今でこそ、民放各局は早朝4時から情報番組戦争を繰り広げているが、90年代半ばまでの早朝は、もっと自由な時間帯であった。
とくに90年代前半のフジテレビの早朝は、アバンギャルドでカオスな空気が支配しており、伝説の子供番組『ウゴウゴルーガ』もこの時期に放送されていた。


高齢者にスポットライトを当てた「オルチン」


そんな中でも、ひときわ異彩を放っていた番組が、93年から94年にかけ早朝5時台に放送されていた『オルトレ・イ・チンクワンタ』、通称「オルチン」である。
番組名の『オルトレ・イ・チンクワンタ』はイタリア語で「50歳以上」を意味する言葉で、タイトルどおり高齢者にスポットライトを当てた番組であった。

「人生は50歳から」を番組の旗印として、実年齢マイナス50歳を「オルチン年齢」と設定。
60歳の出演者は「オルチン年齢10歳」と紹介される徹底ぶりで、番組開始当時49歳だった司会の車だん吉は「オルチン年齢マイナス1歳」になっていた。

当時はまだ、高齢者番組の代名詞と言えば、NHKで放送されていた『お達者くらぶ』という時代である。
『お達者くらぶ』が、年配の方向けに、健康の話題や定年後の趣味の話、投稿はがきコーナーなどが、ゆっくりとしたペースで展開される番組だったのに対し、「オルチン」は大きいコンセプトこそ似ていたとはいえ、中身はむしろ真逆であった。

ある種のカルト番組!? 半年で番組終了


番組オリジナルのオルチン体操では、ハイレグレオタードの若い女性が老人とともに体操をし、「ぽんちゃん」こと平松あゆみアナ(当時オルチン年齢マイナス28歳)が担当する天気予報では、アコーディオンの生演奏が響くなど、番組は終始27時間テレビの朝方の地方局中継のような騒がしい状態。

年配の明るい出演者たちが高齢者ボーリング大会に興じる姿を映した翌週には、過去の出演者の訃報が流れるなど、ある意味タブーの無い高齢者番組であった。


しかし、さすがに高齢者番組としては攻めすぎたか、視聴率は低迷し、半年で番組は終了。
ターゲット層で早起きのはずの高齢者は見ず、一部の好事家の若者だけが面白がって見ていたある種のカルト番組としてその名を残すこととなった。

ちなみにこのオルチンの後番組が今も続く「めざましテレビ」である。
オルチン天気予報などから「オルチンは情報番組としてめざましテレビの原型とも言える」という人もいるが、正直それはさすがに言い過ぎのような気がする。
何というか、もっと混沌とした空間であった。

「オルチン」の正統派後継番組は?


あれから二十数年、日本は更に高齢化社会となり、若者のテレビ離れも盛んに叫ばれる世の中になった。

ならば再び高齢者番組に取り組む余地はあるのではないだろうか。

テレビ界では、素人に限りなく近い老人スターというのは絶えず生まれている。
古くは、ひょうきん族の吉田くんのお父さん、元気がでるテレビのエンペラー吉田、ごっつええ感じのオジンガーZなど、ものすごい角度からのボケと人生経験からくる名言で、ひじょうにいい味を出していた。

綾小路きみまろに舞台上からいじられるだけが高齢者ではない。いつまでも現役で前に出たい老人スターはまだまだいるはずだ。

最近、BSスカパー!では半年1回ペースで、70歳以上お断りの番組「元気に死ぬテレビ!」がオンエアされている。

69歳以下をまだまだヒヨッコとして、老人の恋愛事情や性事情などにまで踏み込んだバラエティで「高齢者の性行為は疲れたら終わりでいい」など名言が生まれている。
空気感としては、ある意味、これがオルチンの正統派後継番組といってもいい。

さすがに今の地上波では、ここまで攻めた内容は難しいかもしれないが、まだまだ元気なご年配の方にどんどんテレビに出る機会を差し上げて欲しい。
そして、テレビをもっとカオスにして欲しい。

もし新たな高齢者番組が作られる際は、今やオルチン年齢22歳になった車だん吉の再登板を期待したい。
(前川ヤスタカ)