1996年、NHK大河ドラマ『秀吉』で、主演俳優・竹中直人の男性器が修正なしで放送されてしまうという珍事が発生した。しかもスタッフがたまたま修正し忘れたのではなく、NHKは映っていることを知っていてそのまま放送したのだから前代未聞だ。


第1話で発生した露出事件


事件は放送初回の第1話で発生する。大仁田厚が演じる蜂須賀小六が、ふんどし一丁の秀吉を担ぎ上げた瞬間だった。ふんどしの横から竹中のイチモツが露出したのだ。一瞬の出来事ではあったが、誰の目にもはっきりと映し出されていた。

当時はまだインターネットが普及していなかったため、ネット上で話題騒然といった事態はさけられた。しかし放送翌日、全国の職場・学校・家庭は「あれは見えていたよね?」という話題で持ちきりとなった。

そしてここで、視聴者にひとつの疑問が発生する。
竹中の横チンが無修正で放送されたのは、自分の目で見たのだからおそらく間違いない。でもNHKが陰部をボカシなしで放送することなど本当にありえるのだろうか?
生放送でのトラブルなら理解できる。しかし大河ドラマはNHKの顔ともいえる看板番組であり、撮影した映像をスタッフが細かくチェックし編集してから放送しているはずだ。無修正で映っていることなど信じがたい。じゃあ私の見た暴れん棒は幻だったのか? 空想上のおいなりさんなど存在するのか?

露出事件の真相をチーフプロデューサーが語る


真相解明に立ち上がったのは写真週刊誌『FRIDAY』だった。『FRIDAY』は、「NHK『秀吉』で露出したアブナイ画像」という特集を組み、『秀吉』チーフプロデューサーへの取材に成功した。

『FRIDAY』に対し、チーフプロデューサーはあっさりと事実を認めた。
チーフプロデューサーによると、編集段階ですでにスタッフ数人から指摘はあったという。
しかし竹中演じる秀吉は、ふんどし一丁で恥も外聞もなく奮闘する設定であり、ボカシを入れることで演技の勢いがそがれてしまう可能性がある。視聴者がボカシに気を取られて、物語の流れが遮断されてしまう可能性もある。そのため許容範囲ということでそのまま放送したということだった。

これはNHKの本気とでもいうべき快挙である。ドラマのおもしろさのためになら、男性器を無修正で放送することもいとわないのだ。


もうひとつの露出事件「奈良健康ランドCM」


生放送以外で、無修正の下半身がテレビに映った事例はほとんどない。そんな中、『秀吉』以外で確認できるのは、関西ローカルで放送されていた「奈良健康ランド」のテレビCMだ。『秀吉』と同時期の90年代後半に頻繁に放映されていたCMで、落語家の笑福亭学校がプールから全裸で飛び出してくるというものだ。(実際は飛び込んでいる映像の逆再生)

笑福亭学校は、とにかく明るい安村のように片足を曲げて股間が映らないポーズをとっていた。しかし『探偵ナイトスクープ』(朝日放送)に、「奈良健康ランドのCMにはキ○タマが映っている」という視聴者からの投稿が届いた。『ナイトスクープ』では、笑福亭学校本人が全裸になり、股間部分に夜光塗料を塗ったうえでCMと同じポーズを取り、真っ暗闇の中の撮影を行った。その結果、暗闇に光る丸い物体が出現し、「映っている」という結論を導き出している。


熱き90年代のテレビ人たち


NHKは、『秀吉』本放送終了後の総集編も無修正で放送している。『フライデー』で検証された後の放送でもボカシを入れなかったのには、NHKスタッフの大河ドラマに対する気概を感じずにはいられない。

奈良健康ランドのCMも『秀吉』も、90年代の熱きテレビ人の心意気が引き起こした露出放送といえそうだ。『秀吉』は放送開始から16年間も映像ソフト化はされなかった。2012年になってやっと発売された『秀吉』のDVDでは、残念ながら問題部分はボカシを入れて修正されている。
(近添真琴)

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