「マニュアル通りにやったら、おぢからいくら引っ張れた」頂き女子りりちゃんのオンラインサロンに集った“りりヲタ”たち…逮捕後には「私も捕まるのかな?」「りりちゃんは私の青春だった」りりロスの声も
「マニュアル通りにやったら、おぢからいくら引っ張れた」頂き女子りりちゃんのオンラインサロンに集った“りりヲタ”たち…逮捕後には「私も捕まるのかな?」「りりちゃんは私の青春だった」りりロスの声も

SNSで「頂き女子りりちゃん」を名乗り、複数の男性から1億5000万円余りを騙しとった罪で服役中の渡邊真衣受刑者。彼女は逮捕される前夜まで、毎晩オンラインサロンを開催していたという。

「りりストーカー」「りりヲタ」と呼ばれるファンの女性たちと渡邊はこのサロンで、男性からいくらお金を引っ張ることができたかを共有し合っていた。

 

書籍『渇愛:頂き女子りりちゃん』から一部を抜粋・再構成し、実際にコミュニティに参加していた増田ぴろよ氏の話を掲載する。

女性たちが集まった「りりちゃん」という楽園

歌舞伎町時代の「りりちゃん」を取り巻く中でもひときわ異彩を放っていたのは、「りりストーカー」や「りりヲタ」と呼ばれるファンたちだったように思う。

その中でも「トップofりりヲタ」を自認しているのが、アーティストの増田ぴろよ氏だ。

ぴろよ氏とは、渡邊被告の公判でたまたま席が近くになることが多く、そこで法廷画をスケッチする姿を何度も目撃していたため、最初はどこかのテレビ局が依頼した法廷画家なのかと思っていた。しかしSNSを見てみると、「りりヲタ」として自らの意思で自腹を切って名古屋に行き、公判の傍聴を重ね、「りりちゃん」の姿をスケッチブックに残していることがわかった。

マスコミには属していないぴろよ氏が傍聴券を入手する方法は抽選しかない。そのため、友人たちや東海地方のホストたちに声を掛けて整理券を入手する列に並んでもらい、傍聴券をゲットしたのだという。時間も手間も、お金もかかっていることがわかる。これは並大抵の労力ではない。一体、渡邊被告のどこにそこまでの「引力」を感じているのだろうか。

しばらくSNSを通じてやり取りをした後、渡邊被告の判決が出てから約ひと月後の5月下旬、歌舞伎町のルノアールで話を聞いた。

ぴろよ氏は元モーニング娘。

の安倍なつみによく似た、楚々とした女性だ。歌舞伎町を舞台に女性たちの受けた「傷」「母娘関係」などをテーマにしたアート作品を制作している。

ぴろよ氏が「りりちゃん」を知ったのは、2018年の冬頃だったという。

「私、もともとはメン地下(メンズ地下アイドル。大手の芸能グループに所属せずに活動する男性アイドルのこと)にハマっていたんですけど、その頃にはホストクラブにも通うようになっていたんですね。自分の作品のテーマが『自身の傷』を見つめることだったので、ある意味作品作りのためにも、ホストにもハマらなければならないと考えていたんです。入り口は〝作品のため〟だったんですけど、いつのまにかどっぷりハマってましたね」

当時はホストバブル真っ盛りで、TwitterをはじめとしたSNSでは、女のコたちが「ホス狂い」を自ら名乗りながら、どうお金を稼いでそれをいかにして愛する担当に使っているかを、こぞって投稿していた。

ぴろよ氏はそうした投稿をチェックする過程で「りりちゃん」の存在を知ることになる。

「当時、りりちゃんは毎日配信していて、とにかく面白かった。もう印象としては〝すごいヤツが現れた……〟ですね。コインロッカーに大金を置いていたら、おじさんに盗まれた、とかエピソードが全部ビビッドだった」

おぢからいくら引っ張れた

「りりちゃん」の登場からしばらくすると、歌舞伎町では「好きで好きで仕方なかったから」という理由で、指名していたホストを刺したA子が大きな話題になり、「令和のキャッツアイ」と呼ばれる女性2人組が、指名ホストの寮に忍び込んで多額の金品を盗み取るなど、「ホス狂い」女性がらみの事件が連発していた。

当時の歌舞伎町はこうした「ホス狂い」に関するニュースに事欠かず、ぴろよ氏はそれらをくまなくチェックしていたというが、やはり一番引力を感じたのは「りりちゃん」だった。

ぴろよ氏は「りりちゃん」のSNSでの発信や配信を「ずっと面白かった」と振り返るが、その真骨頂は2021年7月にコレコレ氏によって配信されたインタビュー動画以降の配信だったと話す。

「その頃、りりヲタたちのコミュニティがあったんですけど。コレコレさんの配信の後だったから『マニュアル』の存在も世間にバレていたし、危ないなということで、彼女なりに気を使って、パスワードがないと入れないクローズドのグループになったんです。

LINEのオープンチャットなどいろいろな形がありましたが、一番盛り上がっていたのがDiscordの20人くらいのコミュニティで、これはとても熱かった。完全に記録を残さないようにしていたし、あの時は一番、りりちゃんにとっての理想の場所ができていたのかもしれません。

