デビューして間もない女優を難病に苦しむヒロイン役に据えたドラマや映画は、一体これまで何本つくられてきたのでしょうか?
ざっと最近のものを挙げてみると……。ドラマ『神様、もう少しだけ』(深田恭子=HIV)、ドラマ『美丘-君がいた日々-』(吉高由里子=クロイツフェルト・ヤコブ病)、映画『余命1ヶ月の花嫁』(榮倉奈々=乳がん)、ドラマ&映画『タイヨウのうた』(沢尻エリカ/YUI=色素性乾皮症)、ドラマ&映画『一リットルの涙』(沢尻エリカ/大西麻恵=脊髄小脳変性症)。
やはり、結構な数になります。

失敗しにくさから生まれる「難病モノ」


こうした「難病モノ」は、ほとんど無条件に見る人の涙を誘います。故に失敗作となりにくいのです。“悲劇のヒロイン”を演じる女優は、その美しさ、可憐さ、儚さから、見ている人に愛されます。彼女を無償の愛で支える彼氏(もしくは夫)役は、好青年のイメージが定着するはず。
さらにエンディングで人気歌手が歌う感動的なバラードを流せば、たちまちヒット曲に。要するに、関わる全ての人がWIN‐WINな関係になれるのです。


もちろん、世間でまだ知られていない病気を題材にする場合もあり、「難病モノ」の社会的意義もまた計り知れません。作品によっては患者への適切な関わり方が分かったり、あるいは誤解・偏見はなくすことに貢献します。

出版当初は全く注目されていなかった『セカチュー』


そんな「難病モノ」の中でも傑出した実績をたたき出したのが、『世界の中心で愛を叫ぶ』です。恋人の片方が難病にかかる→葛藤する→永久の愛を誓う、という、王道過ぎるくらい王道な本作。
出版されたばかりの頃は、たいして話題になりませんでしたが、小学館の新人営業マンの目に止まり、彼が売り込みに奔走したところから徐々に状況が好転。一部の書店にてPOP広告などで宣伝され、口コミで評判を呼ぶようになります。

柴咲コウの書評が大ブレイクのきっかけに


極めつけは、当時人気急上昇中だった女優・柴咲コウが「泣きながら一気に読みました。私もこれからこんな恋愛をしてみたいなって思いました」というコメントを雑誌ダ・ヴィンチに投稿したことで注目度が一気に上昇。

この柴咲の書評は、本のオビにも記載され、テレビで大々的に紹介された結果、人気が爆発し、最終的に300万部以上を売り上げる特大のベストセラー作となったのです。

ここまで売れたら、映画・テレビ業界が黙っていません。2004年5月に映画公開、7月にドラマ放送開始と立て続けに映像化。さらに漫画化、舞台化もされた『セカチュー』は、一大ブームを巻き起こし、『電車男』と並ぶメディアミックスの代表的成功例となったのです。

長澤まさみと綾瀬はるかの体当たり演技が話題を呼ぶ


さて、この『セカチュー』フィーバーにおいて最も功名をあげたのが、映画版とドラマ版でそれぞれ白血病に冒されたヒロイン・アキを演じた、長澤まさみと綾瀬はるかでしょう。2人とも本作に関わるまでは無名に近い存在でしたが、役作りのために丸坊主にするという、若くして女優魂に満ち溢れた好演を披露し、世間から喝采を浴びたのです。

特に綾瀬は、この3年前に放送されたフジテレビのバラエティ『ビューティーコロシアム』で「痩せなかったら芸能界引退」なる企画に起用されるという、イロモノ的立ち位置からのまさかの大ブレイクでした。

ストーリー自体はたしかに、よくあるようなお涙頂戴ものかも知れません。しかし、2000年代前半に巻き起こった『冬のソナタ』『恋空』などのヒットに見る、“純愛ブーム”を牽引しただけでなく、2人の女優の才能を世に解き放つきっかけとなったという意味でも、この『セカチュー』は、今後も語り継がれていくコンテンツなのでしょう。
(こじへい)

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