黄金コンビだった、メジロドーベルと吉田豊
デビューから間もなかった吉田を一躍スターダムへのし上げた馬の名前はメジロドーベル。吉田が主戦を務めたこの馬は、1990年代末期を代表する名牝として知られている。
デビュー3年目の1996年には、メジロドーベルで「阪神3歳牝馬ステークス(現:阪神ジュベナイルフィリーズ)」を制覇し、弱冠22歳にしてG1ジョッキーとなるなど、吉田の新人時代は、華々しいものであった。
吉田とメジロドーベルのコンビは、翌年の1997年も牝馬3冠クラシックで大活躍。これによって吉田は83勝をあげて全国リーディングでも6位と躍進し、メジロドーベルはJRA賞最優秀4歳牝馬(現:3歳牝馬)に選出された。
いろいろとあった……1999年
メジロドーベルは、この年の11月に行われたエリザベス女王杯が引退レースとなるも、有終の美を飾った。吉田も、デビューから5年足らずでG1レース5勝、重賞も10勝以上という、若手離れした成績を残す。
しかしその裏では、同年の8月には先輩騎手の後藤浩輝から木刀で暴行を受けるという事件も。吉田は被害者であったが、批判の声も多かった。後藤は吉田より2年先にデビューしたものの、G1レースはおろか重賞も2勝のみ。このような状況の中で、後輩である吉田の態度や言動が気に入らなかったと言われている。
当時の吉田は「今年はいろいろとあった」と述べていた。
異例のフリー転身
今年40歳になる吉田はデビュー以来、それまで慕ってきた大久保洋吉調教師の引退とともに、大久保厩舎の専属騎手を離れフリーの身に。通常、競馬界におけるフリーへの転身は20代で行うため、吉田の決断は異例中の異例だ。今シーズンの吉田は50以上の勝鞍で、まずまずの好成績を残している。
現在、活躍している騎手は、吉田と同世代に近い顔ぶれが上位を占めている。学年が吉田より1つ下の福永祐一を筆頭に、戸崎圭太や内田博幸といった地方競馬出身組のほか、ベテランであり重鎮的存在の武豊や蛯名正義など、いずれも1990年代を彩った騎手ばかり。そんな名騎手揃いの中、吉田も2013年、騎手歴20年目にしてJRA通算1,000勝(達成者は29人のみ)を達成している。30代後半から急激に勝利数を伸ばした名ジョッキー岡部幸雄の例があるように、ここから勝ちを積み重ねる可能性もまだまだありそう。
さて、秋のG1戦線もいよいよクライマックスへと突入していく。吉田は久しくG1勝利から遠ざかっているものの、前回の勝利が11月のマイルチャンピオンSだっただけに、今秋の再躍進に期待したい。
(ぶざりあんがんこ)
Number(ナンバー)888号 日本競馬 最強への軌跡 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))