1993年、Jリーグ初年度の鹿島アントラーズに1人のサッカー選手がやってきた。ジーコが連れてきた男の名は「アルシンド・サルトーリ」。
アルシンドは移籍するやいなやゴールを量産し、一躍日本サッカー界のスター階段を駆け上がっていった。

一度見たら忘れられないその風貌


アルシンドのサッカーにおけるその嗅覚の鋭さ、技術の高さは当時のサッカーファンの多くが知るところだった。しかし、アルシンドはサッカー技術に加えて人々の記憶に残る光り輝くものがあった。その独特の風貌だ。

スポーツ選手に珍しい長くサラサラな髪の毛、それなのに頭頂部がハゲ。フランシスコ・ザビエルを彷彿させる特徴的な髪型(と意外な声の高さ)は妙な親しみやすさを感じさせた。

覚えていますか?「アルシンドになっちゃうよ」


なぜか親近感が湧いてくる風貌のアルシンド。もちろんかつらメーカーも黙っちゃいなかった。
水面下でアルシンド獲得に向けてどんな動きがあったのかはわからないが、アデランスがアルシンドのCM起用に成功した。

「アルシンドになっちゃうよ!」

後世にまで語りつがれるアデランスの伝説的CMで生まれたセリフだ。当時は珍しかった自虐ネタだが、これが笑えるのもアルシンドの陽気な性格のおかげなのかもしれない。

ハゲの兆候が見え隠れするサラリーマンに対して、いくら陽気にとはいえ「アルシンドになっちゃうよ!」とアルシンド本人に言わせるなんて…。そしてそんな撮影をOKするアルシンド本人も含めて関係者全員が良い意味で頭がおかしいとしか言いようがない。

あと「友達ならあたりまえ」というフレーズの独特すぎるイントネーションも耳についてしょうがなかった。


アルシンド邸はアデランスのおかげ?



アルシンドは現在、故郷のブラジルで農場を経営する傍ら、義父が経営する会社の役員を務めるなど多方面で活躍する実業家だ。そんな彼の自宅は、プールのほかサッカーコートも併設しているというゴージャスなもの。「日本で稼いだお金のおかげ」というアルシンド邸だが、アデランスCM出演のギャランティは当時の鹿島アントラーズの年俸より良かったそうだ。まさにアデランス御殿とも言ってしまっても良いのではないだろうか。

「アルシンドになっちゃうよ」というキャッチフレーズは、世のハゲに表面的な明るさだけでなく、ハゲをネタにすれば金になるという希望の光を見せてくれた。51歳となった現在のアルシンドは、当時ほど特徴的なハゲではないが、きっちり進行しているように見える。
そろそろまた、「アルシンドになっちゃうよ!」と今度はちょっと悲壮感漂うCMの制作が実現しないかと密かに期待している。

(空閑叉京/HEW)