原口あきまさがものまね番組の「暗黙のタブー」打破を決心した“涙の改ざん”事件「芸人が流す涙には必ず意味がある」
原口あきまさがものまね番組の「暗黙のタブー」打破を決心した“涙の改ざん”事件「芸人が流す涙には必ず意味がある」

芸能生活30周年を迎えた原口あきまさには、かつてテレビのものまね番組で味わった苦い経験がある。ものまね界に存在した“暗黙のタブー”の裏側で奔走した日々、自身のスタイルに影響を与えた大物芸人からの言葉を本人が明かす。

(全3回の2回目)

テレビの「ものまね番組」に出なくなった理由

かつてものまね界には、同じものまね芸人が局をまたいでものまね番組に出演することができないという、暗黙のタブーがあった。

「以前、僕が収録中に流した涙が編集で思わぬ形で使われてしまったことがあったんです。ものまね番組の決勝を戦って、対戦相手が優勝したんですが、その本筋とは関係のないところで、コロッケさんがみんなの前で『ものまね芸人もこんだけいるからね、大事にしてあげてほしい』って熱い言葉をくれたんですね。『原口とかもがんばってるしさ』って、名前も出されちゃって、それにグッときて泣いちゃった。

でも、オンエアを見たら、その涙が『優勝者決定、おめでとう!』のあとにポンと挟まれていて、『ああ、これ意味がぜんぜん変わっちゃったな』と思いました」

「芸人が流す涙には必ず意味がある」という原口にとって、ただの演出にすり替えられることは耐えがたかった。

当然、そこに至るまでにも、理不尽の積み重ねがあった。過去には、明石家さんまのものまねに必要な入れ歯を持ち出せないように、局で厳重に保管されていたこともあったという。

「みんながそうは思っていないかもしれないけど、ものまね芸人がちょっと雑に扱われた時期があったんです。少なくともものまね芸人さんが『僕たち、いる意味あるのかな』と思ってしまった。

それで、いろいろと相談を受けていたんですね。1分半~2分程度の持ち時間のなかで、なるべく笑いを入れながら担当ディレクターさんと何度も打ち合わせして、やっと通ったネタが、オンエアでは意味が伝わらないくらい途中で雑に編集されていたりして。

トークで面白いくだりがあっても、もちろん使われません。初めてその芸人を見た人が好きか嫌いかを決めるのはその一発でしかないのに、これでは次の世代が潰れてしまうなと思いました。

だから、『メディアも大事だけどライブかもしれない』と思って、ものまね番組を出るのやめてライブに動き出したんです」

ものまね界のタブーが解禁されたターニングポイント

2012年に原口が、ものまね芸人のホリとともに立ち上げた自主ライブ『変人』は、そんな危機感の延長にあった。

「とにかくテレビ局の垣根を越えたかった。なんでものまね芸人がものまね番組に出られないのか、それが一番の理不尽ですよ。実際、演者同士は仲がよくて、営業で即席コラボをすることも多かったんです。もちろん笑いだってそのほうがプラスになります。その経験から『演者だけでライブをやれるんじゃないか』と考えるようになりました。

僕とホリの汐留組(日本テレビ)に、お台場組(フジテレビ)から世代の近いミラクルひかる山本高広を呼んで、わざと招待席にお台場と汐留のスタッフさんを横並びに。そのリアクションをこっちが楽しんでました(笑)。演者が力を合わせればこんなエンタメができるんだっていうのを見せたかったんですよ」

『変人』はチケットの即日完売が相次ぐ人気イベントとなり、全国ツアーも展開するまでになった。その成功もあり、2014年には『ものまねバトル』と『ものまね王座』が交流戦を実施。長きにわたってものまね界を苦しめたタブーの解禁へとつながった。原口の動きは、確実にその世界の可能性を広げたといえる。

「自分で言うのも恥ずかしいんですけど、もっと評価されていいと思うんですよ(笑)。

(千原)ジュニアさんからも『けっこうなサムライやんな~』って言われましたけど、今では何のしがらみもなく、みんなどのものまね番組にも出られるようになりましたからね。

実際、僕も『ものまね王座決定戦』に出られたときはうれしかったです。幼い頃から見ていた『ものまね王座決定戦』だし、ものまねに魂を売ってからは、ずっと出たい番組でしたから(笑)。あの交流戦は、リアルにものまね界のターニングポイントだったと思います」

ものまね界のタブーが解禁された余波は、ものまね番組以外のバラエティにも広がっていった。TBS系のバラエティ『金スマ』(中居正広の金曜日のスマイルたちへ)でたびたびものまね特番が組まれるようになり、テレビ東京でも2021年から不定期で特番の『ものまねランキング』が放送されるようになった。

他にも、フジテレビ系『千鳥のクセスゴ!』内の「勝俣歌謡祭」など、ものまねを軸とする人気コーナーも次々と生まれ、ものまね芸人が集う場面では、原口が回し役を担うことも多い。

東野幸治から言われた言葉に背中を押されて…

「スタッフさんや、作家さん、演者さんもそうですが、僕がいると安心感が違うみたいに言っていただくことは多いです。実際、バラエティ制作の方々のほうが逆にものまね愛があったりするんですよ。だからそういう人たちの作る番組に出たい。

ものまねを本当に求めてくれてる場所に行きたいなと思うようになりました。東野(幸治)さんからも『もうええねん、原口は鎖を引きちぎって、野良犬のように走り回ったらええねん。野良ものまね師としてバラエティ番組を荒らしていってください』って言われています(笑)」

 2012年からレギュラー出演している『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)でも、この数年で変化があったという。



「出張鑑定のMCとして依頼人の話を引き出す聞き役なんですが、今まではリアクション部分しか放送にのらなかったんですね。でも、ずっとやり続けていたら、だんだんツッコミもオンエアにのせてくれるようになったんです。

それは、これまでの積み重ねというか、フレーズだったり、ツッコミの腕も磨かれてきたのかなって。かつて、芸人として売れたときにやってみたいと思っていたような仕事を、今ようやくやれている気がします」

巡り巡って掴んだ芸人・原口あきまさの矜持。『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)の人気ドッキリ企画「ブラックメール」がさらなる転換期だったと自身で振り返る。

「元祖チャラ男というか、合コン王みたいに取り上げていただいたんですね(笑)。それで、ドッキリにかかって落とし穴にドーンって落ちたとき。あれは、ものまねじゃなく、本当の僕のキャラだった。まわりの芸人さんも『本当に売れたのは、あそこですよね』って言ってくれるんです。

あそこで『さんまさんのものまねをするあの人、誰だっけ?』から、『ブラックメールの原口って、さんまさんのものまねしてるよね」に変わっていった。その転換点って自分の心の変化として、実はすごく大きかったんです。あれがあったから鎖を引きちぎれたと思うし、だからこそ今の僕があるんじゃないかなと思います」#3へつづく

取材・文/森野広明 撮影/石垣星児

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