
子どもから大人まで、老若男女に愛されるゲームといえば『スーパーマリオブラザーズ』シリーズだろう。ファミコンソフトとして登場以来、アクション、パズル、レーシング、スポーツなど、様々なジャンルに進出。
そんな任天堂のキラーコンテンツが、93年にハリウッドで実写映画化されると耳にしたとき、筆者は期待で心躍っていた。いざ実写映画化されたものを目にしたとき、その期待は驚愕に変わった。
それは『スーパーマリオ』の名前を冠した“他のなにか”だった

『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』という映画タイトルからして、どうもマリオらしくない禍々しいものに感じた。こういうときの直感というのは得てして正しいものだ。その世界観は、とてもマリオを題材にしているとは思えないものとなっていた。
マリオとルイージは兄弟だが、映画では実の兄弟ではないという設定になっていた。ルイージは孤児院からマリオに引き取られて育てられた血の繋がりのない兄弟…ってそれもう親子やんけ! と思わずツッコむ。さらにマリオの恋人はピーチ姫ではなく、『ドンキーコング』で囚われの身となっていたヒロインのポリーン(つまりは元カノ?)だったりと、予想外の設定に思わずたじろぐ。
まだまだ終わらない。クッパは人間の姿をした恐竜族で、魔界帝国の大統領という設定のせいか、それとも見た目が白髪だからか、権力にとりつかれたただのおじいちゃんで凄みはまったくのゼロ。亀感もゼロ。ヨッシーにいたってはクッパのペットでリアル恐竜と、どう見てもB級映画だった。
50億でぶっとんだB級映画が製作されたと思えば満足
50億円という巨額の制作費が投入されて製作された同映画は、ほとんどのマリオファンにとって「これじゃない感」を抱かせた作品となってしまった。当然と言おうか、予告を見た時点で見限っていた人も多かったのだろうか、日本での興行収入は3億円と決して成功とは言えないものだった。もちろん本国アメリカでも駄作と呼ばれてしまった。
マリオを演じたボブ・ホスキンスも「僕の生涯で一番最悪な作品だった」と語ったほどだ、演者にとっても思っていたものとかなりの違いがあったのだろう。しかし、「これはスーパーマリオとは無関係の、“人と恐竜の戦いの物語”だ」という見方をすると、なぜだか途端に面白く味のある映画に見えてしまうから不思議だ。もっとも、ゲーム制作者の宮本茂は同作をお気に召したようだったが…。
現在、アメリカのアニメーション制作スタジオ「イルミネーション」と任天堂が共同で、『スーパーマリオブラザーズ』のアニメ映画を制作している。公開予定は2022年。イルミネーションの代表もハリウッド版実写映画の失敗に言及しつつ、宮本氏の声を作品に反映しながら作品作りを行っているという。ハリウッドでの失敗という教訓が、このアニメにどのように活かされるのかが楽しみで仕方ないところだ。
(空閑叉京/HEW)