収録タイトルにはメガヒット作の『ファイナルファンタジーVII(以下、FF7)』もあり、思い出話に花が咲いた方も多いと思う。
「コンビニで買ったなぁ」
そんな方も多かったはず。
コンビニでゲームソフトが購入できたあのころ。あなたは覚えているだろうか。

コンビニで最新ゲームが購入できる画期的な試み
96年2月、スクウェア(現スクウェア・エニックス)は子会社のデジキューブ設立を発表した。簡単に言えば、提携コンビニエンスストアでのゲームソフトの販売を主とした流通会社だ。
コンビニ店頭にはモニターが付いた什器が置かれ、プレステ用ソフトを中心に常時約50タイトルの購入が可能となった。
当初のラインアップは、後に映画にもなったカプコンの『バイオハザード』、ナムコの過去の名作をセレクションした『ナムコミュージアム』など人気作がズラリ。
モニターでは、パーフェクTV!(現スカパー!)を利用した専用の「DigCubeチャンネル」を常時放送。販売しているゲームのプロモーション番組が中心だったと記憶している。
安室奈美恵をフィーチャーしたゲームなど、コンビニ専用ソフトも徐々に登場するが、この時点では静観している方が多かったように思う。
「FF7」で勢いづいたデジキューブ
風向きが一変したのは、超人気ゲームの最新作の登場から。
翌97年1月に発売された、スクウェアの「FF7」である。
デジキューブはスクウェア100%出資の子会社とあって、プロモーションも気合が入っていた。
前述の店頭モニターでは、「FF7」をコンビニで買うメリットを煽りまくった。
コンビニの流通網を使うことで、全国どこに住んでいても発売当日にほぼ確実に手に入る。しかも、朝7時から購入可能。
おまけに、予約購入特典には設定資料などが収められた小冊子が付く。
予約が殺到したのは当然である。
「FF7」は発売週だけで200万本以上を売り上げたわけだが、その初回出荷分の8割がデジキューブを通したコンビニ流通だったと言われている。ゲームがコンビニで買えるようなったことを世間にアピールするには十分すぎる数字だ。
このタイミングで、独自のゲーム攻略本やサントラCDなどの販売もスタート。「ゲームはコンビニで」が当たり前の風景となっていく。
次作「FF8」が予約だけで200万本を突破したのだから、その勢いは本物だったといえよう。

あれ? あえてコンビニでゲームを買う必要性ってなに……?
しかし、コンビニでのゲームソフト販売は新品の定価が原則。中古ゲームショップやディスカウントショップが元気だった時代、一般層はともかく、ゲームファンにはどうしても割高に感じられてしまう。
ライバルの任天堂のソフトを取り扱えなかった点や、ネット通販がシェアを伸ばしてきた時代性もデジキューブの存在意義に待ったをかける。
ファイナルファンタジーシリーズのような超人気作や予約特典目当てでもない限り、あえてコンビニを選択肢にいれる必要性がないのである。
他にも、従来のゲーム業界になかった返品制度が結果的にもたらした収益率の低下など、さまざまな要因が絡み合ってデジキューブは衰退して行ってしまうのだが、その流れを早めてしまったのが、皮肉にもファイナルファンタジーであった……。
FFの映画とゲームの延期が倒産に追い込んだ!?

2001年に公開された、映画『ファイナルファンタジー』。
世界初のフル3DCGを採用したハリウッド映画であり、制作費は破格の1億3700万ドル。
映画史に残る大作として期待されたのが、残ったのは興行的な失敗だった。
アメリカでも日本でも大コケし、スクウェアは130億円にも上る特別損失を計上。「史上最も失敗した映画」としてギネスブックに掲載されるほどであった。
スクウェアが負った大ダメージは当然、デジキューブを窮地に追い込む形になった。
そして、止めを刺したのもまたファイナルファンタジーだった。
2003年11月、プレステ2用として開発されていた「FF12」の発売延期が決定。大幅な売り上げ増が期待された起死回生の一手を逃し、デジキューブは倒産してしまったのである。
レンチンした熱々の弁当の上に無造作にゲームが置かれる。
当時は笑えなかった光景も、今となっては懐かしさがこみ上げるのである……。
(バーグマン田形)