Netflexが流行る理由とギャンブルがやめられない心理は根っこは同じ? 池上彰が解説する驚異の「サンクコスト効果」
Netflexが流行る理由とギャンブルがやめられない心理は根っこは同じ? 池上彰が解説する驚異の「サンクコスト効果」

店頭に端数の価格の商品が並ぶ理由、限定商品が世の中に存在する理由、そしてギャンブルがやめられない理由も、すべて人間の元来持つ「性質」にあると言われている。いま、そんな人間の性質を読み解く「行動経済学」という学問が世界のビジネスエリートや大学、そして名だたる企業から注目されている。


書籍『なぜ人はそれを買うのか? 新 行動経済学入門』より一部を抜粋・再構成し、丁寧に解説する。

キリのよい価格より端数が好まれる!?

行動経済学を活用した工夫や仕掛けは、私たちの身近なところでたくさん見つけることができます。

たとえばスーパーの店頭で300円、500円といったキリのよい値段がつけられた商品はあまり見かけません。多くの商品の値段は198円とか399円とかのような端数が出ています。

食料品や日用品ばかりでなく、衣料品も同じです。ユニクロに行くと、1990円や2990円の商品がズラリと並んでいます。

このようにキリのよい数字から少し下げて設定した値を「端数価格」といいます。

なぜわざわざこうしたことをするかは、もうおわかりでしょう。たとえば1000円と980円ではわずか20円の差しかありませんが、その数字以上に消費者は980円の表示を見たときに「安いな」と感じてしまうからです。

4桁の1000円と3桁の980円。ひと桁少ない価格表示は、消費者の財布のヒモを緩めるのに充分な効力を発揮するのです。

限定商品が世の中に多く存在する理由

消費者の購買欲を高めるためにはいろいろな方法があります。「限定」をアピールするのもそのひとつ。「3日間に限り3割引き」とか「100名様限定」とかのやり方です。



消費者が「限定」に弱いのは、それによって急かされるからです。これをもう一歩踏み込んで考えると、消費者側に「損したくない」という意識が働いていることがわかります。

「3日間に限り3割引き」とは、言い換えれば、この3日間を逃すと割り引きにならずに損をしますよ、という呼びかけです。

「100名様限定」は、100名のなかに入らないと高い買い物になってしまいますよ、という意味になります。

こうした、このチャンスを逃すと損をしてしまうという呼びかけに人間は弱い。それは、私たちに「損失回避性」があるためです。

これは、人は得をしたときの喜びよりも損をしたときのショックのほうが大きく、そのためなるべく損失を回避しようとする傾向が強いということです。

つまり「こうすると得ですよ」と訴えるよりも、「こうしないと損ですよ」と訴えたほうが消費者には有効であることがわかります。

メリットよりデメリットを訴求せよ!?

人は利益から得られる満足よりも損失から受けるダメージのほうが大きいことから、損失をより嫌う「損失回避性」があることは前述しました。

この心理を突いた手法はCMでもよく見られます。つまり、この商品を使うとこんなメリットがありますと訴えるのではなく、この商品を使わないとこんなに損をしますと訴える手法です。

こうしたCMや広告は、とくに洗剤や医薬品、サプリメント、エチケット商品などによくみられますが、一般的な商品についても有効です。

たとえば「この靴をはけば、長時間歩いても疲れません」と「あなたがすぐに歩き疲れるのは自分に合った靴をはいていないからです」では、どちらが心に響くかといえば、デメリットを訴求した後者のほうです。



私たちは損をすることに敏感です。したがって、そこにこそ効果的な訴求ポイントがひそんでいるのです。

定額のストリーミングサービスが流行る理由 なぜ人はギャンブルをやめられない?

