一見、「お笑い」と呼ばれる世界が和気あいあいとした馴れ合いの仲良し社会に見られるが(以下中略)、緊張状態の対立の中で、お互い牽制しつつ微妙なバランスを保ちながら陣取り合戦をしているのである。(浅草キッド著『お笑い 男の星座』より)

考えてみれば、芸人の多くが相当の覚悟で芸の世界に飛び込んでいるのです。
浅草キッドがいうように、仲良し組織なはずがありません。数多のライバルたちに先んじて売れっ子となるため、ステージの裏側でギスギスしていたとしても何ら不思議ではないでしょう。

かなり尖がっていた昔のダウンタウン


ギスギスしていたといえば、昔のダウンタウンはとてつもなく殺気立っていたと伝え聞きます。おそらく、世間が思うより下積み期間が長く、NSCで同期のトミーズやハイヒールが先に売れていた彼らのこと。誰よりも「売れてやろう」と闘志を燃やしていたに違いありません。
それに、まだ2人が「ライト兄弟」と名乗っていた時、ネタ見せ番組で漫才を披露した際、司会の横山やすしに「お前らの漫才はチンピラの立ち話や!」と恫喝されるなど、なかなか自分たちのスタイルが世に受け入れられなかった葛藤もあったのでしょう。

このような不遇の時期を反骨精神で乗り越えてきたであろう彼らが、現場で怖くなるのもある意味当然。その象徴的なエピソードを『ごっつええ感じ』で共演し、25年来の戦友として今でもダウンタウンの2人と親交のあるタレントのYOUがかつて語っていました。

2ヶ月間ガン無視されたYOU


両者の出会いは、1990年、MBSのラジオ番組『ヤングタウン木曜日』でのこと。ダウンタウンがMCを務める同番組に、YOUがアシスタントとして起用されたのがきっかけでした。

普通、ラジオ番組に新しいレギュラー出演者が登場するときというのは、「今週から新しくアシスタントになった○○でーす」のような感じで、MCが一言紹介するのが通例。ところが、番組スタート後数十分間、ダウンタウン2人だけでしゃべり続けて、一切YOUを含めたアシスタント陣に話を振らなかったといいます。
しびれを切らしたYOUが「すいません、自己紹介してもいいですか?」と話に割って入ると「チッ…したらええやん!」と、若干キレ気味の返答が返ってきたとのこと。「よろしくお願いしまーす」と自己紹介して一件落着……とはいかなかったようで、なんと、そこから2ヶ月もの間ガン無視。
そのおかげでYOUは、毎週木曜日になると血尿が出たというのだから、そのプレッシャーたるや半端ではなかったのでしょう。

ダウンタウンとYOU、ターニングポイントは?


さて、このような緊張関係を続けたYOUとダウンタウンですが、浜田の結婚が決まったくらいのタイミングで放送された『ヤンタン』にて、一つのターニングポイントが訪れます。
普段は番組全体の進行をしつつ、鋭い突っ込みをバシバシ松本に入れる彼も、この日ばかりは幸せボケしていたのでしょうか。YOU曰くトークが「フワっとしていた」といたとのこと。「ここしかチャンスはない!」そう思って話に入っていったYOU。この時の勇気が功を奏し、そこから彼女はダウンタウンに話題を振られるようになり、いつしか「仲間」になったといいます。

「仲間」になった後も、『ごっつ』にて厳しいプレッシャーに晒され続けた結果、今でもバラエティの第一線で活躍しているYOU。面白い番組をつくるため、さらにはタレントが成長するために、この緊張状態は必要不可欠だったのでしょう。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりクイック・ジャパン 104
編集部おすすめ