ある日、身長が16センチになってしまった女の子・堀切ちよみと幼なじみの男の子・南くんの秘密の共同生活を描いた『南くんの恋人~my little lover』が、現在フジテレビ系で月曜深夜に放送中だ。
原作は内田春菊が、月刊ガロ(青林堂)で連載していた漫画。

東京電力のマスコットキャラクター・でんこちゃんのキャラクターデザインでも知られている内田春菊の作風は、ぷくっとした唇が印象的なかわいいイラストと、恋愛と性を通して透けてみえる男女の機微を鋭い観察眼で描く漫画家として高く評価されていた。『南くんの恋人』も設定こそファンタジックだが、エッチな描写が多く、南くんとの間にある男と女の微妙な感情のすれ違いを鋭い視点で描写している。

ドラマでは山本舞香と中川大志の主演で放送されているが、実はドラマ化はこれで4回目。最初は単発ドラマとしてTBSの~で90年に石田ひかりと工藤正貴、94年にはテレビ朝日系の月曜ドラマ・インで高橋由美子と武田真治、06年にはテレビ朝日系で深田恭子と二宮和也の主演で連続ドラマ化されている。

そんなドラマ版のスタイルを確立したのが94年版『南くんの恋人』だ。

【1994年に放送された『南くんの恋人』】


ヒロインの堀切ちよみを演じたのは、“アイドル冬の時代”と言われた90年代前半に「20世紀最後のアイドル」という触れ込みで登場した高橋由美子。彼女が歌う主題歌「友達でいいから」は37.5万枚のヒットとなった。

主人公の南くんを演じたのは、いしだ壱成と共に独自の人気を獲得していた武田真治。そして、当時はゲームに詳しいアイドルとしてマニアックな人気を誇っていた千葉麗子がちよみのライバルである野村さんを演じた。
また、翌年には『シン・ゴジラ』の公開を控える映画監督の樋口真嗣がビジュアルプランナーを務めていた。
平均視聴率は15.6%(関東地区)と、当時としては決して突出したものではないが、ドラマブームに遅れをとっていたテレビ朝日としては十分すぎる成績だった。その成功を受けて翌年には『南くんの恋人スペシャルもう一つの完結編』も制作されたほど。

【武田真治の初出演となった『南くんの恋人』】


放送枠は、テレビ朝日系の月曜夜8時台(月曜ドラマ・イン)。当時はトレンディ―ドラマブームの成功を受ける形でドラマ枠が次々と作られていた。
中でも多く作られていたのが10代向けのドラマ枠で、そこでアイドルが主演をつとめることで女優としてステップアップしていった。

高橋由美子もフジテレビの若者向けドラマ枠「ぼくたちのドラマシリーズ」で教師と女子高生が秘密の新婚生活を送る『お願いダーリン』の主演を務めて注目を浴び始めていた。
一方、武田真治は連続ドラマの主演こそなかったが、「ぼくたちのドラマシリーズ」の『放課後』で個性的な脇役を演じたり、深夜に放送されていた超能力を題材にした『NIGHT HEAD』(フジテレビ系)というドラマで、人の心の声が聞こえるが故に苦しんでいる少年を演じて注目されていた。
当時の武田は、二番手三番手の役でおいしいところを持っていく気になる若手俳優だった。バラエティ番組にも多数出演していて、それが後の『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)のレギュラー出演につながるのだが、細見の体に着飾った派手な衣装はセンスのいいものとして受け止められ、その中性的な外観からフェミ男と呼ばれ、ファッション、音楽、バラエティなどに出演して独自の立ち位置を獲得していた。
そんな武田真治の連ドラ初主演となったのが『南くんの恋人』だった。


【原作の生々しさをオブラートに包んだドラマ版『南くんの恋人』】


ドラマ版は、家族も見る時間帯という制約もあってか、エッチなテイストは控えめで、ファンタジックなラブコメという印象が強い。
また、男性主人公の南くんの描写が漫画版だとメガネをかけたもっさりとした少年なのだが、ドラマ化に際しては見かけも性格もカッコよくなっていた。そのため、高橋由美子のアイドルとしてのかわいさも高く評価されたが、それ以上に小さくなった幼なじみを守る武田真治の王子様性が人気の秘密だったと言える。
この傾向は、後の作品になるほど強くなり、現在放送中の中川大志が演じる4代目南くんは頭脳明晰なイケメンとなっている。

そう考えると原作の生々しさをオブラートに包んだファンタジックなアイドルドラマに仕上げたのがドラマ版だと言える。
しかし原作の本質的な面白さ、あるいは怖さは押さえられている。詳しく書くとネタバレになるので控えるが、原作の根底にある、「小さな身体ゆえに南くんとちよみがセックスできない。
だから子供も残せないけど、そんな二人はいつまでいっしょにいることができるのか?」という問いはしっかりと押さえられていた。

【『南くんの恋人』の脚本を担当したのは岡田惠和】

 
脚本は岡田惠和。今まで共同脚本か単発ドラマしか執筆していなかった岡田が、はじめて単独で執筆した連続ドラマだ。『南くんの恋人』以降は同じ月曜ドラマ・インで『イグアナの娘』や『恐るべしっっ!!!音無可憐さん』などのマンガ原作モノを手掛ける一方で、『若者のすべて』や『彼女たちの時代』(ともにフジテレビ系)といったリアルな群像劇を発表。
そして2001年に『ちゅらさん』(NHK)で朝ドラ初執筆をすることで人気脚本家としての地位を不動のものとしていく。主演の二人はもちろん、脚本家もスタッフもニューカマーだからこそ作れた初々しいドラマだった。

(成馬零一)