日本で社会現象となっているWBC。しかし、アメリカでは未だに注目度が低いようです。
野球の本場、しかも主催国なのに、いったいなぜでしょうか?
さまざまな原因が考えられますが、そのなかの一つに「ライバルの不在」というのも言われています。

今から30年ほど前まで、アメリカの敵はソ連でした。第二次世界大戦後から続く両国家の因縁は、“冷戦”と呼ばれ、主に軍事・ロケット開発の分野で熾烈な競争を展開。
自然と両国民の中に疼きだした闘争心はスポーツの分野でも向けられ、オリンピックなどの国際大会ではメダルの数を競い合っていました。

現在ではこうした憎き好敵手が不在のアメリカとは反対に、日本では韓国という因縁浅からぬ隣国の存在があります。野球の分野で実力伯仲の関係にあり、2006年の第1回WBCにおいては3度も対戦しました。


イチローの何気ない一言、韓国国内で波紋を呼ぶ


日本と韓国の因縁は、今更、説明するまでもないでしょう。スポーツの試合でも互いが抱く強烈な敵対心は凄まじく、試合会場にはある種の殺気が漂っています。その雰囲気は、さながら民族闘争の趣も。

そんなセンシティブな日韓関係などどこ吹く風とばかりに、韓国に舌戦を仕掛けたのが、日本の至宝・イチローでした。

「(韓国、台湾などには)向こう30年、日本にはちょっと手を出せないなみたいな、そんな感じで勝ちたいなと思ってます」

第1回WBC開催直前の会見において、イチローはこのような意気込みを語りました。彼としては、第1次ラウンドで戦うアジアのライバルたちへ、軽い冗談交じりのジャブを放った程度の認識だったでしょう。
しかし、この発言は「韓国は30年間、日本に勝てない」と解釈されて韓国国内で報じられたため、大きな波紋を呼ぶこととなります。


韓国応援団がイチローに激しいブーイングを浴びせる


まず怒ったのは韓国選手団。「イチローの話を聞いて、必ずイチローを負かして日本に勝ちたいと思った」と語った投手・孫敏漢(ソン・ミンハン)をはじめ、敵意剥き出しの状態となります。

また日韓戦のスタンドには、「30年間、韓国に手を出せないのは日本の方だ」と書かれたプラカードが掲げられ、イチローが打席に立つと激しいブーイングが浴びせられるなど、明らかに、韓国側をヒートアップさせる結果となってしまいました。

自国の国旗をマウンドに立てた韓国代表


こうして戦意高揚した韓国を前に、侍ジャパンは苦戦を強いられます。WBC第1ラウンドでは、2-3で敗戦。続く第2ラウンド第3戦で対戦したときも、やはり0-2で敗北を喫してしまいます。

この連勝がよほど痛快だったのか。日本に勝利した後、韓国代表選手たちはマウンドに自国の国旗を立てるという、非礼とも取れる行為を敢行。

敗戦後、イチローは日本ベンチで放送禁止用語と思しき言葉を吐き捨て、試合後のインタビューでも「僕の野球人生で最も屈辱的な日ですね…」と悔しさを露にしました。

WBC人気は韓国とのライバル関係によって生まれた?


この「屈辱的」発言も、韓国メディアにより「韓国に負けたことが屈辱」と曲解されて報道。3度目の対戦となる準決勝を前に、ある韓国のスポーツ紙では「(日本を)30年間泣かせてやる!」との見出しが掲載されるなど、ますます韓国国内における、反日感情・反イチロー感情が高まりを見せます。

しかしイチローもひるむことなく、試合前の会見で「3回も同じ相手に負けるということは決して許されない」と決意を表明。そして、言葉通りに、準決勝は6-0で韓国を撃破。その勢いに乗り、決勝でもキューバを相手に勝利し、見事、WBC初代王者に輝いたのはご存知の通りです。


続く第2回大会でも、9試合中決勝を含む5試合にも及ぶ韓国との死闘を制し、再び優勝トロフィーを獲得した日本代表。
現在、日本においてWBCが国民的関心事となったのは、2大会連続優勝という実績に加え、過去の宿敵・韓国との戦いが強烈な「侍ジャパン愛」を育んだことも、一因なのではないでしょうか。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりSports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2006年 4/13号 [雑誌]