「俺、(大学を)卒業して、社会に出るのが怖かった…。けど今は…、社会から出るのが怖い」

なんという名セリフでしょうか。
この言葉が骨身に沁みない社会人などいるのか? と思えてくるほどです。
名言の出どころは、1992年に放送していたフジテレビ系列の連続ドラマ『愛という名のもとに』。鈴木保奈美、唐沢寿明、江口洋介が出演し、平均視聴率24.7%、最終回では32.6%を叩き出した名作です。

大学で青春を共にした7人が繰り広げる群像劇


物語は、大学のボート部で同窓だった7人が、恩師の葬儀で3年ぶりに再会するところから動き出します。その日を境に、交友関係を再開した彼ら。一見、昔と変わらない仲間たち。しかし、すぐに、それぞれの置かれた状況や考え方が、大学時代のそれとは異なることを実感します。
それに、各人、様々な悩みやトラブルを抱えていることも判明。
かつてもっていた理想が社会人として生きた3年を経て、大きく揺らぎ、崩れかけていくのに彼らはもがき苦しむのです。それでもなお、仲間同士で支えあいながら前を向いて生きていこうと、7人は歩みを進めます。彼らが求める、風の中に吹かれている「答え」を求めて…。概要はざっと、こんなところです。
その登場人物の一人で、作中もっとも重要な役割を担ったのが、冒頭の発言の主、役名、倉田 篤こと「チョロ」です。
演じたのは、中野英雄でした。


小市民「チョロ」が、視聴者の共感を呼ぶ


野島さんから「君のために書いたドラマだ」と言われたー

かつて、ヒロミがMCを務めていた深夜のトーク番組『ろみひー』で、中野英雄がゲストの回がありました。そこで、彼がこんなようなことを言っていたのを覚えています。野島さんとはもちろん、『愛という名のもとに』の脚本を手掛けた野島伸司のこと。たしかに、中野、いや「チョロ」の、この青春群像劇における重要性は、抜きん出ていました。

「チョロ」はボート部のイジられ役的ポジション。大学を卒業後、証券会社へ入社するも、ドンくさい性格からか成績は最下位。
上司から壮絶なパワハラを受けるハメになってしまいます。鬱屈したストレスのはけ口として、彼が選んだのはフィリピンパブ。そこで出会ったルビー・モレノ演じるホステス、ジェイ・ジェイに入れ込みます。彼女からカネの無心をされて、会社の資金を横領してしまうチョロ。
しかし、ジェイ・ジェイが同じ手口で他の男からもカネを巻き上げている現場を目撃し、意気消沈。そこに追い討ちをかけるように、上司から横領について罵倒され、ついカッとなり、暴行を働いてしまうのです。

追い詰められたチョロ。彼が最後に頼ったのは、やはり仲間、それもずっと片思いをしていた鈴木保奈美演じる貴子でした。そこで彼は冒頭の台詞を涙ながらに貴子へ告げた後、自ら命を絶ってしまうのです。

証券会社からクレームが起こる事態にも発展


この衝撃的な展開が、大きな反響を呼んだのは言うまでもありません。その証拠に、チョロが自殺した第10話の視聴率は、第9話よりも2.5%高い27.9%。そこから第11話は29.0%、最終回はフジテレビ「木曜劇場」枠で未だ破られてない32.6%と、右肩上がりに数字が上昇していきました。

また、チョロが設定上務めていた証券会社からは、業界のイメージ低下に繋がるという理由でクレームもきたとのこと。それだけ彼の死は、世間に大きなインパクトを与えたのです。

こうした『愛という名のもとに』での名演から、一躍人気者になったチョロこと中野英雄。この時期を境に、街中で「おい!チョロ!」と話しかけられることが増えたそうです。しかし、劇中では気弱な小市民的役どころだったものの、本人は学生時代、暴走族の活動にも参加していた筋金入りのヤンキー。役柄のイメージそのままに舐めた態度で一般人が接してきたら、「オイ、ちょっとこっち来い」と凄みをきかせていたそうです。
ぜひ皆さんも、街中で彼に出会ったら、対応には気をつけましょう。

(こじへい)
※イメージ画像はamazonより愛という名のもとに vol.3 (第7話~第9話) [レンタル落ち]