人は何かにお金をつぎ込むと、その分を取り戻そうとします。これを「サンクコスト効果」といいます。サンクコストとは、回収できないコストのことです。

パチンコに代表されるギャンブルなどは、そうした人間の性質によって成り立っていますが、一般のビジネスでもサンクコスト効果は利用されています。

定額料金で動画や音楽を配信するストリーミングサービスもそのひとつでしょう。

「お金を払っているのだから、モトを取ろう」と、せっせと私たちは動画を見ます。すでに支払ったお金は取り戻せませんが、その支払っただけの満足感を得ようとするわけです。

毎週、あるいは隔週で刊行される分冊百科の本も、サンクコスト効果を巧みに利用したビジネスです。

1号ずつそろえていき、すべてそろえばまとまった百科事典として完成します。最近は付録で1号ずつパーツが送られてきて、ミニチュアモデルなどを完成させていくタイプも増えています。

これを完成させるには途中でやめるわけにはいきません。

「ここまで続けてきて、いまさらやめられるか」という、まさにサンクコストを突いたビジネスといえます。

なぜ人はそれを買うのか? 新 行動経済学入門

池上彰
Netflexが流行る理由とギャンブルがやめられない心理は根っこは同じ? 池上彰が解説する驚異の「サンクコスト効果」
なぜ人はそれを買うのか? 新 行動経済学入門
2025/8/131,590円(税込)192ページISBN: 978-4054070509

★★世界が注目!ビジネスに効く!池上彰氏が解説★★
行動心理を読み解く最新理論【行動経済学】がわかる!
基礎からあらゆるビジネスの場面での使い方まで、豊富なイラストとわかりやすい解説で、サクッと理解できる!

●行動経済学を知らないとマズい時代が来ている!?
本屋さんで経済学のコーナーを眺めてみてください。いまや行動経済学の本が多く並んでいるはずです。こうした傾向は日本だけではありません。世界のビジネスエリートや大学、そして名だたる企業からも行動経済学は注目されているのです。

◆人間は感情や思い込み、状況に左右されている…
「人間とは何か」を追求すればビジネスにも役立つ!◆
・売上を上げたいなら、二択よりも三択!
・「損したくない」が行動を決めている!
・人を操る魔法の理論「ナッジ」とは?
・人は必ずしも合理的に行動しない!?
・あぶく銭ほど散財してしまうのはなぜ?
・値下げするなら「アンカリング効果」を使うべし!
・「成功率95%」と「失敗率5%」の違いは?

※2022年に弊社より刊行された『池上彰の行動経済学入門』の大幅増補改訂版です。

【もくじ】
●Introduction そもそも行動経済学とは何か?
●序章 経済は「人の心」で動いている!行動経済学のキホン
●第1章 身近にあふれる!行動経済学を利用したビジネス戦略
20円の差で売れ行きは伸びる?/「くわしくは○○で」が気になる理由/クラウドファンディングはなぜ流行したのか?/「当店の人気No1」などのポップが有効なのはなぜ?/ヒット商品の鍵を握るMAYA理論とは? ほか
●第2章 意思決定をする直感「ヒューリスティック」とは?
推しのグッズを買い集めてしまうのはなぜ?/なぜ人は損切りがうまくできない?/人はなぜ民間療法を信じやすいのか?/血液型がB型の人はマイペースというのはホント? ほか
●第3章 「損したくない」が行動を決める!?「プロスペクト理論」とは?
ベストな選択をするための「プロスペクト理論」とは?/損失を避けたい心性を証明する「価値関数」/宝くじ当選の夢を人はなぜ見続ける? ほか
●第4章 人は将来よりも「今」を重視する!「現在バイアス」「社会的選好」とは?
1年後の2万円より今日の1万円を選ぶのはなぜ?/空腹時にスーパーに行くとつい買いすぎるのはなぜ?/買い替えの足かせになる「スイッチングコスト」とは? ほか
●第5章 人を操る魔法の理論「ナッジ」とは?
そっとヒジでつつく「ナッジ理論」とは何か?/健康増進型保険は本当に健康に役立っている?/ビッグデータで「個別ナッジ」の時代に/ナッジの危険性と正しい使い方を知ろう! ほか
●第6章 行動経済学が切り拓く未来
「利他性」が生み出す新たな経済活動/SDGsを達成するためにも力を発揮! ほか

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