移ろいやすい恋心、1人に絞る難しさ

好きな人が何人もいるというのが許されるのは小学校低学年までだ。思春期以上の年齢になると、気の多さは軽い人間という烙印を押される要因になる。さらに大人になると、金銭も絡めて解決しなくてはならない問題に発展する可能性すらある。恋愛とは大変なのだ。
その点『ときめきメモリアル』は恋愛だがゲームだ。誰を好きになろうが、誰に心変わりしようが自由。ゲームソフトを購入するという最初にして最大の難関さえクリアできれば、その先は自分が思い描く理想郷を作るだけだった。
購入が難関だったのは、同級生女子の目が痛かったからだ。筆者は96年に発売されたスーパーファミコン版ソフトでプレイしていたが、当時は“恋愛シミュレーションゲームをプレイする男性”に対する女性からの評価はすこぶる悪い場合がほとんどで、「プレイしていることを知られること」=「社会的死」に直結する可能性があったといってもいいだろう。
さて、肝心のゲーム内容だが、舞台は高校。目的は、卒業するまでの3年間の間に登場するヒロインたちからの好感度を上げ、彼女たちに告白されることだ。ヒロインといっても、総勢13人も登場する。狙いを定めるのがなかなかに難しく、ふとしたきっかけで狙っていたヒロインから恋心が移ろってしまうところは、なんだか現実にもありそうな男心だ。
それでもやっぱり最後は「藤崎詩織」でしょ!
ヒロインそれぞれの性格をしっかり把握したうえで、3年間という時間を使って告白されるように仕向けていくわけだが、コツさえわかってしまえば、攻略にはそこまで複雑な手練手管は必要ない。
1人のヒロインを攻略している間にも、その他複数のヒロインとの適度な交流なども必要になってくるが、そういった駆け引きテクニックは何度もバッドエンドを経験しながら学んでいける。このあたり、何度でもやり直しがきくぶん現実より優しい。
こうして『ときめきメモリアル』をある程度理解してきた頃、人はヒロインの中でも主人公の幼馴染として登場する「藤崎詩織」という壁にぶち当たる。幼馴染の男女といえば、漫画やドラマなんかだと最終的に恋愛に発展しやすいものなのに、この「藤崎詩織」という女は牙城なのだ。ちょっとやそっとの揺さぶりは、まったくもって効いちゃくれない。
リアルな恋愛に攻略本が存在しないように、『ときめきメモリアル』でも攻略本を使うのはなんだか違う。そんな気がして筆者は結局藤崎詩織だけは攻略できずじまいだったが、つい最近思い立ってネットを駆使して攻略方法を探ってみたところ、予想していた難易度の軽く6倍は難しいことを知った。
藤崎詩織と比べたら現実ってチョロいな…なんて思ってる諸兄も多いのではないだろうか。
(空閑叉京/HEW)