1967年にビートルズの歴史的名盤『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド』が発売されてからというもの、アルバムにコンセプト性を持たせて、「これ1枚で1つの作品」とする価値観は広まり、やがて定着しました。
現在においても、オリジナルアルバムはアーティストがその時々にやりたいことを表現する一つのアート作品と捉える傾向にあり、音楽好きからは比較的好意をもって受け入れられています。


その前提からすると対極に位置するのが、ベストアルバム。こちらは多くの場合、レコード会社主導で製作が進められるため、商業主義的と見なされることもしばしば。椎名林檎のように「絶対にベストアルバムは出さない」と強烈に嫌うミュージシャンさえいます。
とはいえ、たった1枚に良曲が詰め込まれているお得感は特筆すべきもの。特に新規のファンにとっては「入門編」として機能するため、非常に有難いツールといえるでしょう。

GLAYの『REVIEW-BEST OF GLAY』がベスト盤ブームの口火を切る


そんなベストアルバムは日本において97年~99年ごろの一定期間、突如量産されました。きっかけとなったのが、97年10月に発売されたGLAYのベストアルバム『REVIEW-BEST OF GLAY』。
GLAYが口火を切り、宇多田ヒカルが終わらせた! 日本で巻き起こった「ベスト盤ブーム」
REVIEW-BEST OF GLAY

当時、『口唇』『HOWEVER』と立て続けにヒット曲を出し、ノリに乗っていた同バンド初のベストということもあって、発売初週から200.3万枚の売り上げを記録。最終的には、約488万枚のセールスを叩きだしました。

サザン、ZARD、LUNA SEAも相次いでリリース


これに触発されてか、様々なアーティストがベストアルバムをリリースし始めます。globeの『CRUISE RECORD』(276.3万枚)、ZARDの『ZARD BEST The Single Collection ~軌跡~』(約302.3万枚)、LUNA SEAの『SINGLES』(123,6万枚)、サザンオールスターズの『海のYeah!!』(約346万枚)など売り上げはいずれも上々。中でも突出した販売枚数を誇ったのが、B'zの『B'z The Best "Pleasure"』と『B'z The Best "Treasure"』です。

ベスト盤には消極的だったB'zでしたが…


もともとB'zの2人は「ベストアルバム=活動が終わった人たちの出すもの」と捉えており、レコード会社から幾度か製作するよう打診があったものの、頑なに拒んでいたといいます。しかし、デビュー10周年と言う節目の年を迎え、「今年ならいいか」と態度を軟化させてことにより、晴れてリリースする運びとなりました。
GLAYが口火を切り、宇多田ヒカルが終わらせた! 日本で巻き起こった「ベスト盤ブーム」
B’z The Best“Pleasure”

結果として、シングルヒット曲を中心に集めた『B'z The Best "Pleasure"』は513.6万枚、ファン投票によって選曲した『B'z The Best "Treasure"』は443.9万枚を売り上げ、ベスト盤ブームの象徴的作品となったのです。


宇多田ヒカルの登場、ベスト盤ブームを終わらせた?


以上のように300万枚~500万枚を売り上げるCDが次々と登場した、狂乱のベストアルバムブームでしたが、一人の少女の出現により、終焉を迎えます。宇多田ヒカルです。
GLAYが口火を切り、宇多田ヒカルが終わらせた! 日本で巻き起こった「ベスト盤ブーム」
First Love

1999年3月に発表した彼女のファーストアルバム『First Love』が、日本史上未だ破られていない驚異の765万枚を売り上げたのです。当時16歳だった新鋭アーティストのオリジナルアルバムが、ベテランミュージシャンのキャリアを総決算したベストアルバムを軽々とセールス面で追い抜いていく……。
こんな状況を見せられては、アーティスト側もレコード会社側もベスト版をつくる気が失せて当然というものでしょう。

こうして収束していったベスト版ブーム。CDの売り上げに多くを期待できない今の時代状況を鑑みると、こんな社会現象、二度と起こらないでしょう。
(こじへい)

REVIEW 〜BEST OF GLAY〜 Best of
B’z The Best“Pleasure”
First Love -15th Anniversary Edition- (期間限定生産盤)(DVD付) CD+DVD, Limited Edition
編集部おすすめ