「ナイター中継延長のため、番組を30分繰り下げて放送します」

このテロップ、一昔前まではよく表示されていました。ナイター中継を放送するために、どんな人気の番組も、例外なく後ろ倒しにするなんて、今では考えられないこと。

ですがそれだけ、昔のプロ野球、特に巨人戦というのはキラーコンテンツだったのです。

90年代の巨人戦、視聴率20%超えは当たり前!


実際に90年代(1991年~1999年)における、民放ゴールデンタイムで中継されていた巨人戦の年間平均視聴率は、驚異的なものでした。最低が1991年の17.2%で、最高が1994年の23.1%。これほどの高視聴率を日常的に確保できるとあっては、民放各局がタイムテーブルをずらしてまで長く放送したいと考えるのも当然です。

そのナイター中継を最優先する姿勢が招いた事件が2つ、フジテレビでかつて起こったのをご存知でしょうか?

野球中継が原因! 打ち切りになった『ごっつええ感じ』


1つ目は1997年。9月下旬に放送予定だった『ダウンタウンのごっつええ感じ』のスペシャルが、急遽ヤクルトスワローズの優勝決定戦に差しかえられたときのことでした。特番は翌週放送されることになったのですが、この処遇に激怒したのが、誰あろう松本人志。
この日予定されていたのは『エキセントリック少年ボウイ』のCD発売日に連動した企画。つまり、この日放送しなければ意味がない内容だったのです。それを松本に何の連絡もなしに、フジの独断で放送繰り越しにしたのだから、怒るのも無理はないというもの。

かくして、松本はフジの全番組をボイコット。他の番組へは後に復帰したものの、『ごっつ』を打ち切りにしてしまいます。当然これには、各方面から批判が集中。欽ちゃんこと萩本欽一なども「野球中継への差し替えは当然のこと、松本君のような行動を取ったら笑われるよ」とチクリと指摘しています。


ドラマを中断! またしてもナイター中継を放送したフジテレビ


絶対的権威だったプロ野球も、2000年以降はスター選手のメジャー移籍や球界再編問題などにより、人気が低迷。巨人戦の年間視聴率も1999年の20.3%を最後に、2度と20%台を記録しなくなってしまいました。

そんな最中の2001年。フジテレビにおいて、またしてもヤクルトの優勝決定戦が急遽、番組の予定を変更して放送されます。割りを食ったのは『世にも奇妙な物語』。しかも、『ごっつ』のように差しかえではなく、放送中にインサートするという荒業の被害をこうむったのです。
言うまでもなく、『世にも奇妙な物語』はオムニバス形式のドラマであり、その時に放送されていたのは「仇討ショー」という短編作品。身内を殺された主人公が犯人を追いつめていくという手に汗握るサスペンスだったのですが、ついに主人公が犯人を殺すシーンを迎えた際、突如として「ヤクルト×阪神」戦にスイッチし、そのまま試合終了まで放送され続けたのです。

ヤクルトは、フジテレビと同じフジ・サンケイグループの一員。同じグループ企業として、優勝の瞬間を中継したいという、フジ側の気持ちも分からないではないのですが、ドラマの流れをブッタ切ってまで、強引に野球中継を差し込むなんて……。あまりにも、『世にも奇妙』を楽しみにしていた視聴者の感情を、無視し過ぎではないでしょうか。

以上2つの事件。
プロ野球の人気があまりに凄かったために起こったことなのか、はたまた、フジテレビの視聴者や創り手への配慮に欠いた態度が招いたことなのか。昨今のフジテレビの低迷ぶりを見る限り、どちらかといえば後者に原因を求めることの方が妥当そうですが、果たして……。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより世にも奇妙な物語 ~2012秋の特別編~ [DVD]
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