大人向けすぎた仮面ライダー「真・仮面ライダー」のリアルな設定
画像はAmazonより

今も昔も、仮面ライダーは子どもたち憧れのヒーローだ。筆者が子どもの頃は『仮面ライダーBLACK』、それに続く『BLACK RX』に憧れを抱いていた。


生誕20周年記念企画のVシネマ


89年に『仮面ライダーBLACK RX』の放送が終了すると、平成ライダーと呼ばれる『仮面ライダークウガ』の放送がスタートするまでの11年間、テレビで仮面ライダーシリーズが制作、放送されることはなかった。

しばらくの間テレビから離れていた仮面ライダーだが、その間にも仮面ライダーはオリジナルビデオ、映画には登場している。なかでも、92年に仮面ライダー生誕20周年を記念してオリジナルビデオ作品として制作された『真・仮面ライダー 序章』に登場する仮面ライダーシンは、ライダー史上最も異色の仮面ライダーだった。

大人向けという罠


仮面ライダーは仮面をかぶった正義のヒーロー。大人に教わるまでもなく子どもは自然と理解している。だから『真・仮面ライダー』を見るまでは、当然ながら『真・仮面ライダー』の主人公も同じだと思っていた。

しかし、実際は違った。

物語冒頭、怪しい影の犠牲になる女性、仮面ライダーではよくある光景だ。
しかし、これまでの仮面ライダーと違ったのは、人間が襲われるその描写がやけにリアルだったこと。下着をあらわにしながら殺される女性、のどを切られ、血しぶきをあげながらバタバタと地に伏す警察官、殺戮の限りを尽くすバッタ怪人。しまいには裸体まで出てくる同作は、これまで見てきたどんな仮面ライダーとも違うリアルさがあった。そう、早い話が『真・仮面ライダー 序章』は大人向けだったのだ。

仮面ライダー1号がすべての仮面ライダーの原点であることに対して、仮面ライダーシンは仮面ライダーが仮面ライダーと呼ばれる前の“根幹”であり、仮面ライダー0号という位置づけであった。仮面ライダーが正義のヒーローとしての自覚を持つ前の物語であり、だからこそバッタの姿をした怪人のような様相だったのだ。
そう、前述のバッタ怪人こそ仮面ライダーシンだった。

新しい仮面ライダーの情報を見聞きし、ウキウキしながらレンタルビデオ店に借りに行った子どもを誰が責めることができようか。

ハブりにハブられる稀有な存在


仮面ライダーシンの存在は、大人はもちろん当時の子どもたちに大きな影響を与えた。仮面ライダーの源流でありながら、見た目のせいか同年に発売されたオリジナルビデオ『東映怪人大図鑑』(東映ビデオ)において怪人として紹介されてしまったり、ヒーローショーでは子どもが怖がるという理由からか、歴代仮面ライダーが勢揃いするようなヒーローショーでも登場しない(できない)というケースも少なくなかったようだ。

他のライダーとは違い、様々な場面で仮面ライダーとして登場することがなかった不幸かつ稀有な存在、仮面ライダーシン。彼が仮面ライダーの仲間として初めて共演を果たしたのは、その登場から16年後のこと。劇場版『仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』において、ズラリと勢揃いした仮面ライダーたちと並んだシンの姿を目にしたとき、筆者は子の成長を見届けたかのような、なんともいえない感慨深さを感じた。
とはいっても、左端に陣取った姿は他のライダーたちと比べてやはり異質、妙に目立ってしまっていたが…。

続編は夢オチ


大人向けすぎた仮面ライダー「真・仮面ライダー」のリアルな設定
画像はAmazonより

『真・仮面ライダー 序章』はタイトルに序章とあるように、企画当初同作は3話から5話程度のシリーズ化が検討されていた。オリジナルビデオの売り上げ自体は好調だったが、都合により続編が作られる機会がなくなってしまった未完の大作だ。

『ネット版 仮面ライダーディケイド オールライダー超スピンオフ』では、陳情編「陳情!真・仮面ライダー第1章!!」として、仮面ライダーシン自身が『真・仮面ライダー 序章』の続編の制作を東映に直接陳情しに行き、続編の制作が決定、子どもたちの人気者に…という作品が公開された。結局それは夢だった…という作品なのだが、見た目と行動のギャップでシンは新たなファンを獲得している。

ネット版では仮面ライダーシンの続編は夢オチという結果に終わったが、今からでもファンはそんな彼の続編をほんの少しだけ期待している。


(空閑叉京/HEW)