今思えば、90年代後半における広末涼子の人気は、凄まじいものでした。

CM、ドラマ、バラエティ。
何を見ても、どのチャンネルを付けても、広末・広末・広末……。
『MajiでKoiする5秒前』で歌手デビューすればオリコン1位、『20世紀ノスタルジア』で映画初主演を飾れば映画新人賞を総なめ、早稲田大学に入学すれば登校日に3000人オーバーのギャラリーが集結するなど、その勢いはもはや社会現象。

そんなスター街道を邁進していた頃の広末は一度、世界の「ヒロスエ」となれる千載一遇のチャンスを得たことがあります。それが本稿で紹介するフランス映画、『WASABI』への出演でした。

国内の映画賞を総なめ! 若かりし日の広末涼子


1999年。この年は女優・広末涼子にとって飛躍の年でした。高倉健主演の『鉄道員』では日本アカデミー賞 優秀助演女優賞を受賞。
主演を務めた『秘密』では、日本アカデミー賞優秀主演女優賞、さらには、シッチェス・カタルーニャ国際映画祭において、最優秀主演女優賞獲得という快挙を成し遂げたのです。

この時まだ19歳ながら、国内における役者としての栄誉を飽食し尽くしたといってもいい当時の広末にとって、日仏合作映画『WASABI』への主演起用はなんとも魅力的なプロジェクトだったに違いありません。

「国際派女優・広末涼子」が誕生?


映画『WASABI』において、広末と共に主演起用されたのはジャン・レノであり、脚本と製作を手がけたのはリュック・ベッソン。この2人の名を聞いて、不朽の名作『レオン』(1994年公開)を想起する方も多いことでしょう。

ジャン・レノ扮する殺し屋、レオンの相棒といえば、当時13歳だったナタリー・ポートマン演じるマチルダ。大人びた容姿と聡明さ、そして抜群の美貌を兼ね備えながら、同時に、年相応のチャーミングさ・あどけなさも持ち合わせていた彼女。“ギャップ萌え”なそのキャラクターは、世界中を夢中にさせたものです。

そんなマチルダ役のナタリーと比較してジャン・レノは「涼子も、このままいけば、ナタリーと同じようになれる原石だ」と発言。

また、ナタリーだけでなく、『ニキータ』のアンヌ・パリロー、『フィフス・エレメント』のミラ・ジョヴォヴィッチなど、リュック・ベッソンに見出された女優たちが次々とスターダムにのし上がっていった実績も、「国際派女優・広末涼子」誕生の期待感を高める原因となっていました。

つまみがわさびだけ……トンデモ日本描写だらけだった『WASABI』


しかし、この『WASABI』、内容はかなり微妙。
フランスの警察官・ユベール(ジャン・レノ)と彼の娘・ユミ(広末涼子)が、日本を舞台にヤクザと戦う本作は、「屈強な男と可憐な少女のアクションモノ」という点ではまんま『レオン』なのですが、コメディ調の作品ということもあり、いかんせん全体的にチープな雰囲気。

そのB級感は、「新宿へ向かう」と言って着いたのが秋葉原だったり、ヤクザが黒服にサングラスという漫画『カイジ』に出てくるようなステレオタイプ的ビジュアルだったり、居酒屋のつまみがわさびだけだったりという、トンでも日本描写によってさらに増長されています。

こうした事情もあり、フランス本国では150万人を動員するという、まずまずのヒットを飛ばしたようですが、日本ではあまりウケず。

ナタリー・ポートマンになれなかった広末涼子


また広末自身も、この時期より度々「奇行」が報じられ、『WASABI』の製作発表会見では突然泣き出したりするなどのエキセントリックなイメージの定着により、タレントとしての勢いを失っていきました。
彼女が国際派女優として真に評価されるのは、2008年の映画『おくりびと』まで待たねばなりません。

原因は作品のクオリティの低さか、あるいは本人のスキャンダルか……。いずれにしても、ナタリー・ポートマンのような、世界的スターにはなれなかった広末涼子。
けれども、「出演作をビデオで見たら、際立つ存在感がある。それで彼女を起用した」とリュック・ベッソンに言わしめたその存在感は本物。『WASABI』は、そんな若かりし広末の魅力を堪能できるという意味でも、見る価値のある作品といえるでしょう。

(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりWASABI [DVD]