉県熊谷市では、自治体の施策として、小学生に日傘を配布するという取り組みを行なったという。
「2022年に、市内の全ての小学生9000人に日傘を配布しました」
このように話す同市の担当者によれば、配布されたのは、オリジナルで製作された晴雨兼用の傘。「実際に使っていただいているお子さんは多かったのではないか」という。
この事業自体は昨年度で終了したというものの、「熱中症対策として日傘をさすという意識も広がってきていると思います」と話した。
「日傘で紫外線をカットしても近視に影響するとは考えにくい」
一方、医学的な観点からは次のような声もある。
近年、子どもの近視が増加しているといわれる。日本眼科医会の担当者は、「子どもの近視の予防には屋外活動が推奨されています」と、子どもが日光に当たることは大切だとした上で、「(直射日光が当たらない)木陰や建物の陰でも(近視予防の)効果はあるとされています。炎天下では帽子やサングラスなどでもよいといわれているので、日傘で紫外線をカットしても近視に影響するとは考えにくいです」と話した。
さらに、「小学生低学年ぐらいでは、日傘をさすことで片手がふさがり、周囲の様子がわかりづらくなるため、歩行の安全面からは(日傘使用は)あまり推奨しません。移動する際などはつばのある帽子などで紫外線を防ぎ、なるべく手は空いた状態がよいでしょう」としつつ、「日傘を使用する場合は、窓付きのものを使用したり、木陰もなく炎天下である程度の時間いなければならないときなどに使用するのがよいかもしれません」と話した。
子どもの日傘の使用に関しては国の行政機関も言及している。
環境省と文部科学省が作成した「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」(令和6年4月追補版)の「2.熱中症事故等事例とそれを踏まえた対応」には、以下のように記載されている。
「児童生徒等の発達段階や状況、学校の実情を踏まえつつ、日差しを遮ること(帽子や日傘等の活用も考えられる)や、通気性・透湿性の良い服装となることを指導する。」
日傘を持っての登下校にはさまざまなリスクが伴うかもしれない。しかし、夏の高温化が年々進み、子どもたちへの影響は大人の想定を上回っている。自治体や教育現場、家庭での検討と対応がますます求められるのではないだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班