そこでは、みんなで『マニュアル通りにやったら、おぢからいくら引っ張れた』とか、言ってしまえば『犯罪報告』をしていて。そこでの配信は本当に面白くって、例えばおぢとりりちゃんとの公開電話とかもあって。

中でも『ミュージシャンおぢ』とりりちゃんが即興でセッションして、おぢの歌と演奏に合わせてりりちゃんがラップをやった時はものすごく盛り上がった。彼女、即興で歌うシンガーソングライターのような配信をしていた時期もあって。だから音楽に対する反射神経が良かったんですね」

もちろん「ミュージシャンおぢ」は、そんなやり取りが公開されていることに気づいていない。

同様に、渡邊被告は複数のおぢとの通話やメッセージをりりヲタに向け、詳細に公開していたという。

「全部のおぢが、会話が白日のもとに晒されてるのに気づいていないし、最後までバレなかったのは凄い。その頃彼女が配信で言っていたのは、『高額を頂いているのは7人くらいしかいない』と。

毎回、『新規おぢ』との出会いから頂きまで、すべてのプロセスを見せてくれていて。一括で〝頂く〟ことは無理だからと、ガチ恋に持っていくまでを電話で1時間くらい実況中継してくれたり。Twitterのスペース機能を使って配信してくれたこともありました」

こういった配信や「オンラインサロン」は毎日開催されており、それらの「りりちゃんとの場」では、まず、渡邊被告が参加者全員の点呼を取ることから始まったという。

詐欺師の集団

「私に対しては『滑舌が悪い!』とか『声が小さい!』とか言って、構ってくれたんですね。しかも毎日開催してくれるから、どんどん彼女を好きになっちゃって。関係も密になっていった。りりちゃんが源氏名『うぶちゃん』としてソープで働いていた時には、勤務している店にまでりりヲタが会いに行ったりしていました。参加しているコは全員が全員、若いコというわけではなく、50歳手前くらいの『高齢頂き女子』もいた。その方はLINEのオープンチャットに自撮りをアップしまくったりと、ぶっ飛んでいましたが、人を陥れたり誹謗中傷はしない。綺麗に〝頂く〟方でした。

私も、りりちゃんにのめりこみすぎて配信に張り付いて、周囲から心配されるほどでした。彼女の面白さはもちろん、参加しているコたちも皆、独特で、スペース自体の楽しさというか、参加できることの特別感があったんです」

このサロンに集まる「りりヲタ」たちは、マニュアルを使って男性の恋愛感情を利用して大金を詐取し、それを報告し合っていた。言ってしまえば「詐欺師の集団」だ。



しかし、このサロンが「りりヲタ」たちにとってかけがえのない居場所であったこともまた事実だ。

人は誰しも成長するにつれて「あれ、私、こんなはずじゃなかった……」と思う時があるのではないか。幼い頃に自分の未来の姿として想像していた「キラキラした自分」どころか、世の中で言うところの「普通の人」にもなれていない自分に気づき、「心を開ける存在がいない」「居場所がない」「夢や目標を持っても、どうせ叶わないのだから仕方がない」と孤独を深めていく。

しかしサロンに参加すれば、居場所も夢も目標も、心を許せる仲間も与えてくれる。日常がどんなにつまらなくても、毎日「りりちゃん」が配信しており、クローズドの空間の中、皆で「成果」を報告し合い、「頑張ったね」と励まし合うことができる。

また時には「私のほうがりりちゃんから好かれてる!」と寵愛を競い合ったりもする。まるでこのスペースは、女性たちが孤独な毎日から逃げ込むりりちゃんを頂点としたアジールのようだ。ここにいれば、「頂き」というただひとつの共通目的に、仲間たちと同じ方向を向いて走っていくことができる。

渡邊被告の支援者として名乗りを上げた立花奈央子氏も、こう語る。

「私は後からこのコミュニティについて詳しく知りましたが、渡邊さん本人や参加者たちの話を聞いて、まるで部活やサークル活動みたいだな、と感じました。サークル活動では、同じ目的、精神で共に過ごす。目的に向かって情報共有し、日々の活動を報告し合い、そこが居場所になっていく。

そういった取り組み自体に、価値が見出されていたのではないでしょうか。

『頂き女子コミュニティ』って、別に『たくさんお金を稼ごう』みたいなことではなくて、『頑張ったね』とか『私はこうしたらうまくいったよ』という共感に基づくコミュニケーションと、それによってもたらされる連帯感に価値があったように思います。『もっとお金を稼ごう』という犯罪教唆のムードはなく、それゆえに参加者は罪の意識が薄かった。

とはいえ、社会的には後ろ暗いことですし、他の人に話せることではない。その点、このコミュニティは参加者の多くがホストクラブに通っていて、特有の悩みと目標を共有することができた。『担当のためにお金がいっぱい欲しい、だから〝おぢ〟から引っ張ろう。どうしたらいいだろう? みんなで一緒に頑張ろう、いぇい!』と。非常に危ういですが、歓楽街をフィールドにした部活であり、青春だったのでしょう」

