「同情するならカネをくれ」というセリフが94年の新語・流行語大賞に選ばれるなど、安達祐実が演じる相沢すずが主人公の日本テレビドラマ『家なき子』は世に凄まじいインパクトを与えた。

日本中の不幸という不幸を背負っているかのようなすずが、虐待やいじめという残酷な運命に抗いながらも懸命に生きる姿を、当時小学生だった筆者は「同情するけどカネはない」と一応の申し訳なさを持ちつつ視聴していた。


いじめっ子すらドン引きするレベルのいじめシーン


「家なき子」いじめシーンにドン引き 金はないが同情せざるを得ない陰湿さ
『家なき子』画像はAmazonより

『家なき子』は、第一期である「小学生期」とそのヒットを受けて制作された『家なき子2』(中学生期)まで含めたシリーズものだが、そのどちらにおいても誰が見てもわかりやすいいじめっ子の存在があった。

小学生期は主にすずの同級生で従姉妹の園田真弓が、ことあるごとに子分を引き連れてすずをいじめていた。何事も最初が肝心ということなのか、真弓のいじめは、ボクシングでいうところのジャブで様子見のところをアッパーカットで失神KOするレベルの強烈さだった。

「ごめんなさい、ついうっかり。どお? 便所味のおにぎり」(『家なき子』2話)

このセリフだけで、ドラマを見たことがなくとも真弓の性格の悪さといじめの内容が容易に想像できてしまうだろう。ドラマを見ていた人なら鮮明に当時の映像が蘇ってくるかもしれない。

放送当時、筆者の周辺環境でもいじめはあったが、いじめっ子も『家なき子』を見ていたこともあり、いじめの怖さを知ったのかいじめは自然となくなった。
そのあまりの陰湿さは、現実のいじめをやめさせるほどの威力があったようだ。

「いい気味だわ〜、すず。こんなに馬糞の似合う女も珍しいわね」(『家なき子2』2話)

『家なき子2』ではこれである。90年代ドラマでは、女同士で馬糞を顔に押し付け合っていたのだ。これで引かない奴はよほどの能天気か悪魔かのいずれかだ。

いじめ以上に深刻な登場人物の死亡率


「家なき子」いじめシーンにドン引き 金はないが同情せざるを得ない陰湿さ
『家なき子』画像はAmazonより

『家なき子』でいじめ以上に驚いたのは、作中の登場人物の多くが事故や事件によってバタバタと死んでいってしまうということだった。
病死ならまだ優しいもので、多くは転落死や、すずの父親にいたっては凶弾に倒れるというまさかの展開。すずやその周辺にはよほど前世の所業が悪かったのではないかと思わせるほどの不幸がよく起こった。

多くの人々(すずの敵味方に関わらず)の死に加え、すずは最大のパートナーだった忠犬リュウも失ってしまう。リュウの死は精神を破壊されてもおかしくないほどショックだったはずだが、それでもへこたれないすずの強さは到底真似できるものではない。

同ドラマを見て、小学生にして金は人ひとりどころか多くの人を狂わせるものであることに気付いてしまった筆者だが幸か不幸か、いまのところ金で狂う人生とは縁遠い生活をしている。今はただ同情してもしなくてもいいからカネをくれとだけ言いたい。


(空閑叉京/HEW)