なぜ阪神ファンは監督の采配を語りたがるのか? 推理思考が幸福感を高める理由
なぜ阪神ファンは監督の采配を語りたがるのか? 推理思考が幸福感を高める理由

なぜ阪神ファンは試合後も采配を語りたがるのか。SNSやコメント欄で目立つ「自分ならこう攻めた」の論争は、単なる愚痴ではない。

観察した情報から推理し、次に試し、当たった瞬間に得られる自己肯定感——それが“インファレンス効果”だ。リアル脱出ゲームの爽快感と同じ仕組みが、日常にも応用できる。

新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』より一部抜粋・再構成してお届けする。

監督目線の予想で「言ったとおり!」との爽快感が

皆さんは、「推理小説」や「推理ドラマ」が好きですか?

私が知る限り、阪神ファンの多くは、試合中にタイガースの攻撃や守備について、「次にこんな作戦を仕掛けてくるのでは?」や「シフト(守備位置)をこう変えるのでは?」など、一人であれこれ「推理」して楽しむのが特徴でもあります。

また試合後も、「自分なら、こう攻めた」「あの場面の作戦はおかしかった」などと、SNSやYahoo!ニュースのコメント欄などに書き込むファンが、本当に多い。仕事柄、私はタイガースだけでなく他チームファンのコメントもよくチェックするのですが、阪神ファンのそれは、作戦に言及したコメントが圧倒的に目立ちます。

彼らの多くは試合に入り込み、「監督さながら」の目線で、作戦や選手の動きを予想するのです。まるで推理小説を読みながら、主人公の名探偵になりきり、伏線などに目を光らせて犯人を推理するかのように……。

一般に、自身が観察・収集した情報やデータに基づいて推理・推測するプロセスはインファレンスと呼ばれ、私たちマーケッターが得意とするところ。じつはこの行為も、「持続的な幸福感」に繋がる可能性が指摘されているのです。

たとえば、近年流行りの「リアル脱出ゲーム」のような体験型イベント。多くが、参加者自身が探偵や主人公となり、与えられたヒントをもとに謎を「推理」し、脱出するための作戦を実行します。このとき参加者は、解決に繋がる手掛かりがどこかに隠れていないかと集中してあちこちに目配りし、ちょっとした気づきを記憶しながら、仲間とも力を合わせるでしょう。



そして最終的に、決定打と言えるヒントを見つけ出せた場合は、なんとも言えない爽快感や誰かと力を合わせる意義、そして「(推理に)トライして良かった!」との喜びを、ひしひしと感じるはず。まさにインファレンス効果と呼べるものです。

さらに、自身が努力して得た推理や推論が「正解」に近いことがわかれば、「やっぱり自分は間違っていなかった!」「よくやったぞ、私(僕)」などと、自分を称賛できます。こうした「自己肯定感」も、インファレンスの大きな利点でもあります。

日々の幸福感を高めるPDCAサイクル

阪神ファンの場合も、もし自分が推理した作戦に近い内容を、次の試合で監督が実行し、その結果、チャンスや得点に繋がったとすれば……。「ほら、言ったとおり!」と爽快感や達成感がこみ上げ、誇らしい気持ちにもなるでしょう。

インファレンス効果は、プライベートでも威力を発揮するかもしれません。

たとえば、恋人やパートナーとケンカしたあとでスムーズに仲直りできるのは、どんな状況のときか。あるいは、わが子がゲームより宿題を進んでやるのは、どのように声掛けしたときか。つい、「仲直りしたくない」や「子どものお尻を叩くのは面倒」などと思っても、普段から様々な情報や状況を観察・収集し、「こうかな」とあれこれ推理したり試してみたりするうち、自然とポジティブな感情が芽生えてくるはずです。

さらに、「こうかもしれない→違った→だったらこうかな?」と、いわゆるPDCAサイクル、すなわち「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Action(改善)」の4工程をくり返し、継続的に改善を模索し続けることで、皆さんが「明るい未来」を前向きに発想し続けることにも繋がる。こうしたインファレンスによる循環が、失敗を「改善」へと導き、皆さんの日々の幸福感をよりいっそう高めてくれるはずです。

ちなみに、将棋が趣味で、野球も先の先まで読み通す「策士」だと言われた、タイガースの岡田彰布前監督。

彼は「相棒」(テレビ朝日系)をはじめ、推理ドラマが大好きだと公言していました。優れた「先を読む力」も、もしかすると将棋や野球経験だけでなく、推理ドラマによって鍛えられた側面もあったのかもしれませんね。   

文/牛窪恵

『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)

牛窪恵
なぜ阪神ファンは監督の采配を語りたがるのか? 推理思考が幸福感を高める理由
『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファン マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)
2026年3月5日1,760円(税込)224ページISBN: 978-4-08-790234-1

【野球でなく「幸せ」に関する本です!】
★「おひとりさま」「草食系」など数々の流行語を世に広め、「ホンマでっか!?TV」ほかテレビのコメンテーターでもおなじみのマーケッター・牛窪恵さん。大学教授でMBAホルダーでもある著者が、推し活と行動経済学などの研究を経て導き出した「Well-being(幸福感)」に繋がるキーワード、それが「阪神ファンと熱狂」でした。
★みずからも熱狂的な阪神ファンで、毎年40試合前後を球場で観戦する著者だからこそ気づいた、彼らの体感的リアリティと行動心理の意外な関係。本書を読むことで、阪神ファン自身も気づいていない「幸福感」に繋がるヒントが、数多く得られるはずです。
★本書ではそうした実践的ヒントを、著名なマーケティング理論や女性ファン(TORACO)約3000人への調査・取材を通して独自分析し、わかりやすく展開します。

【効果と法則はこんなこと!】
■報酬の予測誤差=「ダメな子ほど可愛い」が喜びをもたらす
■プラシーボ効果=前向きな「思い込み」こそが幸運を呼ぶ
■ファンベース効果=「熱狂」こそが幸福度を高める
■サンクコスト効果=「今後も私(僕)がいなきゃ」が愛着を生む
■幸せの損益分岐点=「小さな幸せ」の積み重ねが、幸福度を高める
■PERMAモデル=「没頭」こそが、幸福持続の源泉に

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