そして、こう総括する。

「大きな大会が終わったり、進級したら自然と卒業しますよね。それからしばらくして『あの時みんなで頑張ったな』とか『あの頃のメンバーに会いたいな』と振り返ることはあっても、当時の狂気じみた〝熱気〟はもう二度と戻らない」

りりちゃんは、私の青春だった

「りりちゃん」と「りりヲタ」たちの関係は、ホストと客の関係では成立し得なかった「推し活」の〝理想郷〟のようにも見える。ホストと客である限り、「異性としてカレの一番になりたい」、さらには「交際したい」「付き合いたい」といった感情が入ってきてしまい、単純な「推し」という一言では済まされない。しかし「りりちゃん」のコミュニティは歪んではいるものの、まぎれもなく純度の高い「推し活」だったのではないだろうか。

しかし、それだけの蜜月を過ごしていたからには、りりちゃんの逮捕時にファンたちは多大なショックを受けたであろうことは想像に難くない。

私が、ぴろよ氏に当然のように「りりちゃんを助けるためのクラウドファンディング(多数の人から資金を募って事業を実現する仕組み)が始まったりなどの動きはなかったのですか?」と聞くと、ぴろよ氏は顔を曇らせ、こう言うのだ。

「そうはなりませんでした。逮捕の一報が出たら『マニュアル買っちゃった、どうしよう?』とか、『私も捕まるのかな?』とか、自分の身を案じるようなやり取りがあったくらい。逮捕前、頂き女子のオープンチャットには、数十人の『ヲタ』が残っていたんですけど、そこでの連帯は生まれなかったんですね。

ただ、高齢頂き女子のXさんは違った。『りりちゃんが心配』と拘置所のりりちゃんにお手紙を送って交流したり差し入れしたり、りりちゃんが逮捕されてから1年後には、オープンチャットに『あの頃は楽しかったね』とメッセージを書き込んでいます。

だけどそれはレアケースです。そもそもみんなりりちゃんに対して『私が一番彼女を理解していて、彼女も私を一番理解している』って、思っていて。りりちゃんと自分の境目がどんどんなくなってきちゃっていた」

ぴろよ氏が続ける。

「ここに集まったコは、皆〝頂き〟をするコで、それぞれホストにハマったりと〝傷〟があった。りりちゃんにハマったコは皆、りりちゃんに〝傷〟を感じたのだと思います。私もちょうど、人生のすべてがうまくいかなかった頃で、そこで出会ったりりちゃんとマニュアルに『ここには正解がある』と感じた。

りりちゃんは、誰かの〝神〟になってくれる人だった。でも、ヲタ同士が連帯することは危うく、難しかった。逮捕されて、『頂き女子』が犯罪だと世間に知られるようになってしまってからは、りりヲタの連帯は崩れてしまったんです」

私はぴろよ氏の話を聞いて、渡邊被告が詐欺幇助の罪で捕まるきっかけとなった名古屋の女子大生のことを思い出していた。「頂き女子マニュアル」を参考にして、男性2人から約1000万円を詐取した彼女は、法廷で「りりちゃんをみんなから奪ってしまいました」と語り、全国紙社会部の女性記者との接見では「りりちゃんは、私の青春だった」と話したという。

彼女は「怒号ちゃん」というハンドルネームで「りりヲタ」の間では知られた存在だったそうだ。

渇愛: 頂き女子りりちゃん

宇都宮 直子
「マニュアル通りにやったら、おぢからいくら引っ張れた」頂き女子りりちゃんのオンラインサロンに集った“りりヲタ”たち…逮捕後には「私も捕まるのかな?」「りりちゃんは私の青春だった」りりロスの声も
渇愛: 頂き女子りりちゃん
2025/7/101,870円(税込)256ページISBN: 978-4093898119

「頂き女子」に迫った衝撃ノンフィクション

複数の男性から総額約1億5千万円を騙し取った上、そのマニュアルを販売し逮捕された「頂き女子りりちゃん」に迫った本作に大絶賛の声続々!

◎町田そのこさん
彼女が奪う側に戻らない道を考える。読んでいるときも、読み終えたいまも。

◎橘玲さん
すべてウソで塗り固められた詐欺師
家族や社会から傷つけられた犠牲者
彼女はいったい何者なのか?

―選考委員激賞!第31回小学館ノンフィクション大賞受賞作―

◎酒井順子さん
りりちゃんの孤独、そして騙された男性の孤独に迫るうちに、著者もりりちゃんに惹かれて行く様子がスリリング。都会の孤独や過剰な推し活、犯罪が持つ吸引力など、現代ならではの問題がテーマが浮かび上がって来る。
◎森健さん
今日的なテーマと高い熱量。とくに拘置所のある名古屋に部屋を借りてまで被告人への面会取材を重ねる熱量は異様。作品としての力がある。
◎河合香織さん
書き手の冷静な視点とパッションの両者がある。渡邊被告がなぜ”りりちゃん”になったかに迫るうちに著者自身もまた、”りりちゃん”という沼に陥り、客観的な視点を失っていく心の軌跡が描かれているのが興味深い。

編集部おすすめ