「日本のロックンローラーは、もっと政治的発言をするべき」

あれは今から13年前、2004年の正月のこと。内田裕也とアントニオ猪木による『THE異色対談』と題された深夜の対談番組で、内田がこんなようなことを言っていました。

彼が言うところによると、英国ではミック・ジャガーもポール・マッカートニーも、自身の支持政党を公言してはばからないのだとか。さすがは、かつて東京都知事を志した男。破天荒で浮世離れしたイメージとは裏腹に、しっかりと政治への問題意識をもっているようです。

裕也さんの言うとおり、たしかに日本においてミュージシャンの政治的コメントは、決して世間的に喜ばれる類のものではありません。それどころか、政治色の強い楽曲さえも、忌避する傾向にあるというのが実情でしょう。

忌野清志郎が歌ったパンク・ロック版『君が代』


1999年、故・忌野清志郎が、アルバム『冬の十字架』を発表したときもそうでした。同作には、当初収録される予定だった、幻の楽曲が存在します。それはパンク・ロックテイストにアレンジされた『君が代』です。

収録されなかったのは、リリース直前になって発売元であるポリドール社が収録中止を発表したから。理由はもちろん、波紋を呼ぶことが予想されたためです。
やむなく、インディーズのSWIM RECORDSレーベルから発売されることとなったこの問題作が、再びの目を浴びたのはそれから4年後。日本武道館で開催された『アースデイ・コンサート』においてでした。

問題作『あこがれの北朝鮮』を披露


『アースデイ・コンサート』は、地球環境について考える記念日『アースデイ』に合せて、TOKYO FMが毎年開催している音楽イベント。1990年から始まり、2011年の東日本大震災以降は『EARTH×HEART LIVE』と名称を変えて現在も行われています。


2003年4月22日。同イベントに登場した清志郎は、ボブ・ディランの『風に吹かれて』を歌唱したあと、自身の代表曲『スローバラード』を歌う予定になっていました。
ところが実際に披露したのは、覆面バンド『ザ・タイマーズ』として活動していたころの楽曲『あこがれの北朝鮮』。「北朝鮮はいい国♪」「キム・イルソン キム・ジョンイル♪」と熱唱したあと、「イラク戦争でちょっと影が薄くなったなと思って『あこがれの北朝鮮』、久々にお送りしました」と発言し、多くの観客が騒然とします。

急な曲目変更……TOKYO FMは放送内容差し替えで対応


騒動はこれだけでは終わりません。そこから2曲続けて歌ったあと、名曲『雨あがりの夜空』のイントロをちょっとだけ弾いたと思ったら、突如、爆音を響かせてあの幻の曲を熱唱。そう、あのパンク・ロックテイストの『君が代』です。

こうした清志郎のスタンドプレイに、慌てふためいたのは、ライブを生中継していたTOKYO FM。このまま放送してはまずいと考えたのか、ただちに女性アナウンサーによる公演の趣旨説明へとスイッチ。
アナウンサーが諸外国の実施している環境問題への取り組みなどについて話している最中、BGMのように小さく聞こえる清志郎のシャウトが、なんともシュールでした。

その後、登場したメインアクトの一人・佐野元春が「自由に歌える国に生まれてよかった」というナイスフォローをしたものの、一連の騒動が主催者側にとって有難くない出来事だったことには変わりありません。かくして、清志郎はその後二度と、『アースデイ・コンサート』に呼ばれることはありませんでした。

(こじへい)

※イメージ画像はamazonより忌野清志郎 完全復活祭 日本武道館 2枚組ライブアルバム Live
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