
「部屋を民泊に使うので6月末までに明け渡せ」と住民に一方的な通知が行なわれた大阪市港区のマンションは、国家戦略特区法に基づく「特区民泊」の認可を大阪市から受け民泊にも使われていた。だが民泊経営の実態に不透明な点があるとして大阪市保健所が調査に入ったところ、新たに部屋の面積も認可の基準を満たさず、違法の疑いがあることがわかった。
マンション全体が特区民泊としての使用が禁止される可能性
2019年9月に新築された8階建てのマンションは、2~8階の7フロアが住居スペースで、不動産仲介業者のサイトによれば各階に3部屋ずつの計21戸がある。
ここには中国系とみられるオーナーの商社X社(大阪市)と賃貸契約を交わして居住した住民の部屋と、特区民泊の部屋が混在してきた。マンションの玄関にはホテル風ののれんがかけられ、民泊施設としての演出がなされている。
「2023年10月にこのビルをX社に売却した、前のオーナーである中国系投資会社Z社は、全室を民泊利用するつもりだったようですが、コロナ禍などで集客が思うようにいかないため、一部を賃貸住宅用に貸し出したとみられています」と不動産関係者は話す。
「玄関のそばにあるゴミ捨て場は、以前は住民に渡されたカギで施錠する仕組みでしたが、1年ほど前から錠がなくなり誰でも捨てられるようになりました。前はなかったのれんが登場したのもそのころだったと思います。旅行客が万博で増えると見越して、そのころから民泊に力を入れるようになったのだと思います」とマンション関係者は話す。
そしてマンションに賃貸契約で入居した住民らに4月末から5月初旬にかけ〈本物件を全戸民泊使用とするため2025年6月末日までに本物件の明け渡しを履行していただきたく準備をお願いする次第です〉との通知がX社から送られた。
借主の権利保護に重きを置く関連法に照らせば無効とみられる要求だが、強引な求めに恐怖心を抱いた住民は複数が退去したり退去準備をしたりしているもようだ。
ところが、住民がX社の求め通りに部屋を明け渡しても、今後マンション全体が特区民泊としての使用が禁止される可能性が出てきた。
「マンション内で特区民泊を運営するのに必要な大阪市の認可では、事業の責任者である『営業者』は大阪市内に拠点があるY商事となっており、X社とは別です。
Y商事は前のマンションオーナーであるZ社の“代理”として特区民泊の認可手続きをとっていますが、認可は他社に引き継ぐことができないため、現在の民泊事業の責任者が現オーナーのX社なら、民泊運営は禁じられます。
さらにこの過程で、より重大な認可要件違反の疑いが持ち上がったという。
「特区民泊の部屋は25平方メートルの広さがあることが条件ですが、このマンションの部屋は基準を満たしていない疑いがあるのです。今、詳細な確認が行なわれています」(同前)
この物件になぜ特区民泊の認可が出たのか
不動産仲介各社は現在、このマンションの物件紹介を止めているが、過去の入居広告によればマンションには3タイプの部屋があり、広さはそれぞれ平方メートルで「21.41」「21.76」「23.47」となっている。
「各フロアとも、玄関がある通り沿いに2部屋が並び、共用スペースの廊下とエレベーターを挟んで反対側にもう1部屋が置かれる同じ構造だと思います」とマンション関係者は証言。
つまり、21戸すべてが特区民泊の求める広さに達していないとみられるのだ。
このような物件になぜ特区民泊の認可が出たのか。不動産登記簿によれば、建物は2階から8階まで床面積がすべて71.18平方メートルとなっている。共用部分を度外視しても3部屋を置けば1部屋の面積が25平方メートルを確保できないことは計算上も明らかだ。
この点について大阪市の保健所関係者は「特区民泊の申請者が建物全体の所有者なら、ひとつひとつの部屋が小さく基準に満たない場合は、部屋と部屋をつなぐドアを設けたり、壁を取り外したりしてくっつけた部屋を1つとして使うこともでき、その場合は基準をクリアできます」と説明する。
ただ問題のマンションは、民泊用を想定しながら客が少ないため一般賃貸に転用された部屋が多いのは前出の関係者の証言通りで、中でつながれた“コネクティングルーム”構造になっていることは考えにくい。
さらに、このマンションが特区民泊の許可を取れたのは、そうした“小細工”でもないことが取材で判明した。
「この物件は、2階から8階までがすべて、71.18平方メートルの“1部屋”であるとして申請が出され、その通り認可されているのです」(大阪市関係者)
つまり廊下などの共用面積も含めてフロア全体を1つの部屋として認可を受け、実際は基準以下の面積の部屋に割って使っていたことになる。
大阪市の関係者は「このマンションで行なわれてきたことと認定された内容は全く違う形とみられるので、確認できれば是正の指導をすることになるでしょう」と話す。
この物件を巡っては一般賃貸の広告だけでなく、特区民泊の広告も6月に入ってから止まっており、大阪市保健所の調査を受けた事業主体が営業を止めたと行政側にアピールする目的もありそうだ。
だが、玄関わきのゴミ捨て場には最近も使い捨てのスリッパが捨てられ、周辺住民は「最近も外国人旅行者らしい人はマンションに出入りしていますよ」と話す。民泊の今の営業実態は不明だ。
特区民泊を増やすから部屋を明け渡せと迫られ、マンションを出ることを決めた住民の一人は「もう大阪市には住みたくない。市民の生活を圧迫してまで特区民泊の呼び込みを続ける大阪市はどこを向いているんでしょう」と話した。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班