「正直ナメてる」ものまね芸人の“本人公認”は笑いへの免罪符となるのか「一般視聴者の評価は、芸がどれだけ似ているか、面白いかにかかる」
「正直ナメてる」ものまね芸人の“本人公認”は笑いへの免罪符となるのか「一般視聴者の評価は、芸がどれだけ似ているか、面白いかにかかる」

9月9日、都内で営まれた橋幸夫さん(享年82)の通夜に、EXILE・ATSUSHIのそっくりさんとして活動するものまね芸人のRYOが参列し、「売名行為」と炎上した。RYOと橋幸夫さんの間に、とくに親交はなかったというが、ものまね業界に詳しいライターの森野広明氏が、ものまね芸人とご本人との微妙で複雑な関係について解説する。

ものまね芸の“公認”問題

橋幸夫さん通夜での騒動後、RYOは自身のXで「報道陣関係者の皆様に勘違いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」と謝罪コメントを発表したものの、この事件を受けて“ご本人“であるATSUSHIは、「正直ナメてるなと思いました」「僕の公認という人はいません。過去にいいよと言っていたのなら解除」と自身のライブ配信で発言したという。

RYOは、2024年1月に営まれた電撃ネットワーク・南部虎弾さんの葬儀の場でも迷惑行為を働いたという過去もある。海外では金正恩のそっくりさんであるハワードXやトランプ大統領そっくりさんのデニス・アランなどが、各地に現れて物議を醸すことはあるが、彼らは自らを「風刺モノマネ」と位置づけ、政治への関心を喚起する意図を掲げて活動している。

一方、RYOは日本のアーティストのそっくりさんであり、そうした要素は見出しにくい。むしろ、ATSUSHIの苦言に対して「ATSUSHIさんがファン向けの配信にて僕のことを『舐めてると』言った様ですが、そんな言葉を公の場で言うのはやめて下さい」と反論していることから、“迷惑系インフルエンサー”といった文脈で見るほうが理解しやすいだろう。

RYOは過去の共演経験を引き合いにATSUSHI からの“公認”を名乗っていたが、そもそも、ものまね芸人の「公認」には実効性がない。2007年に、矢沢永吉のものまね芸人・石山龍大(石山琉大)が自らのサイトに掲げた「矢沢永吉が唯一認めたものまねタレント」の文言に矢沢サイドが抗議し、石山が損害賠償を求めて逆提訴するまで泥沼化した事件があった。

その際に東京地裁の裁判長は「一般視聴者の評価は、芸がどれだけ似ているか、面白いかにかかる」とし、「本人が“唯一認めた”か否かで社会的評価は左右されない」と述べている。

ちなみに、矢沢永吉のそっくりさん界隈では、同じく2007年に矢沢永吉ものまね芸人の矢沢永作が、引退をほのめかしたサッカー・三浦知良のものまね芸人カズノコに激昂し、仲裁に入った、つんく♂のものまね芸人・つんつくの右耳たぶを噛み切るという痛ましい事件もあった。 

ものまね芸人とご本人との微妙で複雑な関係

ここまでくると「なんのこっちゃ」というか、関係のないご本人にとっては災難でしかないわけだが、人気バラエティー番組『水曜日のダウンタウン』(TBS)の演出を務める藤井健太郎氏が、RYOの騒動に触れてXに投稿した「歌マネや声マネなどと違い、ひとつも努力せずに売れてしまうことがあるため、そっくりさん系のモノマネ芸人にはヤバい人が多めに含まれているのは有名な話」というポストが説得力を増す。

思い返せば、ものまねブームの一時代を築いた『ものまね王座決定戦』(フジテレビ)には「ご本人登場」という名物企画があった。伴奏が続くなか、ものまねされた本人が舞台裏から現れるドッキリ的演出で、男性ゲストの第1号はコロッケのものまねで再評価を得た美川憲一

美川はのちのインタビューで、コロッケに「自分のものまねをやるよう勧めた」と明かしている。

女性の第1号は青江三奈さんで、清水アキラがハスキーボイスで誇張して歌う『伊勢佐木町ブルース』(1968年)に降臨。

こちらも『ラーメンブルース』(1991年)というデュエット曲をリリースするなど交流を育んだ。ものまね四天王時代はバブル期であったこと、また、ものまね番組に懐かしい芸能人の再生工場の機能があったことなどから、ご本人と密接な関係を築いていたといえる。

