雨が降る真冬の早朝から、穴場のはずの最寄りのおもちゃ店の大行列に並ぶも目の前で完売した悲劇が思い出される…。
「今回の仲間たちは、なんと、自分たちの意思を持ち、自分たちで考えて戦闘してくれるぞ!!これが、AIと呼ばれる人口知能だ!!」の説明に期待は高まる!
毎日のニュースで目にすることが多くなったAI(人工知能)関連の話題。
AI家電も続々登場し、日々身近になっていく印象。
AIが注目されるようになったのは、Siriがスマホに搭載され始めた2011年ごろからだろうか。いずれにしても、21世紀になってからのイメージだろう。
しかし、筆者のようなアラフォー世代は、子供の時点でAIの洗礼を受けている方が多いのではないか。
なにしろ、あの超人気ロールプレイングゲーム(RPG)『ドラゴンクエスト』で、AIの素晴らしさも歯がゆさも体感しているのだから……。
ファミコンではシリーズ最終となる「ドラクエ4」でAIを搭載
ドラクエシリーズが国民的RPGであることに異論はないだろう。
ファミコン&スーパーファミコン時代の発売日の大行列やお祭り騒ぎはトップニュースになるほど。「ドラクエ狩り」なんて言葉も生まれたほどに、誰もが遊びたいゲームだった。
そんなドラクエでAIが採用されたのは、ファミコンでの最終作となる90年2月発売の『ドラゴンクエスト4 導かれし者たち』。
『3』までの「ロト三部作」とは異なる新しい物語であり、全5章のオムニバス形式を採用するなど、新しい試みが満載の意欲作だ。
仲間たちが各章ごとに主役になっており、それぞれのミッションをクリアすると次章に進む流れ。メインの第5章では、ついに主人公の勇者と仲間たちが合流するのだが、一緒に冒険した仲間たちとの再会はグッとくるものがあった。
そして、この第5章の戦闘モードにAIが採用されていたのである。
超最新のハイテクプログラム! それがAIだ!
どんなAIかの説明は、週刊少年ジャンプ編集部・編『ファミコン奥義大全書 ドラゴンクエスト4 導かれし者たち』から引用しよう。
この頃の少年ジャンプ誌面でのゲーム紹介コーナーは一世を風靡した「ファミコン神拳」ではなく「ファミコン快盗 芸魔団」になっていた。
AIというのは超最新のハイテクプログラムのこと!! 簡単に言えば人工知能という意味だぜ!! 知能というぐらいだから、自分で考え、判断し、勉強して行くスゴいヤツなのだ。今までのゲームのように単純にプログラムされたことをくりかえすのとは訳が違う! 4の勇者以外の7人にはそれぞれ独自のAIが組み込まれているから個性もちゃんとある!! これはもう本当の生きている仲間がいるのと同じことだと言えるぜっ!! それぞれの仲間とのチームプレイもまさにリアルそのものだ!! 一度体験すれば、キミもAI戦闘のスゴさを実感することができるだろうっ!!
「超最新のハイテクプログラム」にくすぐられる中2心!(筆者はすでに当時高1)
圧倒的な勢いと熱量でAIの素晴らしさを畳み掛けているが、8bitのファミコンではさすがにここまで高性能ではない。
しかし、SF世界の代物のようなAIを体感できることは、ゲームの新時代を感じさせるロマンにあふれていたのである。
1~4章があったからこそ感情移入できた「AI戦闘」
いわゆる「AI戦闘」は、主人公の指定した作戦コマンドに従って仲間キャラたちが自動で行動する仕組み。これにより、プレイヤーの操作が簡略化され、戦闘がスピーディーになるというメリットがあった。
もし、途中で仲間になったキャラがいきなり自分で勝手に行動したら、プレイヤーは感情移入しづらいはずだ。
しかし、1~4章までで仲間になるキャラを体験しているだけに、そのキャラの旅の目的や能力もすでに把握済みで、思い入れも十分。
勝手に動くのが感情移入できるキャラだからこそ、AI戦闘の価値と意味があったのである。
なぜクリフトはボスキャラにザラキを連発したのか?
だが、仲間キャラが必ずベストな行動を取るわけではない。
むしろ、思い通りに動いてくれないもどかしさの方が記憶に残っているのではないか。
当時よくネタにされたのが、神官クリフトのマヌケさだ。
ザコ敵はともかく、中ボスやラスボスに効くわけがない即死呪文「ザラキ」の連発は、多くのプレイヤーをイラ立たせたと思う。(攻撃呪文がザキ系しかないので、「ガンガンいこうぜ」のときは特に顕著だった)
その無駄だらけの行動には、AIの仕組みが大きく関わっているようだ。
このAIには、敵モンスターの情報や能力がインプットされておらず、戦闘経験を積むなかで効果的な呪文や弱点を学んでいく「学習システム」が採用されていたのである。
つまり、同じモンスターと何度も戦うことで、戦闘が効率よく洗練されていく仕組みだ。
ボスキャラとは基本的には1回きりの勝負のため、学習システムが反映されない。
そう、クリフトのザラキ連発は学習中ならではの行動だったのである。
説明書では、中ボスなどに全滅させられた際のリセットをしないよう呼びかけている。AIが学習している敵の弱点もリセットしまうためだ。
しかし、全滅のペナルティは手持ちのゴールド半分。仲間たちも生き返らせなければならない。
AIの学習を優先するよりは、リセットを選ぶプレイヤーが圧倒的に多かったはずだ。実際、筆者もそうだった。
でも、このマヌケさあってこそのクリフト。鳥山明先生のキャラデザインが生真面目そうな雰囲気なのもあって、そのギャップをイジられることも多く、『4』のメンバーの中では1番の愛されキャラになったのである。
AI戦闘はその後のシリーズでも採用されているが、「めいれいさせろ」コマンドを追加することで「マニュアル戦闘」もできるように改良されている。プレステ等のリメイク版『4』も同様で、格段にユーザーフレンドリーな設計に進化した。
ドラクエシリーズ初のAIの評価は「否」が上回ったのは間違いないだろう。
当時、ドラクエの生みの親でありシナリオライターの堀井雄二氏はAIを導入するにあたって、「あまり利口すぎると逆につまらなくなっちゃう部分があるので、それに人間味をプラスしなくてはいけないんですよね」と語っているが、筆者的には、これからのAI社会に対する早すぎる警鐘のような気がしてならないのである。
(バーグマン田形)