今季の主催試合すべてのチケットが発売日から史上最速、わずか2日で完売し、相変わらずの熱狂っぷりを示した阪神ファン。そんな“阪神ファンという生き物”についてマーケティングの観点から分析した書籍『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)が3月5日に発売された。
著者は“おひとりさま”や“草食系男子”など数々の流行語を世に広め、大学教授や「ホンマでっか⁉TV」ほか番組コメンテーターとしてもお馴染みのマーケッター牛窪恵さん。彼女自身も熱心な虎党ということで、阪神を応援することと幸福の相関・因果関係について聞いた。〈全3回の1回目〉
阪神を応援して認知症が改善した例も
――『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう』とは、なかなか攻めたタイトルですね。
牛窪恵(以下、同) 私、タイガースの試合を年間40試合前後も現地観戦する、すべての試合をチェックしているいわゆる“ガチ勢”なもので、職業柄、「阪神の本を書きたい!」とずっと思ってたんです。
それで、企画を練っている中で、マーケティングの法則から阪神ファンの行動を分析してみると、阪神ファンには幸福感とリンクする研究結果や変数(要素)がいくつもあることに気づいたんです!
ということで昨今、職場やプライベートでも注目されるウェルビーイング(Well-being=心身ともに満たされた良好な状態)をテーマに据え、紆余曲折の末、このタイトルに落ち着きました。ちょっと長いですが(笑)。
――幸福感とリンクする阪神ファンの行動、というのは例えば?
阪神ファンといえば大声援のイメージですよね。実際に2023年の日本シリーズ、阪神対オリックス第3戦での応援の音量を、神戸新聞の記者が騒音計アプリを使って計測したところ、9回裏には98.6デシベルを記録したそうです。これは「5メートルの距離でブルドーザーの音を聞く」のと同じレベルです。
――めっちゃうるさい(笑)。
ですが、実は“大きな声を出す=叫び”には「シャウティング効果」といって、怒りや不安といった感情を発散する浄化作用が確認されているうえ、健康・体力アップ、アドレナリンの分泌といったポジティブな働きをもたらす可能性も高いんです。
――たしかに阪神ファンにはストレスを抱えてる人はあまりいなさそう、という勝手なイメージがあります(笑)。
ですよね(笑)。
――そ、そうなんですね……。しかし、その理論だと他球団ファンはあまり幸せではない?
そんなことはありませんよ! そもそも推し活自体に、人が幸福感に満たされるポジティブな働きがあることが、多くの研究結果から分かっています。
ただ、やはりその効果が顕著なのが、阪神ファンなんです。たとえば23年、タイガースがリーグ優勝を決めた翌日から年末にかけて、大阪府枚方市のクリニックが軽度認知症の患者さん855人を調査(※)したところ、タイガースの優勝によって彼らの症状を示すスコアが、明らかに改善したそうです。
各種統計などから推察すると、タイガースの優勝は、国内で約1万6000人の軽度認知症患者の方々に「良い影響」を与えたとも考えられる、といいます。
(※2023年「はつたクリニック」院長・初田裕幸氏による調査結果)
――推し活、おそるべし……。
「連覇は厳しいかも。なぜなら…」
――牛窪さんが実感として、他チームファンと「阪神ファン」の違いを感じる部分はありますか?
はい、じつは私はもともと大の巨人ファンでした。中学校時代の家庭訪問では、担任の先生が、巨人の原辰徳選手(当時)のポスターだらけの私の部屋を見て、ドン引きするくらいだったんです。ですが、いわゆる「江川事件」や「KKドラフト事件」で、巨人に対して勝手に不信感を持ってしまい……。
その後はあちこちのファンを漂流。黄金期の西武や、「ID野球」で知られた故・野村克也監督率いるヤクルトなどを緩く応援するジプシー生活を送った後、2003年の阪神のリーグ優勝の日(9月15日)を機に阪神ファンになりました。
つまり、いろいろな球団を応援してきて、なぜ阪神の応援は他チームの応援時と「幸福実感が違う!」と感じられるのか、その謎を、マーケティングや行動経済学的観点から解明したくなったのです。
――な、なるほど。
そもそも、東京生まれで今も東京に住んでいる私からしたら、関西の阪神ファンはうらやましいことばかり。日常的にサンテレビ(阪神の主催試合をほぼ全て、試合終了まで中継)が見られないのは、やはり阪神ファンとして悔しいものがあります。なので、今の私の夢は東京と大阪の二拠点に自宅を持つことですね。
関西にレギュラー番組を2つ持っていますが(毎日放送「よんチャンTV」、テレビ大阪「関西リーダー列伝」)、もちろん来阪の際に甲子園観戦できるという大きなメリットもあります(笑)。
――先生のガチ度がよくわかりました(笑)。ではいちファンとして連覇の可能性をお聞きします。今年も余裕でしょうか?
もちろん独走で優勝……と、言いたいところなんですが、正直、厳しいかもしれません。というのも、昨年リリーフの要として「50試合連続無失点」の圧倒的な成績を収めた石井大智投手がアキレス腱断裂の大けがをしてしまいましたし、同じく中継ぎの及川(雅貴)投手も手にマメができやすかったりで去年ほど投げられない気がしています。昨年、本塁打と打点で2冠を獲得した、サトテル選手(佐藤輝明)もマークが厳しくなるでしょうし……。
――阪神ファンらしからぬ、めっちゃネガティブな予想ですね。
というか、あんまり期待しちゃいけません。自分の力でどうにもならないことは、事前の期待値が低いからこそ、叶った時の喜びが倍増するんです。これが、いわゆるサプライズ効果、先ほど挙げた「報酬の予測誤差」です。
また、マイナス要素が次々浮かぶときは、その状況を笑いに替えて、皆で「またダメだったりして~」などと冗談にする。「ユーモアコーピング効果」と呼ばれるもので、こうした支援的ユーモアは往々にしてストレスを減らしてくれるんです。これぞ阪神ファンです!
――複雑なファン心理ですね! #2では「なぜ阪神ファンは嫌われるのか」についてお伺いします!
(中編に続く)
取材・文/武松佑季
『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)
牛窪恵
【野球でなく「幸せ」に関する本です!】
★「おひとりさま」「草食系」など数々の流行語を世に広め、「ホンマでっか!?TV」ほかテレビのコメンテーターでもおなじみのマーケッター・牛窪恵さん。大学教授でMBAホルダーでもある著者が、推し活と行動経済学などの研究を経て導き出した「Well-being(幸福感)」に繋がるキーワード、それが「阪神ファンと熱狂」でした。
★みずからも熱狂的な阪神ファンで、毎年40試合前後を球場で観戦する著者だからこそ気づいた、彼らの体感的リアリティと行動心理の意外な関係。本書を読むことで、阪神ファン自身も気づいていない「幸福感」に繋がるヒントが、数多く得られるはずです。
★本書ではそうした実践的ヒントを、著名なマーケティング理論や女性ファン(TORACO)約3000人への調査・取材を通して独自分析し、わかりやすく展開します。
【効果と法則はこんなこと!】
■報酬の予測誤差=「ダメな子ほど可愛い」が喜びをもたらす
■プラシーボ効果=前向きな「思い込み」こそが幸運を呼ぶ
■ファンベース効果=「熱狂」こそが幸福度を高める
■サンクコスト効果=「今後も私(僕)がいなきゃ」が愛着を生む
■幸せの損益分岐点=「小さな幸せ」の積み重ねが、幸福度を高める
■PERMAモデル=「没頭」こそが、幸福持続の源泉に

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