一方、ものまね第三世代と呼ばれる次の世代では、ご本人との距離感はやや遠のいた。タモリのものまねでブレイクしたコージー冨田は、素人時代に『笑っていいとも!』の出演はあったものの、コージー冨田名義でのタモリとの共演はおそらくない。

原口あきまさは2003年頃に研ナオコの紹介で明石家さんまと面会しているが、テレビでの直接共演は、ほいけんたと共に出演した2015年2月の『さんまのまんま』(関西テレビ)を待つことになった。この背景には、ものまね対象が大御所であることのほかに、歌ではなく“憑依芸“とも呼べる、ものまね芸の細かさを特徴としている芸人であることが関係しているかもしれない。

例えば、コージーによるタモリの「髪切った?」というお馴染みのフレーズは、「タモリは目の前の変化をよく口にする」という性質を分析したコージーが、ものまね番組でMCのヒロミにとっさアドリブで口にしたもので、タモリの言葉ではない。

だが、いかにもタモリが言いそうなセリフだと世間も感じたのでここまで広まった。

実際、今年9月19日に放送された『ミュージックステーション』(テレビ朝日)では、ヘアスタイルをチェンジしたというガールズグループ・XGのCHISAから「“恒例の”髪切ったを……」とおねだりされ、それを受け入れつつも「俺はあんまり言わないんだけどな」とボソりと呟いていた。完全否定してはいないが、複雑な思いは少なからずありそうだ。

ものまね芸は「黙認」が一番?

令和に入ってからは、ものまねがより本人の目に届きやすいSNS時代が到来し、「公認」の二文字は存在感を強めた。

2019年には一生交わることがないと思われた、ものまねSMAPのメンバーがABEMAの『7.2 新しい別の窓』で新しい地図の3人との邂逅を果たし、2020年正月に放送された『ドレミファドン!』(フジテレビ)では、ホリ木村拓哉と18年越しの初対面で号泣。

2023年には『爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル』(フジテレビ)で「〇〇だらけのものまね王座決定戦」という企画が開催され、堂本剛倖田來未が自身のものまね芸人たちを審査したことも話題を呼んだ。

長年ものまねをしてきた芸人が、ご本人と共演するのは感慨深いものがある。とはいえ、やはりものまねする側から「公認お願いします!」と求めるシーンを見るのはこそばゆい。

真似される側が公認することで懐の深さを示すことはできても、番組や企画の都合上、そうそうNOと言いにくいのも事実だし、たとえ公認をしなくてもそのネタが封印されるわけではない。

2015年7月19日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)で松本人志が「ものまねの人もすごい誇張してものまねして…、『ファンです』って、あのやり口はそろそろ、もうええかなって思わないですか!?」と語ったことがあるが、その真意は「誇張するな」ということではなく、「ファンです」を免罪符にするなということだろう。

今年9月の集英社オンラインのインタビューでも、原口あきまさはこう語っている。

「最近のものまね芸人は“ご本人公認”を求めすぎているんじゃないかとも思うんですよ。みんな『公認いただきました』って喜んでいるけど、僕は『お前、なに俺の真似やってくれてんだよ!』と言ってくれるほうがやりやすい。
公認をもらうと守りに入っちゃうし、下手にスベれないですから。もしご本人にお会いしたら土下座してそれっきり。あとは、なるべく会わないようにこそこそ生きていくのが一番なんです」

ものまね芸人が、ご本人も気づいていないクセや特徴、性格を誇張して表現できるのは、やはり斜めからのものを見る、批評的な目を持っているからだろう。

それはリスペクトの有無とはまったく別の問題である。

炎上したEXILE・ATSUSHIそっくりさんの一件について、「ご本人へのリスペクトが足りない」と語る意見が散見されたが、そもそも「公認」などというなんの効力も持たない言葉(営業のチラシには「公認」と打てるが)に振り回されることなく、自らの芸を磨き続けることこそが本当に大切なことなのではないだろうか。

文/森野広明 

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