“クズ芸人”としてフジテレビ系ドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」で特集され話題になったお笑いコンビ・ガッポリ建設の小堀敏夫(58)。同局で大晦日に放送予定の「ザ・ノンフィクションの大みそか2025 放送30周年スペシャル」にも出演を予定している。
そんな小堀は自らについて「俺はクズじゃない」と主張する。なんでも小堀の中で定義する“クズ”に自分はあてはまらないそうだ。小堀が考える真のクズとは。(前後編の後編)
人生なんとでもなると思っている
「ザ・ノンフィクション」では、ウソや遅刻は当たり前という小堀の怠惰な生活の様子が描かれた。しかしそれは今に始まったことではないという。小学生時代から寝坊の常習犯だった。
「2度寝って気持ちいいんだよ。俺は2度寝するために、1度寝ているのかもしれないね。毎日遅刻するから先生によく怒られたよ。
小学4年生の時、先生がものすごい剣幕で『今何時だ?』と詰めてきたから、“この教室の空気を変えないといけない”と思って『ニューヨークでは9時半です』って答えたら、教室中が笑ったんだ。
俺はそれがお笑いとは思っていなかったけど、振り返ると、俺にとってのお笑いの原体験だったのかもしれない」(小堀敏夫 以下同)
小堀は1992年に3代目三遊亭圓丈に入門し「三遊亭ぐん丈」の高座名で活動。1997年にガッポリ建設を結成した。相方の室田稔とコンビとして「エンタの神様」「あらびき団」など人気バラエティー番組に出演し、一部のお笑いファンから注目を集めた。
しかし近年は室田が愛知県を拠点にディレクター・アナウンサー業を中心に活動しているため、コンビとしての活動は行なっていない。
一方、小堀は58歳になった今も肩書きは芸人のまま、日々、ギャラ飲みやギャンブルに勤しんでいる。そもそも芸人自体が、浮き沈みが激しい職種だが、焦燥感に駆られることはなかったのだろうか。
「2011年の東日本大震災で芸人としての仕事がまったくなくなった時にちょっと不安になった。初めてピンチだと感じたかも知れないね。でもそれくらいかな。
その頃は本当にお金がなくて、近所の神社になっていた柿を一時的に借りて飢えを凌いでいたよ。神主さんは、良い人だからさ。ニコニコしながら寄ってきて『夜に来ないで、朝に来てくれれば差し上げますよ』なんて言ってくれた。
基本的にどんなことがあっても、ピンチとかキツイとは思わない性格なんだよ。“ネタがひとつ増えた”くらいの感覚で、人生なんとでもなると思っているね」
厳密に言うと俺はクズじゃない
小堀が住んでいるアパートの家賃は3万2000円。格安物件だが、現在でも家賃滞納を繰り返しているという。一方で今年1、2月は“ノンフィクションバブル”が訪れ、ギャラ飲みだけで90万円も稼いでいたというのに、どうして滞納してしまうのか。
「家賃にお金を払う価値を感じられないんだよ。例えばラーメンだったら美味しい。うれしくもなるし、そういうものの対価としてお金を払うことができる。でも、家賃はピンとこない。“大家さん、俺に何かサービスをしてくれたか?”と思っちゃうんだよ。
(安心できる家があることが対価なのでは、と伝えてみると)俺は安心する必要なんてないんだよ。ハードボイルドに生きているのでね」
そんな小堀は借金することもしばしば。「ザ・ノンフィクション」の中でも、相方の室田に土下座して100万円の借金を申し出、弟子の魔法使い太郎ちゃんにも10万円を借りるシーンが描かれた。
そんな生き様を受け、放送日のX(旧Twitter)では「クズ芸人」がトレンド入りを果たした。ただ小堀は「厳密に言うと俺はクズじゃないんだよ」と主張する。
「俺は借りた金は絶対に返すからさ。逃げたことは1度もない。
では小堀が考えるクズの定義とは。
「女性を泣かせる男がクズでしょう。俺が泣かせた女は母親くらいだよ。クズではなくエンターテイナーって感じかな。金が入ると、後輩芸人に奢ったりもするしさ。
相方には『世の中を舐めてる』とよく怒られるけど、俺は逆に舐めなくちゃダメだと思ってる。“どうってことない”と思わないと、ビビって一歩を踏み出せないからさ。
例えば俺が大好きなアクセル・ローズ(ガンズ・アンド・ローゼズのフロントマン)に会う機会があったら、もしかしたら緊張して足がすくんでしまうかもしれない。そんな時も“アクセル・ローズだろうがどうってことない”って思っておけば、問題ないわけ。
第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でアメリカ戦を前に大谷翔平が『憧れるのをやめましょう』って言っていたけど、俺はあの言葉を聞いて『マイク・トラウトだろうとどうってことない。舐めてかかればいいんだ』と解釈した。俺の態度がデカいのはそういう理由なんだよ」
俺はアントニオ猪木さんの系譜
小堀の魅力をよくいえば、細かいことを気にしない大らかさだろう。
アントニオ猪木さんは豪快で豪傑だった。お金にまつわる数々の伝説も残し、数十億円の借金を背負い、返済に追われたという壮絶な過去を持つ。
「俺はアントニオ猪木さんの系譜なんだよ。豪快な男を真似しているわけじゃないけど、心持ちが似ていると思う。俺も豪快にお金を使っちゃって、1週間前にギャラ60万円もらったのに、気づくと300円しか手元に残っていないこともあった。
アントニオ猪木さん、矢沢永吉さんなんかもそうだと思うんだけど、ピンチをピンチだと感じていないよね。人間にとっての本当のピンチって生涯でそう訪れないよ。俺もたまに悩むことはあるけど、2日間くらい寝れば『パチンコやるしかねーな』ってところに落ち着くよ。
今の時代は賢い人は多いけど、猪木さんや矢沢さんのような昭和的な豪快な人はこの先出てこなくなるだろうね。アクセル・ローズも遅刻して観客を待たせたりしたことがあったけど、俺も気持ちはわかりますよ。アクセル・ローズも多分2度寝が好きなんだと思う」
〈前編はこちらから【「お前を殺して私も死ぬ」母からの絶叫電話…『ザ・ノンフィクション』放送後の残酷な現実】〉
取材・文/中山洋平 撮影/集英社オンライン編集部

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